あらゆる想像を刺激してくる、リーダビリティ抜群の作品

 第一話を読むだけで、もう完全に物語の魅力に引きずりこまれます。

 主人公である卓也と香苗の夫婦は、養子縁組によって児童養護施設から『心美』という少女を娘として迎え入れることを決める。
 そして心美を連れて家へと帰るのだが、施設の関係者はひどく不安そうな顔でその姿を見送るのだった。

 もうこの冒頭の場面により、「この先にどんな怖いことが?」と、続きが気になって仕方なくなります。十四歳の美少女、心美。彼女はどんな存在で、何が人を不安にさせるのか。そもそも、彼女は一体何者なのか。

 心美を家に招き入れてから、卓也の周辺では不穏なことが起こり始める。
 しかし、まだ全貌は見えません。心美は『サイコな少女』なのか、それとも『オーメン的な超常の絡む存在』なのか。まだまだホラーとしての正体は明らかにはならない。
 

 本作の特に面白いところは、ホラーとしてどんな方向性の話に進むのか、すぐには予測がつかないところです。
 だからこの手のジャンルが好きな人としては次々と記憶が刺激され、「こういう方向か?」、「いや、こっちの可能性も」とあれこれと可能性を模索しつつ読み進めることになります。

 更に秀逸なのがタイトル。『さよなら、悪魔』というこのタイトルが、最終的にどう『回収』されるのか。
 ハッピーエンドに繋がるようにも見えるし、何か裏の意味があって怖い展開が待っていそうにも見えます。
 そんな想像力が刺激され、「早く続きが読みたい!」と気づけば待ち遠しい気持ちになっていました。


 そのように、本作はとにかく読者の『想像力』を強く刺激してきます。わずかなポイントからあれこれと可能性を考えさせられ、どんな方向に転がって行くのかとぐいぐい引き込まれて行くことになるのが特徴です。

 あと、個人的にとても面白いと思ったのが、養父となった卓也が心美の女性的な魅力に翻弄されそうになり、強く葛藤させられる点。
 『養父と娘』という関係性だから、間違っても女としての魅力を感じてはいけない。そういう危うさを持ったシーンなのですが、これってジャンルとか関係性が違っていたら、思いっきりラブコメ展開でも使えそうな要素でもあります。主人公が中高生で、もしジャンルがラブコメだったら、きっと同じシーンを見て読者はニヤニヤしたことでしょう。
 そういう、紙一重の匙加減でラブコメになりそうなシーンをホラーに変えてみせる。そういう点も切り口としての新しさを感じました。

 筆致、心情描写も素晴らしく、様々な魅力を持った作品です。

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