第18話 今ここに、最強のバースト炸裂、かな?

 俺たちとロリっ子リリサは、メインクエストの目的地【マリベル鉱山】にて、最終ボスである【剛腕のドドリギュス】との戦闘をいよいよ始めたのであった。


「これを食らうにゃ~!」


 リリサはフィジカルバースト発動条件であるVゲージをためるため、魔獣【紅蓮のブラッディ・マウ】へと変身して攻撃を加えた。だが、流石ラスボス【剛腕のドドリギュス】は、その強靭な筋肉装甲ではじき返している。


 フィジカルバーストとは、PTメンバーAのコンボにメンバーBのコンボをうまく連携させると発生する、敵へのダメージの追加効果をいう。


 ところで、戦いの最中であるのにこのラスボスは――。


「おい、まってくで」


 彼は今までずっと立ったまま、俺たちの攻撃を待っていた。なので、してきたらしく、それまで真っ赤だった顔が紫から青へ変わると、トイレ行かせてくれと懇願してきたのだ。


「ぎっしゃぁ~~~~っ! しゃあないな行ってきてもいいにゃ、しっかりフリフリしてから戻んだぞ、いいにゃ」


「わがった、ありがて~」


 魔獣マウに変身したリリサの許可を得たラスボスのドドリギュスは、下半身の筋肉をしっかり締め上げると、半歩づつヨタヨタと壁の中へ消えていった。


   *


 しばらくして返って来たラスボスのドドリギュスは、勇気凛々、筋肉もりもり。


「これは、トイレ行かしてくれたお礼だど~!」


《ずどど、どどぉ~ん!》


 とんだお礼だ、礼儀知らずにもほどがある。この俺にドドリギュスの振り上げたデカトンカチが叩きつけられると、アナの強化バフにもかかわらず地中にめり込んでしまった。


 もとい、バフは効いていた、俺のHPは満タンである。だが、めり込んだままでは手も足も出ず、超長身うさ耳メスのヒヨもタンクの俺の状況を見て呆然と突っ立っている。


「おいおまえ、トイレ行かしてやったんだから、【ジャッジメント】とか技名をさけんでから打って来いよ。油断しちまったじゃねえか」


 ドドリギュスはトイレすっきり、かつ、鬱憤うっぷんを晴らし、ちょいと気をよくしたのか俺に同意してきた。


「わかったどお、次から気をつけるど」


 この会話の隙をついて、俺の魔ペットアナは【プリング】を唱えた。


「あれ? どうしたのかしら、魔法が効かないわ」


 するとリリサの魔ペットルルは、アナに向かって刻み海苔のようなチップが混ざった黄色い粉粉こなこなをふりかけた。どうやらその正体は、ではなく魔法強化バフのようだ。


「ルルさんありがとう、もう一度やってみるわ」


 俺はバフのかかった【プリング】で、首を持っていかれそうになるのを必死にこらえると、地面から術者アナの所まで勢いよく引き抜かれてきた。


「ぐっはぁ~! 助かったぜ」


 いよいよボス戦再スタートである。


   *


 魔獣マウへと変身したマウっリリサは、珍しく状況を見守っていた。と思いきや、猫足立ちとなって前後左右に華麗なステップを踏んでいる。実はトントンと小刻みに地面を蹴ってVゲージを溜めていたのであった。


「春ちゃん、アタイに任せて。返礼はたっぷりしてあげるにゃぁ~!」


 リリサは、雄たけびをあげ後ろ足で地面がへこむほど蹴ると、ラスボスのドドリギュスに躍りかかった。


「コールフージョン! 遠慮なく召し上がれ~っ」


 リリサの【ネコパン】が炸裂した。次に、手順通り華麗なバックステップから着地すると、お尻を地面ぎりぎりまで下げた。そして、ドドリギュスへ向けてちぢみきったバネを解放し、回転しながら舞い上がり頭上まで達すると――


 「ふぁいあ~っ!」


《ぱっか! ばっこ~ん、ぐわわわ~ん、どぅ~ん――》


 豪快にフィジカルバーストが決まった。ボッチフィジカルバーストの〆である『ふぁいあ~っ!』の掛け声と共に【ダブルネコパン】が炸裂すると、敵への追加効果となってダメージのバーストが発生したのであった。


 通常、コンボにバーストを付加させるためには、他のメンバーによるコンボとの連携が必要になる。だが、リリサには単独で成立させるためのアビリティー能力【ボッチフィジカルバースト】が、ルルによって付与されているのだ。


「春ちゃんいまですよ、ただし、『コールフージョン』と宣言を!」


 ルルは俺に対しフージョン・バーストについて解説してなかったことを、とっさに助言してきた。


「わ、わかった。でも、厨房かよ!」


「おい春樹、そんなこと言ってる場合じゃねえぞ!」


 確かにヒヨの言うとおりだ。俺は腹を決めた。


「コールフゥージョン、俺様も御馳走してやるぜ!」


《ぼっ、しょぼしょぼ、しょぼ~……》


 ささやかな効果音と共に小さなエフェクトが見えたと思う、たぶん。タンクのコンボなんてこんなものだ。だから俺は嫌だったんだ。


「くっくっく、俺がてめえに引導を渡してやる!」


 《しゅば~っ、ぎゅ~ん、ずどどど、ドーン!》


 ヒヨのクールなセリフの後、強弓による無数の破魔矢が着弾すると、次々に炸裂音が鳴り響いた。だがその後発生したバーストは言葉で表すことが出来ないくらいの、軽快かつ豪快な爆裂音が響き渡ったのでる。まじクール、ろじクール! ヒヨ決めてきやがったな。


「ヴァ~~~~~ッ!」


 ラスボスドドリギュスの悲鳴もバーストよるものか定かではない。

 だが、無論このバーストが発生する以前に、俺たちにはアナによる全体防御魔法が唱えられていたことは言うまでもない。


 「あれ~? ドドりんちゃん飛んでっちゃったね~。食べ過ぎてさっそくウ〇チかな~」


 俺たちの放ったフージョンバーストの威力は驚異的であったが、流石に全快のドドリギュスのHPは削り切れてなかった。だが、爆風はすざまじかったようで、ボスの体は吹き飛ばされ、壁を突き抜けてしまっていた。そして、ガラガラと崩れた瓦礫に閉ざされてしまったラスボスの【剛腕のドドリギュス】は降参を余儀なくされた。


「おばえたちなんか嫌いだ、もうくんな! ぐび、ずび――」


 瓦礫の隙間から【マリベル鉱山】の最終ボスの声が漏れてきた。泣きべそか。


  ファンファーレと共に、『ミッションクリア』の文字が俺のヘッドマウントディスプレイに表示された。それは360°映し出す優れもの、なにせラウンドエックスの開発した最高のVRシステムだからな。


   ◇◇◇


 俺たちはメインクエスト【マリベル鉱山】のクリア報告へ向かうが、超長身うさ耳メスのヒヨはマッチングをこなすためPTを抜けていった。


「わりーな、結構ポイント足りてないんで」


 このゲームでとは、まず、希望者のクリア経験のある複数のダンジョンの中から、まるでルーレットを回すようにしてひとつ決められる。そして、ダンジョンへの突入メンバーさえも、希望者からタンク、ヒーラー、DPS2名をルーレットでマッチングさせて、順番に突入させる仕組みになっているのである。これは固定でPTを組む必要が無くカジュアルに遊べるため、世界中の多くのプレイヤーが利用しているだ。


 さらに、通常ダンジョンをクリアすると一定のポイントが貰えるが、そのポイントは一週間で溜められる上限が存在する。重要なのはポイントを使いプレイヤーのレベルにおいて、そこそこ以上の装備アイテムと交換できる、かつ、一日一回のマッチングではポイント増量がある嬉しい仕組みまで用意されているのだ。


   *


 俺はロリっ子リリサと冒険者ギルドへ向かう道すがら、例の景信に関する話の続きを始めようと彼女へ声をかけた。


「おいリリ子、俺の父のキャラ景信についてだが、どんなことが知りたいんだ?」


「あのね、それはね――」


 リリサによると、母真優まひろは2回の離婚を経験している。1回目の離婚は不妊が原因で、二回目は法廷再婚期間が過ぎてすぐのスピード婚の末だったという。どうしてそうなったかというと、ゲームでは時にリアルの話のできる関係になるフレが出来ることは割と多い。おそらくただの話がいつしか相談となり、リリサ母への同情から結婚の流れになり、この時の夫がリリサの父となる。そして破局を迎えたのだろう。


「お母さんは、父さん以外にもゲームで知り合い、遊んでいた方がいたみたい」


「なるほど、再婚相手の他にも誰かフレがいたってことだな」


「そう、父さんと別れた後もその人の話をよくするの」


「二回も離婚したことになってるけどよ。まあ、別れた夫の話は理由にもよるけど、話したがらないのは、あるあるだろうな」


 ロリっ子リリサは普段と違い、言葉遣いが丁寧だ。そんな様子を見ていると、いかに真剣に景信について知りたがっているかが伝わってくる。


「だっておかしいでしょ? なんで私のお父さんの話はしてくれないの」


「確かにリリサの言うとおりだな。それでよく話に出てくる人ってのが景信、つまり俺の父さんの操っていたキャラってことか」


「うん――」


 話を俺的にまとめると、リリサが知りたがっているにもかかわらず、リリサの父の話はしたがらない母がいる。そこで、リリサ母とフレ関係にあった景信が何か知っているかもしれないから話を聞きたかったというのだ。


「わかったよ、それで母親はいまだに父親の話は聞かせてくれないから、仕方なくってことだよな」


「それが、ちょっと……」


 リリサは今までになく声のトーンを下げ、うなだれて言葉を詰まらせている。


「そうか、言い辛いならいいぞ、べつに……」


「い、いや、あのね――、お母さん――死んじゃったの――。うぇっぐ……」


「そうか、つらいな――。ゆっくりでいいけど、情報が欲しい。お母さんの名前、教えてくれ」


   *


 二人の足取りは止まり、路傍の石にリリサをゆっくりと腰かけさせる。

 俺は続いて隣に腰を下ろすと、いつの間にか【マリベル鉱山】の上に夕焼け空が下りてきていた。


「お母さん、お母さんの名前は真優まひろ、ゲーム内では【Mahiro】を11でも14でも使ってたと思うの」


 こみ上げてくるものが収まったのか、ロリっ子リリサはそう答えた。


「ありがとうリリサ、なる早で父さんKagenobuに聞いてみるよ」


 その後、王都の冒険者ギルドへ戻ると、リリサはクリア報告に続き次の指令を受けた。それは【マリベル鉱山】へ行く街道の分かれ道を右ではなく左へ進み、その先にある町を通り越して、大分先まで足を延ばすと見えてくる港町へ向かえという。


 そして、その町の地下にある【サンドハウス】へ行けというものだった。

 だが、俺たちはここまでにしようと、ログアウトすることにした。


つづく


   ◆◆◆


 皆様こんにちはそして今晩は。

 今回も最後まで読んでくれてありがとうございます。

 いよいよ物語の革新である、理由について迫ってまいりました。おおよそ今後の展開は考えてあるのですが、問題は結末ですね。どうやってハッピーエンドに持って行こうか悩み中です。


 毎度のお願いで恐縮ですが、応援のハートやコメント、出来ればですがお星さまを戴き辛口であったとしてもレビューいただけると、吉春の嬉しさがバーストするに違いありません。よろしくお願いします。

                      ハンドル名 72me44haru(仮)

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