第19話 パパッチにも黒歴史があった、当然!?
俺とロリっ子リリサは、メインクエストの【マリベル鉱山】攻略をクリア後に再び連続クエストを受けるが、その日は時間も迫ってきていたのでお開きとなった。その後現実に戻って来た俺は、ガジェトを外しPCを落とすと弟の景介がいる隣のブースを覗いてみることにした。
《こんこん》
返事がない、ブースの外に据え付けてあるセーフティ装置は緑色に点灯している。これは使用中であるというサインだが、赤はSOSに相当し消灯なら無人という扱いになる。
「開けるぞ~!いるんだろ」
『あ~っ ダメよそんなの――』
なんだこれ、まじか……。
「ダメじゃねえだろ!」
俺は怒りに震え、景介にゲンコツを食らわせた。
目の前のモニターに映し出される、エロゲーのサビのシーンを見せつけられたからではない。神聖はラウンドエックスの設備を冒涜すかのような行為が許せなかったのだ。
「いてっ――、なんだよせっかくいい所なのに」
「痛かねえだろ、メット越しだし。でさ、お前なんつう事しやがるんだよ。せめてモニターくらい消せや」
ラウンドエックスのシステムはメット内の360°ディスプレイと、通常のモニターのデュアルディスプレイに対応できるようにAIが自動でやってくれるのだ。
「だってよ~――」
景介が言うには、俺たちと王都ウールポリスの冒険者ギルドで別れた後、必死にガジェットと取っ組み合いをしたが、疲れたのでログアウトしたらしい。そして、ムフフな考えが頭をよぎり、ストームのマイライブラリからVR対応のこのゲームをインストールしたと言うのだ。
「なかなかすげ~なこのシステム、最高かよ!」
「でも、どうやってゲームパッドとガジェットのシステム同期やったんだ」
「それわさ、好きこそもののなんとかちゅうじゃん」
「その手があったか――、じゃねえよ!」
「まあまあ……」
「まあいいか、引き続きFFでは勝手な真似すんなよ。それと、キャラ追加して始めからやったほうがいいぞ、じゃあな」
俺はそう言ってブースを出た。
ラウンドエックスのこのシステムには、考えようによって無限の可能性があることに改めて気付かされた。将来どんなスタイルのタイトルが発売されるのか楽しみでならない。
*
俺はブースのある離れ家を出て、パパッチのいる母屋へ向かった。
「お母さん、パパッチはまだ起きてるかな?」
「そうね、最近Webドクターの件であれこれやてるから、書斎で頑張ってると思うわ」
《きゃっ、はっはっは――》
母
「バラエティーなんて皆同じって感じだけど、どこが面白いの?」
「あれあれ、ママには同じゲームを何年もやってる春香ちゃんの言葉とは思えないは」
「ママとかきっしょ」
俺は母さんとの何時ものバラエティートークを切り上げ、パパッチのいるはずの書斎へ向かった。
*
書斎と言っても医学系の論文や雑誌ばかりではなく、往年のゲームパッケージやフィギアも並んでいる。母楓には「いい年こいて、何時までも――」砲を浴びせられているが、これまで死守してきた男の砦でもあった。
《どんどんっ》
「パパッチいる~?」
「うん? だれだ、春香か――。空いてるぞー」
扉を開けるとそこには、VRゴーグルのモニター部分をパカっと開けて振り向いているパパッチがいた。
「何やってんの? Webドクターってきいてたけど、いやらしいっ」
「おいおい、男子がVRゴーグル付けてると【いやらしゲーム】って決めつけるのはどうかと思うぞ」
確かに父信雄の言うとおりかもしれない。だが、昭和の時代にビデオレコーダーが高額だった時代に普及したのは、エロ男子パワーによるところが多い。当時ブルーフィルムがダビングを繰り返して広まり、その再生とダビング用途としての使い方が主流と言っても過言ではなかった。それが巷では、VRゴーグルにも言えると囁かれているのが現状だ。
「ふーん、なるほどね」
「疑ってるな、じゃあこれを見てくれ」
パパッチはPCを操作すると、そこには3DCGによる都市空間が広がり、通りには様々な看板が並んでいた。
「春香ここを見てくれ、どうだいい感じだろ?」
「ええっ! 【NagaoClinic】ってあるじゃん長岡じゃねえの?」
「春香、父さんがKagenobuのハンドルをよく使ってるの知ってるだろ、なぜかな?」
「それはさあ、長尾景信から来てるんでしょ。耳タコだよそなん」
「じゃあ、なんで【NagaoClinic】だか答えは出たな」
VRゴーグルの突っ込みから話がそれてしまった。だが景信の話題があがったのは丁度いい。
「パパッチ、ところでFFでも【Kagenobu】使ってたよね。その時【Mahiro】って名前の人と仲良くしてたって聞いたんだけどさ、その関係で他に仲良い人って居なかった?」
「ま、まひろ……。そうだなあ、たしか……、【Sukenaga】だったかな――」
なんだぁ、パパッチ汗かいてね? キョドってね?
「ねえねえ、さっきさ、ゲームの中で相談されたの。【Mahiro】さんの娘のリリサさんが、父親の事で悩んでるんだって」
《かたん》
静かにドアが閉められる音と共に、淹れたてのコーヒーを持って母楓が入って来た。
「春ちゃんが聞きたかったのはその事だったのね」
コトンとテーブルにコーヒーカップが置かれると、父信雄はボクサーにでもなったように両腕で正中線をガードしてきた。
《ぐりぐりぐりっ》
「痛い、いたい、イタイーッ――」
ガードは通じなかった、フックの感じで楓の右拳が信雄の側頭部を攻めたてていた。
「信雄さん、どうやら
これはどうも父信雄が、母楓の尻にひかれるようになった原因の一端が、解き明かされることになりそうだ。
「参ったなあ、たしかに【
パパッチの話によると、しばらくは仲良くしていたが、いつしか二人はギクシャクするようになってログインしなくなり、それっきりだという。
「その、ギクシャクってのに信雄さんも関係してますもんね」
母楓は夫信雄の嫌なところを着いて来たようだ。
「え~っ トライアングルラブレター! やばない?」
俺は三角関係って言いたくて、すこしボカしたつもりだったが通じたらしい。
「おい春香、断じていうが俺はやましいことはしていない(きりっ)」
「でもね信雄さん、結果的に種付けをした事には変わりはないわ」
「まじか、きんも、きっしょ!」
俺は両手の握りこぶしを、お腹の辺りで上下させて抗議した。ちなみに前にも話したが、レディースだった時の口調が今でも体にこびりついていて自身を俺と言ってしまうのだ。
「ぐぬぬぬ、ぬっ――」
パパッチは言葉を飲み込み、顔を伏せながら耐えているようだ。よくよく考えてみれば、パパッチは夫として父として家族を愛しているからに違いない。争えばほころびが生まれ、やがて家族関係は破れてしまう。父信雄のそんな態度は、
「春ちゃん、お父さんはね、言うとおり悪いことはしていないわ。ただ医療従事者として倫理にかけた行動をとってしまったの、結果的にね」
母楓の話によると父信雄は、仲の良い仕事仲間の産科医師に不妊治療の研究の爲と頼まれて精液を提供したらしい。どういうわけかその産科医師は、真優とも交友があり信雄の検体で妊娠に成功したことが内輪で発覚したというのだ。
「それじゃ、リリサの本当のお父さんってパパッチ?」
「春香すまんな、そう言う事になってしまった。それが何故か資永にも漏れたらしく相当悩んだみたいだ。俺には話してくれなかったが、まあ、当然そうなるわな」
「春ちゃん、本来なら提供者の情報って秘密なの、それは知ってるよね。問題は再婚以前に治療が行われた結果の妊娠って事ね――」
母楓の更なる話によると、真優の前の夫とは不妊治療で妊娠が発覚する前に離婚が成立した。つまり、資永は自分の子ではないことは承知の上での再婚だったのだ。ところが、ゲーム内ではあるが結果的に旧友の景信の実子であることを漏れ聞いたなら穏やかではいられない。信雄と資永、真優の三人は仲が良かったから、なおさら疑惑を生んだのだ。
「そうなんだ、パパッチ……。お父さんゴメン言いすぎたわ」
「いいんだよ、俺の黒歴史さ……」
そんな会話が終わると、パパッチ自慢のWeb診療所【NagaoClinic】を見学する事になる。俺は切りの良いところで部屋をあとにするが、その日はなかなか寝付けなかった。
「リリサには、どう話したらいいのだろう……」
つづく
◆◆◆
みな様お読み戴きありがとうございます。
この続きから結末へ向けて物語が進んでいくわけですが、リリサは望みどおり父親の真実の姿を知ることになる訳ですが、どうしたら彼女は満たされるのだろうか? 書いてる私にも分からなくなってきた。ここが思案のしどころか……
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夏目吉春
AIコンテンツクリエーター・アナちゃん爆誕、ロリっ子リリサがぐいぐい来るんですけど! 夏目 吉春 @44haru72me
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