第3話 強敵!ミイラドッグを倒せ!

 その後、しばらく通路を進むと道がYの字のように分かれていた。


「どっちに進んだらいいんだろう?」


 たずねる優汰に、オレも答えようがない。

 蒼ちゃんが確認するように言った。


「第二階層へのワープゲートがどっちにあるかってことよね?」


 優汰がうなずいた。


「できれば宝箱も見つけたいけどね」


 そうは言ってもなぁ。


「でも、どっちが正解かなんてわからないじゃん。なんなら一度二手に分かれるとか?」


 オレがそう提案したが、それは教官が「ダメだ」と却下した。


「試験中に私の目から離れてもらっては困る。そもそも、ダンジョン内で無意味に仲間パーティが分かれるのは一般的にも得策とはいえない。特に今回は……」


 最後は口ごもった。なんだ? さっきから教官の態度が少しおかしい。

 優汰も同じように感じたらしく、教官に言った。


「どうかしたんですか?」

「……いや、すまない。私の気のせいだろう。それで、どちらに進む?」


 オレと挑英が同時に言った。


『それなら……』

「右にしよう」「左だな」


 むっ。なぜこうもコイツとは意見が合わないかな。

 ちなみに右と言ったのがオレで、左と言ったのが挑英だ。

 このままだとまた口ゲンカになりそうと思ったのか、蒼ちゃんが言った。


「二人とも、何か根拠があるの?」


 その問いに、オレと挑英が同時に答えた。


『カンだ』


 意図せず言葉が重なり、またまたオレと挑英は『ふんっ』とそっぽを向きあった。

 優汰と蒼ちゃんは『やれやれ』と首をすくめた。


「たしかにボクもカンで決めるしかないと思うけど」

「いいわ。右にしましょう。行き止まりとかなら戻ってくればいいだけだし」

「そうだね。一応地図は描いた方がいいかな」


 優汰はそう言って、布袋から鉛筆とノートを取り出した。


「なんでそんなもの持ってるんだよ?」


 ダンジョンに入ってからそんなアイテム手に入れてないはずだが。


「ダンジョンに入るときは地図やメモを書くために、メモ用紙と筆記用具は持っていった方がいいって、ママに言われたから」


 ダンジョンは入るたびに姿を変える。だからこそ、探索のたびに地図を作るのはとても大切なことだと優汰は語った。


「だけど、ダンジョンに普通の道具は持ち込めないんじゃなかったっけ?」


 オレの言葉に、挑英があきれ顔。


「さすがは学科試験32点だな。持ち込めないのは金属や機械類、あるいはプラスチック

やビニールなどの人工物だ。布や木製のものは問題ない」

「鉛筆の芯は?」


 オレが言うと、挑英が首をひねった。


「黒鉛と粘土だったか。微妙な気もするが……」


 優汰が地図を描きながら言った。


「経験上鉛筆は問題ないってママが言っていたよ。ボールペンや万年筆はダメだけど」


 蒼ちゃんが優汰のノートを覗き込んで言った。


「すごい、優汰くん地図を描くの上手ね」

「うん、地図作成はダンジョン探索の基本だからね。パパとママに特訓された」


 挑英が「なるほど」とうなずいた。


「どっかの考えなしの突っ走り野郎よりよっぽど頼りになる」


 コイツ!


「おい、『考えなしの突っ走り野郎』っていうのはオレのことか?」

「他にいるか?」


 人を褒めるときまでそういう言い方しかできないのかよ!

 オレがイラついているのに気がついたのか、蒼ちゃんがそれ以上の会話をとめた。


「じゃあ行きましょう。右の道ね」


 ここでこれ以上無駄に時間を使う必要もない。先に進もう。




 しばらく歩くと、広い空間にたどりついた。

 そこにいたのは……


死体犬ミイラドッグ!?」


 優汰が息をのむように言った。

 死体犬ミイラドッグ。名前の通り骨だけで動く犬みたいなモンスターだ。大きさは土佐犬と同じくらい。運動能力も同じ。ただし凶暴性は犬とは比べものにならない。人間を見つければどこまでも襲ってくるらしい。

 モンスターランクはF。牙ネズミファングラットはGだからそれよりも強いということだ。


 もっとも今は……


「寝ているのかしら?」


 蒼ちゃんに挑英がうなずく。


「そのようだな」


 たしかに死体犬ミイラドッグは眠っているらしい。

 オレは提案した。


「じゃ、今のうちにやっつけちゃおうぜ」


 が、蒼ちゃんが止める。


「待って。寝ているならほうっておけばいいじゃない。無理に殺す必要はないわ」


 うーん。それはどうだろう?

 挑英が蒼ちゃんに言った。


「蒼、虫も殺せないお前の優しさは知っているが、ダンジョンのモンスター相手にそれはダメだ」

「なんでよ? 生き物を無駄に殺す必要はないわ」


 骨だけのモンスターが生き物といえるのかどうかはわからないけど。

 挑英が首を横に振って、蒼ちゃんに言い聞かせるように話した。


「今は眠っているとはいえいつ起きるかわからん。背後から襲われれば命に関わる。眠っているうちに対処するという疾翔の判断は間違っていない」


 あれ?


「お前がオレに賛同するのかよ?」

「俺は正しいと思う意見に賛同する。誰が言ったかは関係ない」


 優汰の意見はどうなのか?


「パパとママも挑英くんと同じように言っていたよ。倒せない相手ならともかく、死体犬ミイラドッグはランクFだし、寝ているうちならやっつけられるよ。だったらそうした方がいい」


 そう言って、無意識なんだろうけど優汰は火の杖フレアスティックを握りしめた。

 オレはうなずいた。


「三対一、決まりだな」


 そもそもこんな話し合いをしている間に、死体犬ミイラドッグが起きてしまう可能性もある。やるなら早い方がいい。

 オレは電撃刀ビリビリソードに(のびろ)と念じた。電撃の棒がのびる。

 牙ネズミファングラットより強いとはいえ、低レベルモンスター。寝ているところをこれでぶったたけば倒せるだろう。

 だが、優汰が「待って」とオレを止めた。


「ダメだよ。ミイラ系のモンスターは電撃に強いんだから。むしろ炎の方が効く」


 優汰はそう言って火の杖フレアスティック死体犬ミイラドッグに向けて構えた。

 オレはちょっと心配になってしまった。


「大丈夫なのか、優汰?」

「何が?」

「怖くないのか?」


 何しろオレは幼なじみが弱虫で怖がりなのを知っているからな。


「怖いよ。モンスターを眠ったまま放置して襲われたり、友達が効きにくい武器で接近戦を挑んだりするのを見ているのは怖い」


 なるほど。怖がりなりに理屈は通っている。

 優汰はオレたちに言った。


「もし倒しきれずに起きちゃったら、逃げながら撃つから」

「わかった」


 うなずきつつも、オレはいざとなったら電撃刀ビリビリソードを使おうと心に決めた。

 いくら効きにくくても、接近戦用の武器を持っているのはオレだけだ。


「じゃ、やるよ!」


 優汰がそう言うと同時に、火の杖フレアスティックから火の玉が飛び出し、死体犬(ミイラドッグ)死体犬ミイラドッグをにぶち当たった。

 よし、狙い通りだ。

 だが。

 死体犬ミイラドッグは煙を上げながらゆっくりと立ち上がった。

 優汰が悲鳴のような声で叫んだ。


「倒しきれてない!?」


 しかも目を覚まして、こっちを完全に敵として認識しているみたいだ。

 優汰はもう一度火の杖フレアスティックを構えて二発目を発射!

 だが、死体犬ミイラドッグは右にジャンプしてよけてしまう。


「くっ、なら!」


 優汰の火の杖フレアスティックから三発目が発射された。

 今度は左にジャンプされてよけられてしまう。

 オレは叫んだ。


「ダメだ、優汰! 闇雲に撃っても当たらない!」


 が、オレが思っていたよりも優汰は冷静だった。


 死体犬ミイラドッグが着地した瞬間を『待ってました』とばかりにさらに優汰は狙い撃ち!

 これはさすがによけられなかったらしい。

 合計二発の炎の玉をくらった死体犬ミイラドッグはその場に倒れ、黒い霧となって消えた。

 優汰は「ふぅ」と額に浮かんだ汗を拭った。


「よかった。なんとかなったね」


 そう言った優汰は、笑顔を浮かべつつも涙を流していた。

 笑いながら泣くとか器用だなぁ。

 オレはそんなところに感心したのだが、挑英と蒼ちゃんは違った。


「すごいな、優汰。冷静な戦い方だった」

「うん、倒さないでおこうって考えたのはやっぱりダメだったみたい。背後からアレに襲われたら大変なことになっていた」


 二人とも手放しで優汰を褒める。


「おい、オレが牙ネズミファングラットを倒したときとずいぶん違わね? そりゃ、モンスターのランクは死体犬ミイラドッグの方が上だけど」


 そう言ったオレに挑英は冷めた表情で言う。


「モンスターの強さの問題じゃないんだよ」

「なんだと?」

「一人で勝手に突っ走るヤツを手放しで褒められるわけがないだろう」


 むむっ。

 オレが反論しようと思ったとき、優汰が叫んだ。


「そんなことより、来るよ!」

「え?」

「向こうの通路! 何か来る! それも一匹じゃない!」


 部屋の反対側にも通路があった。

 オレたちがそっちに注目すると、牙ネズミファングラットが五匹通路の陰から現れた。奴らはすでに牙をむいて、こちらに襲いかかろうとしていた。

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