第17話 紅蓮のブラッディ・マウ、再び
王都【ウールポリス】でメインクエストを受けたロリっ子リリサと俺たち一行は、目的地【マリベル鉱山】へ侵入すると、2体目の中ボスエリアまでやって来た。
ロリっ子リリサはこの中ボスをプッチョと呼び、奇声を発すると驚くほどの跳躍力で坑道を蹴り、プッチョに食らいついた。
「おいヒヨ、何でお前リリサを捕まえとかんの?」
「まあ、ほれ。後で食レポでも聞こうかなと。で、何で春樹もタゲ取りにいかんの?」
「いやあ、俺も気になってな……」
つうことでリリサの食いっぷりを観察していると、まるでプッチョは顔にたかってくるハエを振り払おうと、必死にもがいているように見えた。
《ば~よ、び~よ、ぶ~やんべぇ》
どうやらプッチョはすごく迷惑そうだ。
『いい加減にしろ、このくそバエが~』
おそらく、このように
「こいつ硬くて美味しくないにゃ」
ロリっ子リリサの食レポに、プッチョは言葉が分かるのだろうか、緑色から赤色に体を変化させると辺りの地面が振動する。すると彼女はサッと飛び退くが、プッチョは激おこのようだ。
「アナキン、全体防御をかけてくれ」
俺は危険を察知するとこう叫んだ。
「おk了解丸」
プッチョは巨体を爆発させると、複数に分かれた体が辺りに散らばった。直後その小さな体は、さらに爆発して細かなプッチョになって飛び散った。だが、アナの防御魔法により被害は抑えられた。
「おい、飛び散ったプッチョが集まると、また面倒なことになる。細かいうちにひっ捕まえて、あそこの樽に押し込んでしまえ」
俺がそう叫ぶと、ヒヨはなるほどと相槌を打ったかと思うと、速攻プッチョを樽に突っ込み始めた。ところがリリサはというと――
「あれ~、ちっちゃくなったら以外に美味しいにゃ」
食っている彼女はむさぼっている。こういう方法もありだなと、俺はそう思うと同時に開いた口がふさがらなかった。すると、どうやらプッチョは降参したようだ。
*
俺たちは中ボスのプッチョを倒すと、広間の隅へ目を向けた。そこには発破装置が据え付けてあって、その先の岩盤には穴が二つ開いている。どうやらここへ火薬を詰めて爆破し、坑道を先へ広げようとしたに違いない。しかし、火薬がない事には始まらない。
「おいプッチョ、火薬はどうしたか知らにゃいか?」
リリサは樽をコンコンと叩いて問いただしている。
《ぷよよ、ぐびやん、ぶ~べっこ》
アナの通訳によると 「ここから出してくれたら教えるプッチョ」らしい。
俺は仕方がないので、樽のタガを叩き切ってやった。すると、中からドロリとプッチョが流れ出てくると、周りのプッチョと合体して火薬を吐き出してきた。
「おh、ありがとう。ところでウチの
俺がそう言うとプッチョ語で答えてきたが、アナの通訳によると坑道にへばい付いたコケ類を食えば元に戻るから無問題だそうだ。
*
俺たちは火薬を手に入れ、坑道を掘削するための爆破に成功すると、その先には鍾乳洞のような空間が広がっていた。
「ほえ~、ずいぶん変わった景色になったじゃにゃいか」
ロリっ子リリサの言うとおりだが、変わっているのは景色ばかりではない。辺りに
「それじゃあ行くぜ!」
リリサが見とれている景色はというと、天井からぶら下がっている鍾乳石というか、長い年月をかけて、
また、エーテルとはこの世界を形作るすべての物質のもとであり、E = mc2が表すようにエネルギーの大元でもある。
彼女は俺の掛け声に気付いていないようだ。
「置いてけぼりとは、ひどいにゃ~」
「リリサさん、これが通常のPTの在り方ですよ。それとよそ見厳禁です」
タンクが先に行くのは当たり前だと、ヒヨはリリサに対して常に優しく丁寧に接している。それをどうこう言うつもりは無いが、踏み込めない所に何かヒヨの秘密が隠されているのかもしれない。
俺たちは順調にモブを退治しながら洞窟内を突き進んでいった。
《ごごごっ、がらがらぁ~――。どすん》
轟音は突然だった。ちょうど突き当りの壁の所が崩れ落ちると、巨人が出現したのだ。その姿から察するに、例の相撲部屋ボスの兄貴分であろうか。
「ごっつぁんです! ここは俺を倒してから行くでゴンス」
「おうそうかい、それじゃあ金を貸してもらおうかい」
「おい春樹、金じゃなくて相撲の稽古ならそこは胸だろ!」
ヒヨの突っ込みはもっともだが、別に洞窟内でカツアゲをやろうってんではない、倒すとギラを落とすんで結果的にそういう形になるだけだ。
《ばきっ、どか! ぼこっ――》
ただの雑魚だった。
「おいゴンス、お前。言う割には稽古が足りてねえぞ」
「足りないにゃ!」
俺たちは、あおむけに倒れている兄弟子のゴンスからギラを巻き上げると、突き当りと思われた壁の、左の方へ伸びる細い通路を下って行った。
*
いよいよ【マリベル鉱山】のラスボスの部屋だ。
ここにも大きなドーム状の空間が広がり、中央には【剛腕のドドリギュス】の文字が浮かんでいる。金色に飾られたでっかいトンカチ、牛頭のメット、腕から肩にかけて筋肉が異常に盛り上がっている。だが、これまでのゴンスたちの親方らしく、その大きさはまるで格が違った。
「おでたちを閉じ込めたお前たち、悪もの、踏みつぶしてやるど~!」
俺たちが閉じ込めたわけじゃないけど、こいつらにしてみれば憎い
「みな様、ここでルルからの提案があります。実はフィジカルバーストの進化版をクリエイトさせていただきました」
「そうか、ルルそれってどんなワザだ?」
俺はルルのクリエイトするワザに興味があった。これまで不完全だがイケてるものが多かったからな。
「それでは説明しますね。またたび丸で変死、もとい変身したリリたんのフィジカルバーストと、ヒヨ様と春ちゃんコンビのそれとを
ルルの解説をまとめると、二組のフィジカルバーストをタイミングよく決めて
「ここで問題があります。それは変身後のバーストでなければ発動しません、そして――」
ルルによると、これまでと違い【紅蓮のブラッディ・マウ】に変身するには、【またたび丸レッド】を使い『はぁ~! チェーンジ、リリ子、バクチックふぁいあ~!』と叫びながら変身ポーズを正しく決めないといけないらしい。ルルは最強技が安易に発動出来たらつまらない、という思想からだと力説している。さらに。
「リリたんいいですか、まずは、両こぶしをお腹の所でにぎり『はぁ~!』とお腹に力を入れて発声します。そして次は右手をチョップ状態にして左上方へ力強く突き出し、ゆっくり弧を描くように右上方へ右腕を持って行きます」
「なるほど、それでどうするにゃ?」
「いいですか、この右腕を右上方へ持って行くとき『チェーンジリリ子、バクチックゥー』としっかり発音するんですよ」
「ふむふむ」
「そして最後です、ここが最重要です。右手を握りこぶしにして腰へ素早く移動させ、同時に左手をチョップ状態にして右上方へ力強く突き上げます。この時『ふぁいあぁ~!』と絶叫してください。リリたん得意ですよねこういうの」
そう言うとリリサの魔ペットルルは【またたび丸レッド】を手渡した。
「次からはアビリティーメニュから、これを選択して飲めばおkですのでよろしくです」
「わかったにゃ、変身ポーズって『お面ライダー1号』のやつと同じじゃん」
「タケシかよ!」
俺は思わずそう叫んだ。
ここで変身のリハーサルが入ると、俺は昔懐かしいお面ライダーを思い出し、ダメだしをした。数回後――。
「え~い今度こそ。はぁ~~~! チェーンジリリ子ォ、バクチックゥ、ふぁいあ~!」
決まった! 絶叫と共にただならぬ闘気が辺りを埋め尽くすと、紅蓮の炎が立ち上がり中から猫科の魔獣【紅蓮のブラッディ・マウ】が姿を現した。
「萌えるぅ~ 萌えるようだぁ~。しゃぁ~~~~っ!」
真っ赤な咆哮がこだました。
*
「おい、準備運動は済んだかねザコ冒険者君。こっちは暇じゃあないんだ、さっさとかかってくるど~!」
でっかいトンカチを地面にたたきつけて、ラスボス【剛腕のドドリギュス】は俺たちにザコ判定を下してきた。
「ザコとはなんだ、このザコがぁ~、ぎっしゃぁ~~~~っ!」
魔獣となったリリサは尻尾を極限まで膨らませ、前後猫足立ちとなり全身の体毛を逆立てて威嚇している。
まるで子供の口げんかである。
俺の魔ペットアナによる一連の強化バフは既にかかっていたが、めんどくさいのでリリ子の突撃を見守ることにした。
つづく
◆◆◆
みな様ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。
1話1ダンジョンとかにした方が良いのでは、と思うのですが設定とか技のカラクリと解説などがあったほうが分かりやすいと思い、つい長くなってしまっていました。
ですが、まだまだ理解不能はシーンなどあるかなと思います。コメントなど頂けましたら、修正していきたいと思いますのでよろしくお願いします。ハートお星さま(レビュー)も募集中ですので重ねてお願いいたします。
夏目吉春
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