めざせ!ダンジョンアドベンチュラ-
第1話 見習いダンジョンアドベンチュラ-試験 ~ダンジョン突入1時間前~
十二歳の誕生日を迎えてから二ヶ月と四日。
オレこと志音疾翔は、幼なじみの春風優汰とともに、ほとんど獣道みたいな歩きにくい山道を登っていた。
優汰がオレの後方から情けない声を上げた。
「疾翔ぅ~ちょっと待ってよぉ」
「なんだよ、優汰?」
「ボク、疲れたよ。ちょっと休もうよ」
ほとんど半泣き状態だ。
「しゃあないなぁ。少し休むか」
オレと優汰は近くにあった切り株に腰を下ろした。
優汰が「ふぅ」と息を吐いて、布袋からひょうたんを取り出して水を飲んだ。
「まさかダンジョンに行く前にこんな山登りをするとは思わなかったよ」
「でも、ダンジョンの入り口は三十年前に神様が世界中の洞窟とかに作ったんだろ? だったら山の中でもしょうがないんじゃね?」
「そりゃ、そうだけどさぁ」
オレも布袋からひょうたんを取り出して水を飲んだ。
ここで、なんで布袋やひょうたんなんだよ? リュックサックと水筒を使えよと考えるヤツはダンジョンに関して素人だ。
ダンジョンには金属製やプラスチック製の道具は持ち込めない。服だって金具付きのベルトはダメだ。そういうルールというか、性質のある場所なのだ。
ま、水筒に関してはひょうたんではなくて竹筒とかでもいいんだけどね。
「優汰、そろそろ行こうぜ」
「えー、まだ休み始めてから三分も経ってないよ。疾翔はホント、猪突猛進というかなんというか」
「だってさぁ、ついにダンジョンアドベンチュラ-の実地試験が受けられるんだ。ダンジョンにいけるんだぜ。わくわくするじゃん!」
「ボクはむしろ不安だよ。ダンジョンってどんなところかわかっているの?」
「わかってるさ! いろんなお宝がたくさんある不思議な迷宮だろ」
優汰はふぅっとため息。
「同時にいろんなモンスターが襲いかかってくる恐ろしい場所でもあるんだけどね」
「なんだよ、怖いのかよ?」
「当たり前だろ。ボクらはこれから命がけの場所で試験をするんだから」
「オレはすげー楽しみだけど」
「相変わらず疾翔は前向きだね」
「当然だろ。オレは志音疾翔、世界一のダンジョンアドベンチュラ-になる男だぜ!」
オレは立ち上がってビシっとVサインを決めてやった。
だが、優汰はちょっぴりあきれ顔を見せた。
「はいはい。いつもの宣言ありがとう。たしかに、試験の開始時刻に遅れるのはまずいか。パパとママもこの山登り自体も試験の一環だって言っていたし」
言いながら、優汰もよいしょっと立ち上がった。
ダンジョンアドベンチュラ-とは、ダンジョンとよばれる異世界を冒険する仕事。命がけで夢たっぷりの冒険者のことだ。
優汰の両親はかつてダンジョンアドベンチュラ-だった。オレの兄ちゃんもそうだ。
オレたちが再び細い山道を歩き出したとき、後ろから声がした。
「なんだ、お前たち。まだこんなところにいたのか?」
オレと優汰が振り返ると、そこには生意気そうな男子と、かわいい女子がいた。ちなみにさっきの言葉を言ったのは男子の方だ。
麓の村を少しだけ遅れて登り始めた二人。
たしか名前は飛来挑英と
優汰がうなずきながら言った。
「えへへ。ボクがちょっとへばっちゃって」
挑英は「ふんっ」と鼻を鳴らした。
「そんな軟弱なヤツがダンジョンアドベンチュラ-になろうとはな。悪いことは言わないから諦めた方がいい」
オレはムカっとして言った。
「てめぇ、たしか飛来挑英だったよな?」
「その通りだが?」
「いきなりケンカ売っているのか?」
「そんなつもりはない。俺はそいつの身を案じただけだ」
「とてもそうは聞こえなかったがな。優汰、お前もなにか言い返せよ」
オレが言うと、優汰はちょっと困った顔をした。
「おちつきなよ、疾翔。たしかにダンジョンアドベンチュラ-になるなら、ボクももっと体力や根性をつけないとっていうのは正しいし」
優汰はそう言いつつも、挑英に「でもね」と続けた。
「諦めるつもりはないよ。試験に合格して、ダンジョンアドベンチュラ-になりたいのは、ボクだって同じだ」
「ふんっ、勝手にしろ。貴様がダンジョンでモンスターにやられたり罠にかかったりして死んだとしても、俺の知ったことじゃないしな」
そう言い放った挑英に、蒼ちゃんが「挑英っ!」とたしなめた。
「やめなさいよ。これから一緒に試験を受けるのよ?」
一方、優汰もオレに言った。
「疾翔もケンカはダメだよ。今日の試験は集まった受験生全員が
「そうだけどさぁ、だからこそ、こういう礼儀知らずにはちゃんと教育的指導をだな……」
優汰はため息をついて、それから挑英と蒼ちゃんに言った。
「疾翔がごめんね。ボクら幼稚園も小学校も一緒の幼なじみだから、ボクの代わりに怒ってくれたんだと思う」
蒼ちゃんも言う。
「こっちこそ挑英がごめん。私たちも幼なじみでね。コイツ口は悪いけど、性根は悪くない……ような気もするから仲よくしてやってね」
気もするだけかよ!?
オレたち四人は一緒に山登りを再開した。目的地は同じだからしょうがない。
優汰と蒼ちゃんは和やかに会話しながら歩いていた。
「蒼ちゃんはどうしてダンジョンアドベンチュラ-になりたいの?」
「絶対に手に入れたいアイテムがあるのよ」
「ふーん、どんなアイテム?」
蒼ちゃんはちょっと迷う表情を見せてから、それでも答えてくれた。
「
そのアイテム名に、優汰が「ぶっ」と吹き出した。
「
つまり、ダンジョンの入り口が世界中に出現した三十年前から数えても、十回も見つかってない超貴重なアイテムってことだけど。
「そう簡単に見つからないのはわかっている。それでも、私は絶対に手に入れてみせる」
蒼ちゃんの目が燃え上がっているように見えた。
何か事情があるのかな?
蒼ちゃんも優汰にたずねた。
「優汰くんはどうしてダンジョンアドベンチュラ-になりたいの?」
「ボクのパパとママもダンジョンアドベンチュラ-だったからね。小さい頃からアドベンチュラ-になるのが当たり前みたいに言われてたんだ」
「ふーん」
「ちなみに、疾翔のお兄さんもアドベンチュラ-で、ボクらが仲いいのもそれも理由だし」
それを聞いて挑英が一言つぶやいた。
「十二歳にもなって、パパだのママだの恥ずかしくないのか?」
オレは自分の額に怒りの青筋が浮かび上がったのを意識した。
「てめぇ、もう少し言い方ってもんはねーのか?」
「ふんっ。話しかけるなら名前を呼んだらどうだ? 礼儀知らずのガキが」
「だったら、そのお偉い挑英サマはどうしてダンジョンアドベンチュラ-になりたいんだよ?」
オレの言葉に、挑英は「ふんっ」と笑った。
「決まっているだろ。金と名誉だ」
たしかにダンジョンの貴重なアイテムを持ち帰れば金になる。
人や国や世界を救うようなアイテムを発見すれば、名誉も手に入る。
だけど、ここまで露骨に言うか?
「お前、謙虚さはないのかよ?」
「貴様に言われる筋合いはないな。さっきの宣言聞こえていたぞ。世界一のダンジョンアドベンチュラ-になるとかなんとか。それこそ名誉を欲している言葉じゃないか」
オレと挑英はおたがい『ふんっ』とそっぽを向いた。
優汰が疲れたような声で言った。
「ホント、二人ともやめてよ」
これ以上挑英とやりあっても、時間の無駄なのはたしかだ。
さらに山登りを続けると、そこそこ開けた場所に出た。
(ここが目的地か)
そこには大きな洞窟の入り口があり、警備員が見張っている。
その手前では筋肉隆々の鍛えられた女性が待ち構えていて、オレたちを見るなり厳しい声で叫んだ。
「遅い! 貴様らこの程度の山道を登るのに何時間かかっているんだ!」
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