温かな湯気と香りはそっと背を押してくれる

場所、物、言葉。
人間はこういったものなどに、自分の存在を残すものだと思います。その存在はふとした時に、様々な情報を呼び起こすのです。香りだったり、映像だったり、気持ちだったり。逆も然り。
それらは誰かの記憶の一部となり、残り続けると共に、あの時の自分を蘇らせてくれる思い出にもなるのでしょう。

落ち着いた雰囲気を十分に感じつつ、読み進める感覚は、優しくも激しく心を揺さぶるものでした。

結婚式の帰り。思い出の喫茶店へ、半ば逃げ込むような形で訪れた主人公は、喫茶店のマスター、ネクタイ、オイルライター、マッチ、などなど。様々なものから当時の記憶を蘇らせるのですが、丁寧な表現で綴られた言葉の数々が、主人公のどこか感情的な心理描写と相まって、深くゆっくりと体へ染み渡るのを感じました。

ただただ、目の前の文章を追っているだけなのに、コーヒーが飲みたくなる。そんな作品でした。

是非、お楽しみ下さい。

素晴らしい作品をありがとうございました。