刺されたような気持ちです

憧れを抱くとき、誰しもが大きなものに心を動かされるのだと思う。でも、それは限られたものだけが手に出来る最高到達点である。
だからこそ、輝いて見えるし、多くの者がその点には辿り着けず、挫折を味わい、その憧れを諦めてしまう。

仕事に疲れ果てた「高橋琴音」は、散らかった自宅を見て、憧れの大人の姿とはかけ離れた姿に疑問を口にする。自然に目線が吸い寄せられるのは、子供の頃の思い出の品である羊のキーホルダー。その視界を最後に琴音の意識は落ちる。次に目を開くと、そこは一面真っ白な空間であった。その中心には黒いグランドピアノがあり……。

夢の世界。そこで主人公が向き合うのは過去の自分の未練と夢。
どこか現実味のある回想場面の言葉の数々と、膨大な感情が具現化したような黒い敵の存在。夢という大きなテーマ。これらがしっかりと絡み合っていて、主人公の心理描写とセリフがすんなりと体に入ってくる感覚がしました。

短編という限られた尺の中に詰め込まれた、大きすぎる想いを存分に感じられるのです。

夢の達成とは、憧れによって刻まれた心象風景そのものを再現することでしかないのか。
もっと本質的な。誰かの心を、あの時の自分の心のように動かしたいという、いつの間にか擦り切れて、夢の副産物となってしまった感情を満たすことは妥協なのか。

是非、お確かめ下さい。

素晴らしい作品をありがとうございました。