なんと言っても鬼娘が可愛らしい。とにかく「チョロい」ので読んでいてニヤニヤさせられます。
地獄の獄卒の鬼娘として、亡者である主人公に色々と語りかけてきます。そうして等活地獄や黒縄地獄など、八大地獄と呼ばれる場所を次々とめぐり、主人公にそれらの地獄を体験させようとしてくる。
でも、その度に色々とやらかしてくれます。その際に主人公から「ちょっとした気遣い」を見せられると、あっさりとデレた様子を見せてくれる。
「旦那! この娘、相当にチョロいですぜ!!」と、読者はおそらく読んでいる途中、隣にいる見えない誰かに話しかけたくなることでしょう。
この鬼娘、チョロい上に相当な「アホの子」なので、地獄を巡る度に自分からどんどん「To LOVEる」な展開まで引き起こす。
本作の面白いところはこの鬼娘のチョロ可愛いところだけでなく、途中で「ある事実」が見えたところからストーリーが二転三転していくこと。
ラストの結末なども「地獄」という場所にまつわる法則などが生きてきて、思わぬ着地を見せてくれます。締めくくりも爽やかで微笑ましく、気づけば笑顔になることでしょう。
「地獄」という素材をしっかりと料理しきった、とても完成度の高い作品でした。
そして、ASMR作品を念頭に書かれた作品なので、自然と鬼娘の声が頭の中で響いてくるのも特徴です。
虎柄ビキニを着用している設定から、個人的には「上坂す〇れ」の声が聞こえてきましたが、果たして音声化の際には誰がCVを当てるのか。
鬼娘と一緒に地獄めぐりというコンセプトが、まず斬新です。
時代小説も得意とされる作者様の才能が存分に発揮された、地獄の克明な描写が楽しめます。
そして、とにかく鬼娘が魅力的なんです!!!
嬉々として地獄の責め苦について語ったり、金棒で殴りかかってきたりするかと思えば、人間界への憧れを覗かせたり、ある理由から追われることになって怯えたりする可愛らしい一面も。
二人称形式の文章もとても自然で、自分が語りかけてもらっているような気分になれます。
ユーモアもあちこちにちりばめられていますし(主人公たちが人間界の“あるもの”を武器にピンチを切り抜けようとするシーンでは、思わず吹き出してしまいました)、伏線が巧みに回収され、主人公の頭の良さが光るラストも爽快で痛快です。
いわゆる男性向けの作品だとは思いますが、性別や性的志向を問わず多くの方に読んでいただきたい傑作。
ぜひ音声化されたものも聴いてみたいです!