三途の渡し

江戸中期——。
　若い大工の伊助と、お友紀は、四日市宿で貧しいながらも、仲睦まじい生活を送っていた。お友紀は、もとは宮宿の呉服屋の娘であり、駆け落ち同然で、伊助のもとに嫁いできた。いまは、家計の足しにと、濱の屋（旅籠）で働く。
　ある日、伊助は大工の棟梁、岩之助から、大火事で焼けた店々の普請のための、大量の材木の調達を指示される。
　焼けた店々というのが、伊助にとっては恩ある人々のものだった。大工の修行でくじけそうになった、若きころの伊助を支えてくれた人々だ。早く建て直してやりたい。伊助はその一心で走った。