初めは冷たく見えた彼の心の奥底には誰よりも強い優しさが隠れていて、その無償の愛に気付き、そんな彼に興味を持ち、彼の笑顔を見たいと願う主人公のひたむきな姿勢に、つい応援したくなりました。
物語を通して二人の関係が少しずつ変わりゆく様子は、リアルで共感を呼び、初めて彼が笑顔を見せるシーンは特に印象的でした。
そして主人公のして来た行いと彼の変化が描かれたこの部分は、感動的なクライマックスへと向かいます。
ラスト、主人公の有する問題と結末が描かれる部分は、悲しくもあり温かいものでもあります。
結局、彼女の充実した時の中で彼女が得た幸福や愛情、そして彼が彼女に寄り添う姿は、真実の愛を感じさせ多くの人の心に届く強いメッセージとなるでしょう。
この物語が伝えてくれる、愛の強さ、そして美しさ。
人生の中で心に深く刻まれる愛の形が凝縮された素晴らしい作品だと思いました。
瞳。
二つも備わっているのに、瞳が映すものは時に、正確ではなくなる。自分から見えているものだけが真実ではないし、他人から見えるものだけが全てでもない。人それぞれに視点があって、ものさしがあって、見たい光景がある。それら、幾枚ものフィルターを通した結果が瞳には映し出されているのかもしれない。
無口で鋭い目つきの怖い印象の彼。私は、彼が後輩を泣かせている場面に遭遇する。しかし、これにはワケがあって。その理由に気が付いた私は彼に興味を持つようになり……。最悪な出会いから始まる二人の不器用な物語。
目は口ほどに物を言うといいますが、本作は目の描写がとても魅力的でした。「私」という人物を通して見る「彼」の瞳。私が見る光景と心情の移り変わり。そのどれもが豊かで感情的に表現されているので、「彼」の映像が段々と色濃くなっていくような感覚を味わえました。
瞳の情報から自然に、無理なく、彼という人物を浮き上がらせる表現が素晴らしいので、二人の掛け合いのシーンがすごく引き立つのだと思います。
気持ちのよい没入感のまま、迎える最後の展開。瞳の妙を思う存分お楽しみください。
素晴らしい作品をありがとうございました。