第4話 お鐘と遠い星の仲間たち

 二人が小屋に近づくと、物音に気づいたのか戸が開き、着物姿の若い男が出てきた。速登はやとは丁寧に呼びかける。

「すみません、ここはどこですか」

 男は厳しい表情をした。髪は速登のような癖のある巻き毛で、光に照らされた肌は緑色がかって見える。その視線は速登の持つ「星のつるぎ」を見ているようだ。速登は敵意はないことを示そうと手を広げた。

「僕たちは祖谷いやの里から来ました」

 鐘子しょうこも戸惑いながら同じ仕草をする。

「月食の晩に踊ってたらこの剣が光って、気がついたら森の中にいたんです」

「そうか、剣の力でここに呼ばれたというのか」

 男は二人をしばらく見つめ、敵意はないと判断したようだ。懐から速登の持つ「星の剣」と同じ剣を取り出す。

「剣が光ったので、星の仲間が来たと思ったのだが、君たちはここではない祖谷から来たようだな」

 すると、男の背後から着物姿の若い女が顔を覗かせた。

乃地日のちひさん、迷い人かね」

「乃地日さん?」

 鐘子が驚きの声を上げる。速登は小声で鐘子にささやいた。

「もしかしたら、僕たちは乃地日さんの時代にタイムリープしたのかもしれません」

「まさかそんな」

 立ちすくむ二人に娘が声をかけた。

「よかったら中で休んでや」


 小屋の入口には土間があり、かまどの脇に鉈や薪が置かれている。まるで時代劇に出てくる農家のようだ。速登と鐘子は勧められるままに板間の上がり口に腰掛けた。

「僕は斗南となん速登と言います。古文書にあなたのことが書かれていて、ずっと調べていました。この『星の剣』は我が家に昔から伝わっていたものです」

 改めて速登が挨拶した。男は自分の『星の剣』を見つめながらうなずく。

「では君たちは、『星の剣』を持っていた者の子孫だというのか」

「うちは山乃端やまのは鐘子。お寺の鐘の子どもで『しょうこ』と読むんよ」

 鐘子の自己紹介に反応したのは若い女だった。妊婦らしく、着物の腹部が膨らんでいる。

「へえ。うちの名前もお寺の鐘の『おかね』なんよ。この人は乃地日さん。半年前の月そくの晩、星が落ちた山の中に倒れてたんや」

 お鐘は乃地日を見る。乃地日は上を指さしながら説明した。

「君たちには信じられん話かもしれないが、我はノチィヒという遠い星から来た。我らの乗った船で争いが起こり、仲間と共に小舟でこの星に逃れたが、途中で仲間とはぐれてここに落ちたのだ」

「では乃地日さんは、あの夜空のはるか向こうから来たんですね」

 速登は乃地日の差す指の先を見上げた。


「お鐘は傷ついた我をこの小屋に運び、『乃地日』と名付けて熱心に介抱してくれた。我はお鐘や村の者たちを通してこの星の言葉を覚えた」

「やっぱり昔から祖谷の人たちは優しかったんやな」

 鐘子は速登を見ながら頷く。乃地日が自分の剣を取り上げた。

「ノチィヒの者はこの剣を通して自分の思いに力を与える。我の一族は植物に光を与え、茂らすことができるのだ。お鐘の持つ扇子も力を使うのに役立ってくれた」

「そんな、うちはただ踊ってただけやのに」

 お鐘が頬を染める。

「我は『ずっと一緒にいたい』と言ったお鐘のために、『星の剣』を使って谷にかずら橋を作り、村への近道を作った。ノチィヒに戻れぬのなら、ここでお鐘と共に生きようと決めたのだ」

 乃地日はお鐘の肩を抱き寄せた。

「ここに乃地日さんの子がおるんよ」

 お腹の膨らみをなでるお鐘を見ながら鐘子が言った。

「そうなんや。もしかしたら、うちのご先祖様かもしれんね」

「乃地日さん、地星という名前に心当たりはありませんか」

 速登が尋ねたその時、突然外から轟音が響いた。まばゆい光が室内を包み、爆風で小屋の戸板が吹き飛ばされる。

「何が起きたの?」

 速登に爆風から守られた鐘子の隣で、お鐘が声を上げた。

「また星が落ちてきたん?」


 光に包まれて現れたのは、緑がかった肌に白い鎧のような宇宙服を着た三人の男だ。手に「星の剣」を握った男が呼びかける。

「チセイ」

 それに応えるように、乃地日が「星の剣」を持って立ち上がった。男と乃地日はノチィヒ星の言葉で話しているようだが、鐘子と速登にはテレパシーのように会話の内容が伝わってくる。

『ようやく見つけた。他の仲間はどこにいる』

『我は仲間とはぐれ、助けてくれたお鐘とここで生きることに決めた。この星を襲おうとしたお前たちに協力する気はない』

『仲間の行方を吐け。さもないと』

 男は小屋の奥にいるお鐘に「星の剣」を向ける。

『よせ!』

 乃地日は自分の剣で男の「星の剣」を振り払ったが、直前に剣から放たれた光に脇腹を貫かれた。男の手から飛ばされた剣が鐘子の足下に落ちる。

「乃地日さん!」

 速登が自分の剣を出すと乃地日に駆け寄った。男が驚く。

『現地人がなぜ、我々の剣を使えるのだ』

「君たち、お鐘を連れて逃げてくれ!」

 残りの二人が近づくのを見た乃地日が声を上げた。お鐘が叫ぶ。

「いやや!」

 鐘子は乃地日に駆け寄ろうとするお鐘を遮り、落ちた「星の剣」を掴んだ。「星の剣」から光が伸び、小屋の壁を切り裂く。

「あそこから外に出よ」

 鐘子はお鐘の手を引いて小屋を飛び出した。剣を奪われた男が叫ぶ。

『あの女を捕まえろ!』

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