第三章 長岡ファミリーとリリサの母

第15話 影の男『Kagenobu』の正体はギャグ?

 俺たちはロリっ子リリサのメインクエを手伝うため、王都【ウールポリス】へやって来た。そして冒険者ギルドのラウンジには、浪人を思わせる人影があった。


「あれ、かげのぶ」


 人影でかげのぶ? リリサはまた親父ギャグでも飛ばそうというのか、と思ったが……

『Kagenobu』! 俺はぎょっとした。あれってもしかしてパパッチじゃね? 


「おいリリ子、かげのぶがどうかしたんか?」


「人違いかにゃ、春ちゃんと一緒によく見かけた記憶があるにゃ」


 なるほど、もしリリサのいう事と『Kagenobu』がパパッチちだったとすれば7年以上は昔の事になる。なぜならその年の暮れには父はログインしなくなるからだ。


「リリ子、記憶があるって、いつ頃のことか覚えているか? 」


「うんとね、中学校に上がった頃だから、7年位前かにゃ、そん位だお」


「なるほど、ってことは――。おい、まてっ!」


 暴走機関車ロリっ子リリサの悪い癖だ。もう『Kagenobu』めがけて突撃取材をかまそうと駆け出している。


「アナキン、リリ子に【ストップ】かけてくれ」


「了解丸~。ついでに彼女に透明化と当たり判定なしにしときますね」


 するとロリっ子リリサは、駆け出した勢いで宙に浮いた状態のまま固まると姿を消した。近づいて彼女のいた辺りの空間を探っても手ごたえがない。さすがアナちゃんだ。


「ルル、ちょっと俺に考えがあるからか『Kagenobu』の動向を把握しといてくれ。ヒヨはそこのベンチでお留守番たのむ」


「わかったよ、で、考えって春樹はどうするんだ?」


「ちょいとログアウトして確かめたい事がある」


「どの位かかりそうだ、なんならマッチング行きたいんだけど」


「そうだな、2~30分位かな。ヒヨ、なる早で戻るけど、行ってきてもいいぜ」


「りょ」


   ◇◇◇


 俺はログアウトするとガジェットを付けた状態で、パパッチへテルコールした。システムにスマフォが接続済みのため、操作もできる仕組みになっているのだ。


《ぷるるるる、ぷるるるる――》


春香はるかか、珍しいな――』


 パパッチこと俺の父信雄のぶおの声は、冷静を装ってわいるが嬉しさを隠しきれていない。


『あのさ、今何処にいんの? つか、インしてる?』


『なんだ藪から棒に、今飯食ってるところだ。帰りが遅かったからな』


『それじゃあ、なんで『Kagenobu』がFFにインしてんのよ、おかしくない?』


『ああそれか、たしか景介がしきりにIDとパスとか聞いて来たから、もしかしたらそれかもな』


 どのゲームでも同一ワールド内に、同じ名前は使えない仕組みになっている。被った場合はファミリーネームに相当する名を付加することにより同じ名前が使用できる。運営初期から使っている一番目の名前は、名を付加することなくそのまま使えるが、あえてファミリーネームを追加することも出来る。


 だが、レガシー初期プレイヤーの証としてそのまま付加せず使う冒険者も多い。また、現在はファミリーネームも必須となっている。


『なるほど、ありがとな~』


《がちゃっ》


   *

 俺はガジェットを外すと、長岡家の離れに設置された二つのブースの内の、隣のブースへ駆け込んだ。すると、そこでは弟の景介が慣れないガジェットに悪戦苦闘しているようだ。


 「ぷ~くすくすっ――。お前何やってんだ」


 目の前のモニターには、先ほどまで滞在していたウールポリスの冒険者ギルド内で、タコ踊りをしている『Kagenobu』が映っている。


「あれ、姉貴の声がする。どこ、どこいんの?」


 メット内のスピーカーは半開放型になっている。

 俺は景介の被るメットを軽くたたいてやった。


「ここだよ、リ、ア、ル。シールド上げたらこっち見えるだろ」


 景介はぎこちない仕草でメットの前面を探っている。


「おっ、なるほど」


 そう言うと彼は、ディスプレイ内蔵のシールドを上げて振り向いた。


「なんだい姉貴、今プレイ中なんだけど」


「知ってるよ。――いいか景介、これからロロフェルの女の子が声をかけて来るけど、混乱するから適当なこと言うなよ。俺が誘導するからその通りにしろ、いいな」


 俺は景介のメットを更にコツコツと叩いて念を押した。


「わかったよ。でもさ姉貴、なんか上手く動けねえんだけど」


「当たり前だ、まだお前とガジェットの初期同期が済んでないからな。術後のリハビリみてえに訓練が必要なんだよ」


「なる~。そういえば、姉貴はセンターで初期同期は済んでるんだもんな」


「まあな、あとで要領はレクチャーするから、今言った事頼んだぜ」


「りょうか~い」


 景介はシールドを下げると近くのベンチに座る為の悪戦苦闘が始まった。俺は早々と自ブースへ戻りログインすることにした。


    *


 数分後


「おまたせ~」


「おh、帰ったか、早かったな。しかし、――なんだあいつ、さっきから様子が変だぞ」


 事情を知らないヒヨは、俺の弟景介の操る『Kagenobu』を見て草を生やしている。


「確かにな、あれが俺の弟ってんだから困ったもんだぜ」


「何だと、そんな偶然ってあるんか、そこに愛はあるんか」


「ヒヨ、お前もつまらんギャグいくんだな、マオかよ」


 突っ込みを入れた俺は、ログアウトした理由を説明すると、どうやらヒヨは納得したようだ。そして、『Kagenobu』監視中のルルをねぎらう。


「ルルありがとな。まあ。必要なかったかもだが」


「ふふふ、面白いですね。ルル調べたんですけど、春ちゃんのアカウントと『Kagenobu』様のアカウントは紐づけられてるんですね」


「まあな――。っておい、個人情報ばらしていいのかよ?」


「春ちゃんさっき、弟が操作してるって言いましたので、僕は問題ないかと判断しました」


「春樹よう、ルルさんもちゃんと考えてるってこった、流石高性能AIだな」


「ヒヨ様、僕はうれしいです」


 どうも魔ペットのルルと超長身うさ耳メスのヒヨとは同盟を結んでいるようだ。ルルに(お前リリサの魔ペットだろ)と言ってやりたいが、でもまさか…‥‥


 恋愛音痴の俺には計り知れない何かがあるやもしれん。かも試練――。

 俺は景介の操る『Kagenobu』へ近づいた。そして――


「ヒヨとルルは良いコンビだな。 アナキン、リリ子の魔法解除頼む」


「おk了解丸です」


 そう言ってアナが両手を軽く広げる仕草をすると、ロリっ子リリサは勢い余って俺にぶち当たった。俺はすでに先回りしていたからな。


「へっ? 春ちゃん何時の間に――」


「リリ子危ないだろ、俺だから良かったが、他の冒険者に迷惑掛けんなよな」


「ごめんなさいだにゃ、どうしてもお話が聞きたかったにゃ」


 リリ子はそう言うと、ベンチに座る『Kagenobu』に目を向けた。

 するとそれに気が付いた景信は――


「姉貴、この娘が例の子――」 《ぼかっ》 「いてっ」


『景介、勝手にしゃべんなって言っただろ』

 俺は速攻、裏で景信を操る景介にも電凸した。


 「おい景信かげのぶ、だれが姉貴だよ、おやじ面さげたお前が、こんな可愛いリリサちゃんに対して失礼だろ」


「わりいわりい、ごめんなリリサちゃん」


「気にしてないにゃ、景信ちゃん聞きたい事があるけどいい?」


「まてリリ子、俺が事情を説明するが、その前にこいつが前言ってた気になる人で間違いなさそうかな?」


「そうだと思うにゃ、だって景信ちゃんだし、前見たまんまのカッコウじゃん」


「わかった、実はな――」


 『Kagenobu』は俺の父が操っていたキャラであり、おおよそ7年前まで確かにこのゲームをプレイしていた事、また現在は弟の景介が俺と同様のシステムで操作していることを告げた。


「にゃるほどぉ~、それでさっき見かけた時はおかしな動きしてたんか、わっかる~」


 さっきから草を生やしていたヒヨもうなずいているが、少し様子がおかしい。


「おい、ヒヨどうした。なんか俺の話おかしいとこでもあるんか?」


「いや、言われてみると、ちょっとな……」


「ちょっとって何だよ、俺とヒヨの中だろ?」


「春ちゃんダメですよ、誰だって踏み込んでもらいたくない領域がるんです。アナには分かります」


「おいアナキン、分かるって何がだよ」


「秘密です、ランドエックス社内規定第14条の2項に書いてあります」


 俺の魔ペットアナは何やらもっともらしいことを言って来た。


「ああ、もういいや、ヒヨ悪かった。ところでリリ子次のメインクエ行こうぜ、手伝うよ」


「でも、まだ聞きたい事が――」


「言っただろ、そいつの中身は違うって、俺がおいおい聞いといてやるよ」


 ロリっ子リリサは、いまだ事の仔細を理解していないようだ。


「春ちゃんがそう言うなら、そうするにゃ」


「ヒヨもいいよな?」


「ったく仕方ねえなあ、乗り掛かった舟だしな」


 リリサが冒険者ギルドでクエストを受注すると、この都市のエーテルタワーをチェックしてから、俺たちは王都の南門を出た。


「リリ子、力になってやれそうなことが分かったから安心しろ」


「にゃぁ~!」


 俺がリリサをフォローしながら乾いた大地を進んでゆくと、PTパーティーの西の方に看板が見えてきた。


「確かあそこだ、【マリベル鉱山】と書いてあるからな」


「ヒヨ、お前どんだけ目がいいんだよ、耳だけじゃないんだな」


「まあな、ジョブに吟遊を選んでから遠視には力を入れてるんだ、スナイパーとしての弓攻撃には必須だからな」


「ヒヨ様、流石です。その数値僕にはわかるんです」


「おいルル、魔ペットだからって勝手にのぞくなよ」


「春樹、PTなんだからそれくらいいいよ、仲よくしようなルルさん」


「仲良しは良い事だにゃ」


「やってろ」


 どうやら俺たちはこれから固定PTとしてやって行く羽目になりそうだ。

 更に進んでゆくと、メインクエスト【マリベル鉱山】の入り口が見えてきた。


つづく


   ◆◆◆


 みな様ご覧いただき有難うございます。


 今回ロリっ子リリサ・リサの気になる人『Kagenobu』は、春樹の中の人だという事が判明した。種明かしをすると春香の名字は長岡ながおかとなっているが、一家のモデルとなっているのは関東の戦国武将長尾景信ながおかげのぶ景春かげはる父子なのである。


 ゲーム内表記では普通『Haruki』なのだが、読みずらいだろうと『春樹』と書いている。故に今後は正体が判明したため『Kagenobu』は『景信』と書きます。ちなみに景春から取って春香(女子)及び春樹(男子)、景信から取って春香の父信雄としております。ではヒヨの本当の名はどうなんだろう? 考え中です。


 どうぞハート・コメント、お星さまなど戴けると大きな励みとなりますのでよろしゅうお願いいたします。

                             夏目吉春


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