幼稚園戦記

 時は戦国、群雄割拠ぐんゆうかっきょの世。園児確保を巡る強豪幼稚園たちの仁義なき戦いが始まろうとしていた。彼我ひがを分けんと園長たちは、各バスに兜の前立てのごとき動物面を取りつけた。


 唯一、本多忠勝ほんだただかつ園長は、鋼鉄こうてつの汽車を我が印として動物風情どうぶつふぜいを超えんとし、天下無双てんかむそうの呼び声をほしいままにしたと伝えられている。



「なんと申されましたか、園長」

 乙女おとめ先生は青ざめた。

 乙女は幼い頃に父親を亡くし、妙源寺園みょうげんじえんに預けられていたところ、修行に来た忠勝が見初めた、今年で結婚25年めの、よきパートナーである。

 

「汽車をみちに走らせると申したのよ」

 忠勝は、にやりと笑った。

「どうぶつ路線など、こっぱみじんにしてくれる。一定数、てつ(鉄道ファン)な保護者はいる。そしててつな幼児もいる。その者たちが汽車バスを見れば、必ずや我が園になびくだろう」


 乙女先生は不安だった。

(わんわんや、にゃんにゃん、それこそ国民的人気のパンダくんに勝てるだろうか)


「お母さま」

 そこへやってきたのは、娘の小松こまつだった。

 彼女も保育スタッフとして、この三河みかわキンダースクールを支えてきた。かつて、園に酔っぱらいが乱入したときは、さすまたで捕獲した武勇伝の持ち主だ。

「わたくしたちこそが、父上を信じないでどうするのです」

「娘や」

 ひしと、母と娘は手を取り合った。






※小松姫は乙女の方の娘説を採用。

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