第一階層 緑の洞窟
第1話 ドキドキ! 初めてのダンジョン探索&アイテムゲット!
目を開いて最初に見えたのはエメラルドグリーンの岩肌だった。
洞窟の中?
でもさっきまでの場所じゃない。
蒼ちゃんが周囲を見回して言った。
「ここがダンジョンなのね……本当に、ワープしたんだ」
言われ、オレもあらためて周囲を確認した。
先ほどまでいた洞窟とは壁や天井の色も、空間の広さも全く違う。
と、優汰が「ううぅ……」と口を押さえてうずくまった。
「気持ち悪い」
たしかに。ワープゲートの不思議な渦を抜けた今、まるで車に酔ったときのような軽い吐き気をオレも覚えていた。
オレは優汰に右手を差し出した。
「優汰、大丈夫か?」
「うん、大丈夫。ちょっと吐き気がしただけ」
優汰はオレの手をつかんで立ち上がった。
そんな優汰に例によって挑英が暴言を吐いた。
「まったく、情けないヤツだ。ここはダンジョンだ。いつモンスターが現れるかわからない場所だぞ。いきなり座り込んでどうする」
優汰は「そうだね」とうなずいた。
「たしかに挑英くんの言う通りだ。ごめん」
未だにに周囲を見回している蒼ちゃんが言った。
「それにしても、本当にダンジョンの中って暗闇にはならないのね」
それも摩訶不思議なダンジョンの性質の一つだ。
先ほどまでいたダンジョンの外の洞窟は蛍光灯で照らされていたが、ここにはそんな物はない。太陽光もとどかない洞窟なのに、暗闇にならない。ヒカリゴケがあるとか、ろうそくや懐中電灯を持ち込んだとかでもない。
どこに光源があるかわからないのに、暗闇にならず視界が開けているのだ。
ワープゲートは一方通行。もうここには存在しない。
ダンジョンから脱出して試験に合格するためには、モンスターも存在するこの迷宮を探索して、次の階層へ行くためのワープゲートを見つけなくちゃいけない。
と、蒼ちゃんが反対側の壁ぎわを指さした。
「あれ、何かな?」
オレたちがそちらを見ると、そこには赤い箱がこれ見よがしに置かれていた。
それを見てオレの興奮は最高潮になった。
「うぉぉぉ、宝箱じゃん。そうですよね、教官?」
教官はニヤリと笑った。
「私は口を出さん。自分たちで判断しろ」
でも間違いない。飛翔兄ちゃんが言っていた宝箱にそっくりだ。
オレたちは宝箱に駆け寄った。挑英が言った。
「ふむ。ラッキーだな」
優汰も同意した。
「たしかに初心者向けダンジョンで、いきなり赤の宝箱が見つかるのは運がいいね」
宝箱には色によってランクがあるという。白が最低ランク、以降順に水色、青、赤、黄色、銀、金、虹色と続く。難易度の低い初心者向けダンジョンでいきなり赤の宝箱を見つけたのは、たしかにラッキーなのかも。
鍵はかかっていない。オレはよいしょと宝箱を開いた。
「神様、いいアイテム頼むぜ」
ダンジョンにある不思議なアイテムは神様からの贈り物だという。それが本当かは知らないが、オレは祈るような気持ちで宝箱の中を見た。
するとそこにあったのは……
「なんだ、これ?」
オレは中に入っていた物を取り出して首をひねった。
黒くて丸い棒? 長さは三十センチくらい。
優汰がそれを観察して言った。
「たぶんだけど、
蒼ちゃんが優汰を褒めた。
「優汰くんすごい! よくわかるわね!」
「へへへ、パパやママに、どの色の宝箱にどんなアイテムが入っているか覚えろって言われたから。青の箱だったら
ちなみにアイテムの名前をつける権利は、そのアイテムを初めて見つけたアドベンチュラ-にある。
「でもどうやって使うんだ、これ?」
オレの手の中にあるのはただの黒い棒だ。
優汰が使い方も解説してくれた。
「たしか、心の中で『のびろ!』って念じるだけだったはずだよ」
「ふーん」
オレは試しに(のびろ!)と念じてみた。すると、一メートルほどの電気をまとった棒が現れた。
「うぉ、マジじゃん。
どっちかというと刀じゃなくて警棒っぽいけど、これぞダンジョン!
夢にまで見たアイテムゲットの瞬間だ。
挑英が
「ふむ。
「へへへっ、スゲーだろ」
「なんで疾翔が威張っているのかは知らんが、たしかにアイテムは素晴らしいな。棒状のスタンガンみたいなものだろう」
いや、スタンガンとか言われるとちょっぴりありがたみが減るんでやめてほしいんだどな。
それはそれとして、オレ一人で独占するのはマズイか。試験とはいえ、今はこの四人で
「優汰もやってみろよ」
オレは(戻れ!)と念じ、
「うん」
優汰
優汰が悲鳴じみた声を上げた。
「うわぁ、怖っ」
なんで、アイテムをゲットして泣きそうになるんだよ、コイツは。
「あ、蒼ちゃんパス!」
優汰は
うん、情けないぞ、優汰!
「ふーん、念じればいいのね」
すると現れたのは棒ではなく……
優汰が驚きの声を上げた。
「ええぇ! なんで
蒼ちゃんが使うと、
教官が「すごいな」とつぶやく。
「海野蒼の魔力は異常な高さを示していたが、
そういえば飛翔兄ちゃんも、魔力が多すぎるとアイテムを壊してしまうことがあるって言っていたっけ。
蒼ちゃんがあわてた声を上げた。
「え、ええ!? どうしたらいいんですか?」
挑英が冷静に言った。
「戻れと念じろ。もしくは手を離して床に投げ捨てろ」
「う、うん。わかった。戻って!」
声に出して蒼ちゃんが念じると、
教官がその様子を見て言った。
「ふむ、海野蒼、貴様の魔力はたいしたものだが、出力調節の訓練が必要だな」
「はい。挑英、あなたの番」
蒼ちゃんが挑英に
だが、いくら彼が念じても
「なぜだ? なぜ発現しない?」
悔しそうな挑英に優汰が言った。
「やっぱり魔力がないからじゃないかな?」
ああそうか。挑英って魔力0だったからこういうアイテムは使えないのか。
教官がうなずく。
「その通りだ。この先、ほとんどの魔法のアイテムは、貴様には使えないだろう」
挑英は悔しそうに「くそっ」とつぶやいた。
優汰が言う。
「じゃあ、
「え、いいのか?」
「うん、だって挑英くんには使えないみたいだし」
「だけど、優汰は使えるじゃん。蒼ちゃんも練習すれば……」
「ボクや蒼ちゃんより、剣道を習っている疾翔の方がこういうのは向いていると思うよ」
たしかにそうかもしれないな。弱虫の優汰が
「わかった。オレにまかせろ!」
オレは言って、挑英に
「俺に使えない以上、お前に渡すのはやぶさかではない。たしかに蒼や優汰よりは疾翔の方がこういう武器は使いこなせそうだしな。だが、調子に乗るなよ?」
コイツ、ホントにカチンと来るな。
「はあ? どういう意味だよ?」
「そのままの意味だ」
くぅ、どうだろうね? なんでわざわざケンカを売ってくるんだろう。
蒼ちゃんが、「挑英、やめて」と彼の腕を引っ張った。
「ちっ。まあいいさ、ほらよ」
挑英がオレに
ムカつくなぁ。
とはいえ、ダンジョン突入後いきなりの武器ゲットだ!
燃えるぜ!
「へへっ! どっからでもかかってこいモンスター!」
オレが
ま、いいさ。後でオレの活躍を見せてやるからな!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。