第7話:実用書とロリコン
「あんっ! だめっ! もう許してぇ!」
「げへへへへへへ! もっと鳴け!」
姫騎士がオークに凌辱されている。
「悔しい…! でもビクンビクン!」
「この程度でへばってんじゃねえ! 後ろがつかえてんだ!」
姫騎士がオークに凌辱されている。
「いやぁぁぁぁっ! 赤ちゃんできちゃうぅぅぅ!」
「諦めな! 俺の子でなくてもとうに孕んでるぜ!」
姫騎士がオークに凌辱されている。
姫騎士がオークに…
姫騎士(ry
俺はページをめくる手を止めた。
「エロ同人だな。この絵柄、この構図、コミケならきっと行列ができる壁サークルだろう」
俺が姫騎士リーゼに薄い本を返すと、姫騎士リーゼは首をかしげながら訊ねてきた。
「えろどーじん? お前の国では婚活指南書をそう呼ぶのか?」
「今なんて言った?」
食い物を粗末にするのが生きがいのクソ女改め、初対面の俺に遠回しにわからせプレイを要求していた痴女こと姫騎士リーゼに、先刻の意味不明な行動の説明を求めたところ差し出された一冊の薄い本。
それは、俺の目からはどう見てもエロ同人以外の何物でもない、オークと姫騎士がいんぐりもんぐりあはんうふんしている一冊の漫画本だった。
そして、姫騎士リーゼは言うに事欠いて、それを婚活指南書とのたまった。
「エルフはこれを婚活にどう生かすんだ?」
俺の質問に、エルフの姫騎士リーゼはこぶしを握って力説した。
「エルフは誇り高い種族だ。自分より弱い男の子供など絶対に産まない。だから、自分より強い男を見定めつつ、自分が打倒された後、いかにその相手を興奮させて肌を重ねる展開に持ち込むか、そして、男を飽きさせずにきっちり子宝を授かるまで続けられるかが重要なんだ。これはその方法のすべてが収められている、私の一族に代々伝わる由緒正しい婚活指南書だ」
俺は頭を抱えた。
姫騎士凌辱系エロ同人の実用性って、あっち方面の意味以外ないと思ってたんだが…。
とりあえず、この世界のエルフという種族は大真面目に姫騎士凌辱系エロ同人を実用書として認識する程度には頭おかしい民族だということだけは理解した。
「で、俺は結婚相手としてお眼鏡にかなったから喧嘩を売られたわけだな」
「そういうことだ。エルフの伝統的な方法では興奮しないのなら、人間のやり方を教えてくれないか」
なんでこんなグイグイくるんだこのスケベエルフは。
「あげませんッ!」
急に席を立ち、声を荒げたのはユーニ。
「師匠は私の師匠なんです! ほかの誰にもあげませんッ!」
珍しく逆上した様子で、俺の袖にしがみついてエルフの姫騎士リーゼを威嚇するユーニ。
その姿を見て、ユーニの不安がどこにあるかを理解した俺は、深い、深い深呼吸を一つして、覚悟を決めた。
「悪いな。リーゼさん。俺、ロリコンだったみたいだ」
自分でも気持ち悪くなる言葉を口にし、袖にしがみついているユーニを抱き寄せる。
小児性愛者のそしりは甘んじて受け入れよう。
性犯罪者と呼ばば呼べ。
汚名の10や20で引き下がってたまるか。
むしろ、俺は望んでそう名乗る。
こんな俺を師匠と呼び、信頼してついてきてくれるユーニが、その師匠に恋人ができたら自分は捨てられるのではないかという不安に押しつぶされそうになりながら、必死に自分の居場所を守ろうとしているのだ。
そんないじらしい少女の望み一つ守れずして、何が師匠か。
「…そうか。残念だ。きっとお前なら、私を満たしてくれると思っていたのだが…」
やがて、俺に引く気がないと理解したのか、姫騎士リーゼはため息をついた。
美しい金髪を振り乱し、何度も悔しそうに舌打ちする。
「ああっ、くそっ、本当に悔しいな…里を出てから200年、ようやく見つけた、私を倒せる、私を満たしてくれると確信できた人なのに…ん? ロリコン?」
何かをひらめいたらしいエルフの姫騎士リーゼ。
俺は嫌な予感がした。
「ちょっとエルフの隠れ里に戻って若返りの霊薬を大量に飲んでくる!」
「待てやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
土煙を巻き起こす勢いで走り去ったエルフの姫騎士を呼び止めることは、できなかった。
「あの、師匠…」
変態エルフが走り去った後の酒場。
ロリコン宣言をした俺を指さしてひそひそと話す者たちの視線をものともせず、ユーニは俺の袖を引いた。
「その、師匠って、本当にロリコンなんですか?」
俺自身の名誉のためには否定したい。
だが、どうやら俺に恋慕を抱いてくれているらしいユーニを傷つけるようなことは言いたくないし、俺自身、ユーニに惹かれつつあることは否定できない。
「うーん、最近そっち方面に目覚めつつあるのは否定できない…」
何より、自分に嘘はつけなかった。
「それって、その、師匠は、私のこと…」
喜悦に満ちた声で言いかけるユーニの唇に、俺は自分の人差し指をそっと押し当てた。
「おっと、その話はここまでにしておこう。教え子とそういう関係になるのはご法度だ。いつか俺の弟子を卒業して、そのあとも気持ちが変わらなかったら、その時にな」
「分かりました。師匠がそういうなら…」
ユーニは少し不満げだったが、それを受け入れてくれた。
うん。さっきの痴女とは、あまりにもヒロイン力が違う。
…俺のほうが我慢できなくなるかもなあ、こりゃ。
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