園バスを待ちながら

 時は戦国、群雄割拠ぐんゆうかっきょの世。園児確保を巡る強豪幼稚園たちの仁義なき戦いが始まろうとしていた。彼我ひがを分けんと園長たちは、各バスに兜の前立てのごとき動物面を取りつけた。


 唯一、本多忠勝ほんだただかつ園長は、鋼鉄こうてつの汽車を我が印として動物風情どうぶつふぜいを超えんとし、天下無双てんかむそうの呼び声をほしいままにしたと伝えられている。



 この地方って幼稚園バスが、すごいことになっていないか。

 いや、余所者よそものの分際で言わないけど。


 大規模マンションに春が来たら、そのエントランスの車寄せが、園バスのラッシュになった。


 きしゃがむかえにくるんだよ! って、うちの子がはしゃいだら、あれ、きしゃじゃない、バスだから! って変に冷静な園児いるし。

 うちは、パンダがむかえにくるんだよ~、って言った子にも、パンダがむかえにくるわけない。あれはバスって、さとしてるし。


 その子を迎えに来るバスは何だろう。

 その子と手をつないでいた、きれいな人が。あっ、わんわんバス、来たよーって。即座に、その子から、犬バスだよと訂正をかけられた。徹底してるな。

 そのあとに、たれ耳の犬種だから、おそらくゴールデンレトリーバー、と、その子が言っていたのを、わたしは聞き逃さなかった。






         〈了〉

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飾りじゃないのよ兜は ミコト楚良 @mm_sora_mm

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