第3話 ワープゲート ~ダンジョン突入5分前~

 洞窟の奥で、オレたちは初めてダンジョンへの入り口、ワープゲートを見た。

 蒼ちゃんが誰にともなく言った。


「きれい……これがワープゲートなのね」


 立体映像みたいとでも言えばいいのかな。半透明な虹色の輝く扉だ。

 たしかに、オレの目から見てもきれいだ。いや、きれいというよりも神々しいと言うべきだろうか。

 この不思議な扉だけでも、『ダンジョンの神』とやらの存在を信じたくなる気持ちが理解できてしまう。そのくらい神秘的な雰囲気を感じる扉だった。


 ワープゲートを呆然と眺めるオレたちに、教官が言った。


「このダンジョンは二階層突破すればクリアーだ。すなわち、ダンジョン突入後、二回ワープゲートを見つければこの場所に帰還することができる。一階層ごとに最大六匹のモンスターが出現する。ほとんどのモンスターは人間を見つければ問答無用で襲いかかってくる。めったにないが罠も存在するかもしれない。まさに命がけの迷宮だ」


 いよいよだ。いよいよダンジョンに行けるんだ。


「ゲートを抜ける前にダンジョン攻略のためのアイテムを渡そう」


 そう言って、教官はオレたちに、小さな指輪と、野球ボールくらいの黄色い玉をそれぞれ一つずつ渡した。


「指輪は離脱の指輪リタイアリングだ。いざというとき『帰還したい』と念じればダンジョンから脱出してここに戻ってくることができる」


 緊急脱出用のアイテムってことか。


「ただし、その場合ダンジョン内で手に入れたアイテムは持ち帰れない。そして、今回の場合は試験不合格となる。試験合格の最低条件は、二つのワープゲートを見つけて正規にクリアーすることだ」


 それでも、命の危険があれば使うことをためらうなと言って、教官はオレたちに指輪をはめるよう指示した。


「黄色い玉は睡煙玉スリープボール。モンスターに投げつけると、ヤツらを眠らせる煙が発生する。初心者向けダンジョンに出現するモンスターならば、まず間違いなく効果があるだろう。とはいえ、各々一つずつの配布だ。使いどころはよく考えることだな」


 モンスターは一階層につき六匹まで出現するとさっき教官は言った。つまり、二階層なら合計最大で十二匹だ。睡煙玉スリープボールだけでクリアーはできないってことか。


「どちらのアイテムも魔力0でも使うことができるので安心しろ」


 最後の言葉は挑英に言ったようだ。


「今回私は試験官としてともにダンジョンに行く。必要以上に手出しも口出しもしない。あくまでも貴様ら自身の力でダンジョンクリアーを目指せ。最後にもう一度確認しよう。貴様ら、覚悟はいいな?」


 オレたちはその言葉に『はい!』と答えた。


「ではこれよりワープゲートを開くぞ」


 教官はワープゲートに手を当てた。すると、半透明の扉がゆっくりと開いた。

 ゲートの向こう側には大きな渦があった。

 台風とか竜巻とかという意味じゃない。空間そのものが渦を巻いていると表現したらいいのだろうか。まさにワープゾーン。空間がねじ曲がっているようにも見える。


「さあ、行くぞ。ワープゲートは開いて九十秒で閉じてしまう。同じ場所にワープしたければ、全員九十秒以内に通り抜けねばならん」


 いよいよ、オレたちの冒険の始まりだ。

 このとき、オレの胸の中にはドキドキとワクワクがあふれていた。

 幼い頃からの憧れだったダンジョンアドベンチュラ-への第一歩だ。


 飛翔ひしょう兄ちゃん、オレいよいよダンジョンに行くよ!

 オレは心の中で、自分の兄――かつてダンジョンアドベンチュラ-として活躍し、そして二年前にダンジョンの中で行方不明になった飛翔兄ちゃんにそう言った。


 ゲートを通り抜けた瞬間、オレの目にまぶしい光が一気に広がった。

 耐えきれず、オレは両目をギュッと閉じた。

 体がぐちゃぐちゃにかき混ぜられるような不快な感覚。

 自分が立っているのか、座っているのか、寝ているのかもわからなくなる。

 これがワープゲート。空間転移とも呼ばれる現象か。


 やがて、まぶしい光が消えて。

 教官の声がした。


「さあ、目を開けろ。ここがダンジョン。貴重なアイテムと、凶悪なモンスターと、そして恐ろしい罠が待ち構えている迷宮だ」


 ついにオレたちはダンジョンにやってきたんだ。

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