その瞳の前、傍観者ではいられない。

瞳。

二つも備わっているのに、瞳が映すものは時に、正確ではなくなる。自分から見えているものだけが真実ではないし、他人から見えるものだけが全てでもない。人それぞれに視点があって、ものさしがあって、見たい光景がある。それら、幾枚ものフィルターを通した結果が瞳には映し出されているのかもしれない。

無口で鋭い目つきの怖い印象の彼。私は、彼が後輩を泣かせている場面に遭遇する。しかし、これにはワケがあって。その理由に気が付いた私は彼に興味を持つようになり……。最悪な出会いから始まる二人の不器用な物語。

目は口ほどに物を言うといいますが、本作は目の描写がとても魅力的でした。「私」という人物を通して見る「彼」の瞳。私が見る光景と心情の移り変わり。そのどれもが豊かで感情的に表現されているので、「彼」の映像が段々と色濃くなっていくような感覚を味わえました。

瞳の情報から自然に、無理なく、彼という人物を浮き上がらせる表現が素晴らしいので、二人の掛け合いのシーンがすごく引き立つのだと思います。

気持ちのよい没入感のまま、迎える最後の展開。瞳の妙を思う存分お楽しみください。

素晴らしい作品をありがとうございました。

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