第3話:姫騎士の涙
街について最初の夜。
「い、いたぁい…」
乱れた服の隙間から風呂上がりの火照った肌が露になることを気にする余裕もなく、姫騎士少女ユーニは痛みに悶えていた。
「あ、だめ、師匠、そこ…あぁぁんっ!」
痛みに悶えるユーニの哀願を無視し、俺はユーニの体を刺激する。
「そのうち気持ちよくなるさ」
むしろ、痛いのならとっとと終わらせてやらねば、という意識が働いた分刺激を強めてしまったかもしれない。
「はぁぁんっ! そ、そんな…これ以上されたら私…ひゃひぃっ!」
裏返った悲鳴をあげるユーニの下腹部にあたる部位を最後にぐっと刺激し、俺はユーニの足から手を離した。
「やはり内臓もかなり弱っているな…」
昼の食事量から想像はしていたが、ユーニの足をマッサージしてみると、案の定、ユーニは消化器系、特に下腹部の臓器に対応するつぼで強い痛みを訴えた。
「はぁ…はぁ…んくっ…」
強めに刺激された余韻が残っているのか、なまめかしい吐息を漏らすユーニに劣情を抱きそうになるが、俺は必死に人体の構造とツボの知識を思い出すことでそれを振り払った。
もうちょっと、出す声を卑猥じゃない方向に工夫してもらうことはできないだろうか。
「当面は毎晩続けるからね」
頑張ってマッサージに耐えたユーニの頭を撫でると、ユーニは頬をほころばせて俺の手にほおずりしてきた。
「あ…ひぁ…痛いのに…癖になっちゃいそうです…♡」
…俺の理性は、いつまでもつだろうか…。
ベッドの上でぐったりと脱力しているユーニをそのままに、俺は部屋の片隅で毛布にくるまって明かりを消した。
「屋根のあるところで眠るのは久々だな…」
夜風がないだけでもかなり温かく感じる床の上で眠気に身を任せていると、ベッドの上で伸びていたはずのユーニが話しかけてきた。
「師匠は、今日のお昼まで、無職だったんですよね…」
「ああ。盗賊になったのは昼過ぎだけど、どうしたんだ?」
肯定し、問い返すと、ユーニの声の圧が少し、増した。
「それなら、師匠は職業のブーストなしで、アースドラゴンベビーを一撃で仕留めたってことですよね」
ユーニの言いたいことはわかった。
職業によるブーストなしで、素手で、人間がアースドラゴンベビーを殴り殺したということがどれほど荒唐無稽なのか、ということだろう。
俺が何も言えずにいると、ベッドの上のユーニは嗚咽を漏らし始めた。
「どうして師匠はそんなに強いんですか? どうして私はこんなに弱いんですか? ケンさんもシルトさんも、シフィーナさんも、メギスさんもプリスさんも、どうして私なんかを守って死んだんですか?」
ユーニの悲痛な訴えに、俺は軽々しく同情を示すことはできない。
それは、彼女の苦悶を貶める行為だと、そう感じた。
だから。
「ごめん。そのどれについても、俺は答えを持ってないよ。俺は強くないし、強く見えたとしてもそれは借り物の力だ。仲間を目の前で失った無力感についても、どう言葉をかけてあげればいいのかさえわからない」
俺が口にすることができたのは、そんな、何もしてやれないと突き放すような言葉だけ。
俺が強いとしたら俺をこの世界に放り出された女神様に何か細工されているからであって、俺自身の努力の結果ではない。
地球人、日本人、廃ゲーマーなら期待できる、ということで力を投資されているようだが、それだって、前任者であるどこかの転生者たちの実績からそう判断されているというだけのこと。
この世界で俺が、俺自身の努力でつかみ取ったものなど、せいぜい、一人の女の子のわずかな健康改善に過ぎない。
それすらも神からの投資をそこに使い込んでいるだけだろうと言われれば、何も言えなくなる。
だから、結局俺が自力でしてやれることなんて、一つしかないのだ。
俺はベッドのへりに腰掛け、泣きじゃくるユーニの頭を努めて優しく撫でた。
「…この借り物の力がいつまでもつかはわからないけど、それまでは俺が死ぬ心配はいらないし、君が望む限り、俺は君の師匠だ。君を置き去りにすることは決してしない。安心するには足りないだろうけど、俺が君に差し出せる精いっぱいの約束だ」
それを聞いたユーニは、声をあげて泣いた。
どういう感情でユーニが泣いているのか、それすらわからないまま、俺はユーニが泣き疲れて眠るまで、ユーニの頭を撫で続けた。
「お、おはようございます、師匠…」
翌朝、起きたユーニはものすごく気まずそうだった。
昨晩の深すぎる嘆きとは異なり、今のユーニの気まずさは想像できる。
異世界人である俺の感覚としては、鍛錬を調教と呼ぶことのほうがよほど気まずいのだが。
「おはよう。さっそく依頼を受けに行こう」
俺は昨晩のことには触れず、ユーニを連れて冒険者ギルドに向かった。
「規則上、俺が受けることを許される最も難しい依頼を紹介してください」
冒険者ギルドの窓口でそう告げると、ギルド内の職員、冒険者全てがすさまじい勢いで俺たちのほうを振り向いた。
「あ、アースドラゴンベビーの討伐に匹敵するような依頼はございませんが…こちらなど如何でしょうか」
気まずそうに受付嬢が提示してくれたのは、普段なら駆け出しの冒険者がウェルビット(ウサギのようなモンスター)を狩ったり薬草の類を採取したりしているらしい、町の近くの平原にブルホーン(大雑把に水牛のような見た目の、四本角の猛獣)の群れが居ついて駆け出し冒険者が重傷を負う事案が多発しているので討伐してほしいというもの。
「ブルホーンか…味は、美味いんですか?」
見た目通りの味なら嬉しいのだが、さて。
「味、でございますか? 上質な経験値が詰まった、かなりの高級肉でございます」
戸惑いながらも受付嬢が返してきた答えに、俺はほくそ笑んだ。
「それはいい。ユーニ、この依頼にしよう。今日のごはんはステーキだ」
俺は依頼を受け、ユーニを連れて平原に向かった。
次の更新予定
姫騎士調教中~あの、卑猥な声出すのやめてもらえますか~ 七篠透 @7shino10ru
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