第16話 ルルは技の改修を怠らない、イン・マリベル
王都【ウールポリス】でメインクエストを受けたロリっ子リリサと俺たち一行は、目的地【マリベル鉱山】の入り口までやって来た。
「そこの君、ここはマリベル鉱山でいいのかにゃ?」
リリサは入り口で警戒している王都の衛兵にいきなり声をかけた。毎度のことだ。
「お前たちは冒険者か、この鉱山はイマネジアワークス社の持ち物だが、ギルドの要請でやってきたのかな?」
「あったりー!」
リリサは親指を立てて肯定したが、コミュ力に少し欠けているようなので俺が話に割って入った。
「衛兵さんの言うとおり、俺たちはこの鉱山に巣くう巨人どもを退治するため派遣されて来たわけだが、進入許可を戴きたい」
衛兵はうなずいた。
「よかろう、貴公らの働きに期待している」
この衛兵はどうやらイマネジアワークス社の依頼により王都から派遣されてきているようだが、この国での同社の地位がうかがい知れる。
◇◇◇
俺たちはルルの【
俺たちの立つ場所は、少し開けた空間だ。そこに
「おいリリ子、いい加減先走りするのはやめとけよ」
「だって~、勝手に体がうごくにゃぁ~」
「うそコケ」
毎度のことだが超長身うさ耳メスのヒヨは、両足を高速回転させてジタバタするリリサの首根っこをつかんでつるし上げていた。
「アナキン【加速】頼むは」
「了解で~す。これからはさ、敵グループに対峙する状況下では、言われなくても【加速】のバフが発動するようにしておきますね」
「ありがてえ」
俺の相棒である魔ペットアナは、ハトに餌でも与えるような仕草で魔法をかけてきた。彼女の手のひらから放たれた黄色い粉は、煌びやかに光ると俺の体をしっかり包み込んだ。すると体は軽くなり、周りの景色が止まっているように見える。
「それじゃあ行きますか」
俺がそう言うと準備良しと見たヒヨはつかんだ手を離した。するとロリっ子リリサミサイルが発射されたのだ。
「ぎぃ~にゃぁ~~!」
雄たけびと共にリリサミサイルが敵グループへ次々に命中すると、モブたちは一瞬で溶け消えてしまった。残像をみるとモブたちは鉱石の形をした頭をもち、そこから直に蜘蛛のような足を生やしている。ところが、消えてしまったのはモブだけではなかった。
《ガチャ、ガチャ》
「あれ~――。 ザコどもやっつけたのに開かないよぉ~?」
既にリリサは、先へ進みたい一心で、扉のレバーと格闘していた。
「開く訳ないだろ、鍵がかかってるんだからな」
とりあえず俺は突っ込みを入れたが、どうやら入れるべきは鍵穴にカギだ。
「リリサちゃん、ほらこの鍵使って」
ヒヨは床に落ちていたカギを拾い上げ、優しくリリサに手渡した。
「春ちゃん、そういうとこなんですよ。僕はヒヨ様を見習ってほしいと思います」
「うっせ~ぞルル、AI魔ペットのくせに生意気だ」
ぐいぐいしてくるロリっ子リリサの魔ペットルルは、どうやらご主人である彼女の想いを汲んでの言動なのだろうか、だとすれば優れたAIだと言える。恐るべしラウンドエックス。
*
開錠された扉を潜り抜けるとそこには昇降機が設置されており、俺たちは全員が乗るのを確認すると線路の切り替え装置のようなレバーを反対側へ倒し、巨大な筒状の鉱山内部へと降りて行った。
そして俺たちは、順調にモブ共をやっつけながら坑道を進んでいった。すると巨大な筒状の竪穴から横方向に伸びる坑道を見つけると、そちらへ進路を変えた。
「春ちゃん、火薬が落ちてるにゃ、拾ってOK?」
「ああいいぞ、お前の後ろの方にも一個あるからな、2個必要なんだ」
俺のアドバイスを素直に聞き入れた猫耳俊足のロリっ子リリサは、火薬を素早く拾い上げるとこっちへ振り向いた。ちなみにこのゲームは、落ち物に火薬と表記される新設設計なのだ。
「春ちゃん集めたにゃ」
「そいつをな、トロッコの線路が途切れている
先へ進むためには、崩れて通れなくなった坑道の瓦礫を、爆破して除去する必要があるのだ。
「リリサさん、俺がやりますよ」
ヒヨはリリサから火薬を受け取り、爆発エネルギーを考慮した適切な場所へセットすると、すぐにその場を離れた。
「リリ子こっちだ、このレバーを勢いよく押し下げるんだ」
俺もヒヨを見習おうと思い、少し丁寧に解説したつもりだ。
「やったぁ~、爆破するにゃぁ~~!」
リリサが助言どうりに操作すると、豪快な爆発音とともに
「あれ~、向こう側は見えるようになったけど、これじゃあまだ進めないにゃ」
「確かにな、もう火薬は無いしどうすっか……」
火薬がしけっていたのかなと俺が腕組みをしていると、ルルが提案してきた。
「リリたん、こういう時こそフィジカルバーストですよ」
フィジカルバーストとは本来コンボを決めた後に、別キャラのコンボが特定の組み合わせとタイミングで決まると威力がバーストする現象をさす。だがロリっ子リリサは、これを
「今回は変身しなくても発動するよう改修しました。Vゲージが新しく表示されてると思いますが、70%以上でスタンバイとなり数値が上がるほど威力も上昇します」
「にゃるほど、【またたび丸】はまずいから、いい改修だにゃ」
「でもリリたん、変身後には威力に倍率補正がかかりますよ」
「倍率補正かぁ、とりあえずわかったにゃ」
「リリサさんまずは、試しに素のままでやってみて下さいよ」
ヒヨのの言葉を受け取ったリリサ。
「おk、ほいじゃ、いくにゃぁ~」
リリサはゲージを確認せずに、【ネコパン】から【ダブルネコパン】のコンボから発生するフィジカルバーストを瓦礫に叩き込んだ。すると、あっさり瓦礫は吹き飛んだが、予想以上の威力だったのか坑道の直径を上回る大穴が開いた。また、アナの機転で前もって唱えられていた防御魔法で、弾丸の速さで飛んでくる瓦礫の
「これも悪くないにゃ、ルルたん流石だにゃ」
俺たちはでかでかと開いた坑道を進むと、そこには土俵の数倍の大きさのバトルフィールドに、両肩から腕にかけて異常な筋肉をつけた巨人が立っている。まさにここは土俵なのかもしれん。
「おめえたち、よくぞここまでやって来た、おでが稽古をつけてやる」
すると、右手に持った巨大なトンカチを振り上げた。
その輪郭は金色に輝き、物に打ち付ける面には数本のトゲトゲが生えている。
「リリ子はさっき使ったばかりだから、俺たちの通常のコンボからフィジカルバースト狙うぞヒヨ」
俺は丁寧に作戦を告げたしたつもりだったが、リリサは全く聞いてないよう状態だ。
「くらえ~! ネコパン――、ダブルネコパ~ン――。あれ、おかしいにゃ?」
どうやらリリサは、改修されたバーストの仕組みを全く理解していない。
「リリたん、今のはゲージが十分貯まってないからですよ。スタンバイ状態になったらゲージの点滅と効果音を鳴らすようにしますね」
ルルはご主人リリサの失敗と対策について、メモを取りながら解説した。
「ルルさん俺の画面にはゲージが無いんだが、どうしたらいい?」
「そうですね、今のところヒヨ様は春ちゃんがゲージ確かめてから初段を打つので問題ないと思います。後々不便かなと思いますので例の特別パッチをヒヨ様のPC宛てにご案内しますので当てておいてくださいね。それで便利になると思います」
「了解……」
例のってどういう意味だろう、ヒヨのデータに関してアナもルルも隠したがるし、なんだかなあ、と思わずにはいられない俺があった。
「おまいら、内輪話もいいかげんにするど~、待ってるこっちの身にもなれ!」
ここの中ボスも律儀である。
というより、俺たちは会話を続けながらも筋肉巨人の攻撃をかわし続けているだけの話なんだが、どうやら反撃がないため待たされたと思ったのだろう。
「リリたん、貯まりましたよ~!」
「お~し、いくお~――」
リリサの放ったボッチフィジカルバーストで
*
土俵の端にある扉を開錠して先へ進むと、そこにも『D2坑道へ』と書いた昇降機が設置してあった。
「みんな乗ったかにゃ~?」
何でもやりたがるロリっ子リリサの問いに一同うなづくと、ゴンドラはさらに地中深く降りて行った。そして、ガタンという音と共に着地すると、ゴンドラの扉を開けて出た。
目の前の坑道の先へ足を進めると大きな広間があり、辺りには掘削中と思われる機器や資材などが散乱していた。
その広間の中央には鏡餅を巨大化したというか、まだ冷め切らずにブヨブヨと体を揺らす緑色の巨体が居座っていた。スライム型の中ボスである。
「あれ~、あんな大きなプッチョがいるお~。美味いんかにゃ?」
この時ヒヨの手は空いている。
「ぎぃ~、にゃぁ~~!」
驚くほどの跳躍力で坑道を蹴ると、プッチョに食らいつくロリっ子リリサ。
「おいヒヨ、何でお前捕まえとかんの?」
「まあ、ほれ。後で食レポでも聞こうかなと。で、何で春樹もタゲ取りにいかんの?」
「いやあ、俺も気になってな……」
つづく
◆◆◆
みな様こんばんは、最後まで見てくれてありがとうございます。
フィジカルバーストはFF11のマジックバーストからヒントを得たものです。あの頃はフィジカルバーストに相当する技は連携と呼んでいて、物理攻撃のみで構成されそこに魔法を連携させるイメージでマジックバーストの仕組みがあったと思います。核熱連携にファイガを湾曲にブリザガをとバーストさせたり結構面白かったです。
黒魔同士だった夏目吉春
ああ、内藤がメインだったか、あの頃は
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