第6話:思いつく限りの残虐な拷問

「くっ…殺せ!」


縛り上げられて吊るされた金髪の姫騎士が、俺を睨みつけて決然と吼える。


「いや、たった一つ、約束してくれれば別に殺さないしすぐにも解放するんだけど」


俺は、とろとろと溢れそうになる粘り気のある液体を棒でかき回しながら応答する。


「変態め! 貴様の凌辱になど私は屈しない!」


言葉とは裏腹に、屈してしまいそうな内心の震えが感じられる言葉に、俺はにやりと笑って白濁した液体を入れた小皿をその鼻先に差し出す。


「その強気がいつまでもつかな…さあ、おいしいクリームシチューだ。もう食べ物を粗末にしないと約束するなら、好きなだけ食べさせてやろう」


空腹にさいなまれた金髪の姫騎士は、その匂いに食欲を刺激されたのか、無意識に小皿のほうに首を伸ばした。


「くっ…」


皿を左右に動かすと、姫騎士の顔も追従して左右に動く。

もう辛抱たまらないようだ。


「どうした、目が釘付けだなぁ? この欲しがりめ。素直になったらどうだ」


悪乗りしている俺もたいがいなのだが。


「き、貴様のような変態に、負けたりしない! どんな凌辱も無意味だ! 疑うなら試してみるがいい! 縛られて抵抗できない女しか襲えないお前のようなヘタレでも今なら女を抱けるぞ、よかったな!」


それにしてもこの姫騎士様、ノリノリである。




時は少しさかのぼる。




「離せ! この卑怯者めぇっ!」


街の外まで引きずられてなお、金髪の女は元気にわめいていた。


「嬉しいことを言ってくれるじゃないか。騎士を名乗るような連中は、自分が有利な時には絶対にその言葉を口にしないんだからな!」


街道を離れたあたりで、俺は金髪の女を放り投げた。


「こ、この…!」


起き上がるなり逆上して剣を振り上げる金髪女を、麻痺の魔術で動けなくする。

そして、その下腹部に手を当て、腹が減る魔術を容赦なく叩き込んだ。


「んぁあっ!」


あの、卑猥な声出すのやめてもらえますか。

この世界の姫騎士はどいつもこいつもそうなのだろうか。


なお、これは栄養を奪い取るタイプの魔術なので、ユーニをこれで空腹にしてたくさん食べさせるということをしても、ユーニの健康や成長の役には立たない。


そのまま光の鎖を出して拘束する魔術で金髪の女を縛り上げて吊るし、認識阻害の魔術をかけた俺は、一度街に戻っていくらかの買い物を済ませて元の場所に戻った。


戻ったのだが。


「くそっ! 離せ卑怯者めぇ! 正々堂々と勝負しろぉ! 幼女や縛られて動けない女を、抵抗できない女を凌辱するのがそんなに楽しいか!」


今すぐ帰りたくなった。うるさくてかなわん。


まあ、俺のような転生者が想像する姫騎士の王道はユーニのような育てがいのある若者ではなく、ちょうどこいつがそうであるように、実力以上のプライドを持ち、負けると相手が卑怯な手を使ったせいだということにしたがるちょっと関わり合いになりたくない輩なのだが。


「まあ待て。お前さんと戦って俺も腹が減ったんだ。食事を作るから一緒に食べないか」


「へ、変態の作ったものなど食べるわけがないだろう! 犯すならとっとと犯せ!」


「そうか。気が変わったら言ってくれ」


それからシチューを調理して、今に至る。


とまあ、こういう経緯で、現在俺は姫騎士を拷問しているわけだが、俺が思いつく限り最も残虐なこの拷問でも、食べ物を粗末にしないと約束してくれないということは、どうやらこの姫騎士はよほど、食べ物を粗末にすることが生きがいらしい。




手詰まりを感じ、その場で考え込んでいると、近くの茂みが揺れた。


何事かと思って振り向くと、そこには、角の生えた白い馬。


「ユニコーン? 清らかな乙女の前にしか現れないはずだが…」


俺が男である以上、ユニコーンが姿を現すのはどうにも奇妙だ。


「きしゃあああああ!」


なぜか、ものすごく興奮しているらしいユニコーンは、角にまがまがしい紅のオーラを宿らせて俺に突撃してきた。


え、なに? 処女厨だから男は皆殺しにするってこと?

それとも、状況的に俺がこいつの純潔をどうこうしようとしてると思ってる?

だとしたら風評被害にもほどがあるぜユニコーンさんよ。


いくら見た目がよくたって、俺にも選ぶ権利はあるのだ。


「よくわからんが…!」


俺は突っ込んでくるユニコーンの首に組み付き、へし折った。


「とりあえず、納品してくるか」


俺はユニコーンの死体を担いで街に戻った。




冒険者ギルドの解体所にユニコーンを持ち込むと、解体師のおっちゃんはさも珍しいものを見たかのようにうなった。


「こりゃあ、ユニコーンデストロイだな。珍しい」


解体に出したそのユニコーンは、どうやら亜種か何かであったらしい。


「こいつはユニコーンの変異体でな、清らかな乙女が、その純潔を捧げてもかまわないと思っている男と一緒にいるところにユニコーンが居合わせると、怒り狂ってユニコーンデストロイになる。ユニコーンの角は万病に効く霊薬のもとだが、ユニコーンデストロイの角は変質していて、薬には使えねえ。怨念と殺意と呪詛が詰まった、ある意味、武具の素材としては最高品質の素材だが、そんなことよりも…どこかのお嬢さんがお前さんに純潔を捧げてもいいと思ってるってことだな。うらやましいぜ」


なんだその超めんどくさい処女厨みてえな生態は。


しかし、それよりもよほど気になることがある。

そんな魔物に襲われたということは、まさか。


「ちょっと、角もらって行きますね」


「おう。買取は無しってことだな」


俺は解体所を後にした。




「何度も街とここを行ったり来たり、忙しいなお前も。とっとと私を凌辱したらどうだ。それすらできんヘタレか、それとも、幼女にしか興味を持てない真性の変態なのか?」


相変わらず元気に悪態をついてくる女を解放し、俺は角を金髪女の前に突き付けて手短に告げた。


「ユニコーンデストロイ、だそうだ」


それですべてを察したのか、金髪の女は顔を真っ赤にしてへたり込んだ。


「お前さては最初から、俺を怒らせてわからされる気満々だったな?」


「い、言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


金髪姫騎士の悲痛な叫びが、町外れの空にこだました。


「ごめんな。俺、そういう不器用な女の子のアピールを察してやれるほど女慣れしてないんだ。ユニコーンデストロイの説明聞くまで、食い物を粗末にするのが生き甲斐のクソ女としか…」


「言葉責めにしたって加減があるだろぉ!?」


それにしても、俺が思いつく限り最も残虐な拷問よりも、図星をつくただ一言のほうがよほど目の前の敵にダメージを与えたという事実に、俺は自分が拷問に関する才能を全く持たないことを思い知った。

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