第11話:町の中でもダメージを受ける不具合
目の前に山と積まれた金貨や武具の山を見て、冒険者協会の受付嬢は凍り付いた。
「ええと、あの、これは?」
「例の迷宮の…入り口での戦果です」
直後、冒険者協会は上から下までひっくり返したような大騒ぎになった。
どよめきの中から聞こえてくる声を拾ってみると、「場所を教えてくれ」といった内容が大半。
まあ、誰しも、稼げる場所の情報は欲しいに違いない。
「調査中の迷宮です」
直後、俺は数多の冒険者に踏みつぶされた。
彼らには俺への害意などなかったのだと確信できる。
「俺たちにも調査を依頼してくれ!」と受付嬢に殺到する彼らにとって、そこに突っ立っていた俺は単なる障害物に過ぎなかったのだ。
よけられなかった俺が悪い。
とっさにユーニを上に放り投げることができただけ、御の字ということにしておこう。
「師匠ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
悲痛な声でこっちに手を伸ばすユーニが無事で済めばいいな、と願いながら、俺は意識を手放した。
意識を取り戻した俺が体を起こすと、そばにいたユーニは真剣な目で俺を見て、開口一番に告げた。
「師匠、私は怒っています」
真剣な表情のユーニに、俺は素直に頭を下げる。
「うん、投げ飛ばしたのは、ごめん。他に思いつかなかったとはいえ、女の子にやることじゃ…」
「違いますっ!」
悲痛な声で遮られた。
どうやら、ユーニは別の事で怒っているらしい。
他に俺が何をしたのか、必死に思い出そうとしていると、ユーニは涙をこぼし始めた。
「私だけ助けようと、しないでください…」
どうやら、自分が踏みつぶされる前提でユーニだけ投げたのがよほど嫌だったらしい。
そういえば、彼女は目の前で仲間を失ったばかりだったな。
変にトラウマを刺激してしまったとしてもおかしくない。
「分かった。できるだけ心がけよう」
彼女のメンタルケアも仕事のうちである俺としては、確かに失策だったと認めなければならない。
まあ、反省はこのくらいにしておくか。
反省に沈むことより、反省を次に生かすことのほうが大切だ。
「さて、食事にしようか」
俺は立ち上がり、ユーニの手を取った。
外はもう夕暮れ。晩飯にはいい頃合いだ。
宿屋の庭で火をおこし、変態姫騎士リーゼを拷問するために作ったシチューを温めなおす。
収納魔術に入れておけば腐る心配はないが、やはり調理済のものを長々と保存しておくのはいい気がしないのだ。
「いただきます」
店売りのルーなんてものもない世界で、うろ覚えの知識で再現したにしてはまあ悪くない味のシチューを腹に流し込むと、散々踏まれた体の痛みがすっと引いた。
ゲームではありがちだが、どうやらこの世界でも食事で回復したりするらしい。
「師匠、あざが…」
ユーニの声に釣られて腕を見ると、踏まれ蹴られたことでできていたらしいあざが光りながら消えていくところだった。
「なんか回復魔法っぽい見た目だな」
ふとこぼすと、ユーニはあきれたようにため息をついた。
「回復魔法そのものですよ…」
回復魔法そのもの、か。
どうやら俺のシチューは回復魔法がエンチャントされているらしい。
きっと、どこかの誰かのタレントを見たのだろう。
「便利さが留まるところを知らないな…俺のタレント…」
俺はため息をついた。
俺はきっと、この力で何でもできるのだろう。
そういう存在として望まれ、女神によってこの世界に放り出された。
世界を救うとか、何かそういう使命のために。
知ったことか。
俺が何かをなせるような大人物であるものか。
そんな奴なら、現実逃避の果てに廃ゲーマーになんてなってねえよ。
だから、何かを成し遂げるのは、ユーニだ。
俺は俺のすべてを捧げて彼女を育てる。
それだけだ。
もっとも、命を捧げることはユーニによって禁じられてしまったが。
「師匠、考え事ですか?」
ユーニの声に引き戻されたときには、そこそこの時間がたっていたようだ。
器が冷たくなっている。
中身を飲み干した後、器が冷えるだけの時間が経過していないとこうはならない。
とはいえ、現状への恨み節を彼女にこぼすようなダサい真似はしたくない。
何か言い訳しておきたいが…そうだ。
「例の迷宮は明日から人が殺到しそうだから、次はどうしようかと思ってね」
一人用ゲームと違って、好きにダンジョンを探索し稼ぎ場をめぐるというわけにもいかない以上、多くの冒険者に場所が割れた稼ぎ場はもはや魅力的な稼ぎ場ではない。
「そう、ですね…」
人が殺到という言葉に、俺が踏みつぶされた時のことを思い出したのか、ユーニは顔を曇らせた。
「まあ、明日張り出される依頼に期待するか」
俺は食事の後片付けを始めた。
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