第14話 リリサの記憶にある影は
俺たちはロリっ子のリリサ・リサの依頼により、メインクエスト【タンタラの墓所】をクリアした。ところで、俺たちのプレイする【FirstFantasy14】は、ゲームを進め経験値を得てキャラクターのランクを上げていく仕組みになっている。中にはランクではなくスキルを重視した作りのものもあるが、一般的なRPGはランクやレベルの概念を採用するものの方が多い。語り始めると色々あるけどな。
また、俺たちのプレイするこの世界では、一連のクエストを進めることによって世界観を知り、冒険者としてのストーリーを紡いでゆく仕組みにもなっている。この一連のクエストの事を俺たちはメインクエスト、略してメインクエとも呼んでいる。
俺たちはお手伝いでロリっ子リリサのメインクエであるダンジョンをクリアすると、クエスト発注元のクーリタニアの冒険者ギルドへ向かった。道中。
「おいルル。今回の【またたび丸】は上手くいったようだな」
「そうですね、僕も少し驚いています」
ルルはロリっ子リリサの魔ペットで、ゲーム内における
また、魔法や武器などもゲームバランスを考慮しながら作り出すことなどが容易で、今回ルルは魔獣に変身できるアイテムを作成したわけだ。そしてこの【魔ペット】こそラウンドエックスが極秘裏に開発中の新型【AIコンテンツクリエーター】のアナとルルなのである。
「驚くのかよ! それってどうなんだぁ?」
俺はルルの言い草に対し眉をしかめて、彼女へ顔を振り向けた。
「春ちゃんのいう事はわかるんですけどぉ~お、何の欠点も無い強力アイテムなんてつまんないじゃないですか」
魔ペットのルルは、右手の握りこぶしを胸の辺りで内側に向けて力説してきた。
「まあ、ルルさんの言うとおりですね。前回このダンジョンをクリアできずに失敗しちゃた反動で、今回やりすぎたのですか?」
超長身うさ耳メスのヒヨは、手のひらをルルへ振り向けながら、彼女を擁護をしているようだ。
「ヒヨ様はご同意いただけるんですね、僕、どういってお礼したらいいか……」
「いいや、ルル。同意でどういってとか、そういうギャグはいいから」
「なあ春樹、そんなに突っ込むなよ、ルルさんだって頑張って何とかしようとしたんだからさ」
「春ちゃん、僕の事きらいなの? ルル悲しい……」
「べ、別に嫌いじゃあねえよ――。(可愛いし)」
そんな他愛もない内輪話に乗ってこないリリサの様子に、俺は何故か違和感を覚えた。すると。
「うにゃ……。むにゅ~ぅ……」
リリサはゴスロリ風戦闘服の胸当ての辺りをつかむと、
「おい、リリ子大丈夫か?」
俺はとっさに左腕でリリサの背中を支え、右手を腰に回して抱き起した。
「リリサもう、ダメ、かも――。だっこ、だっこ……」
俺はリリサを抱き上げると、クーリタニアの医療施設へ急ぐことにした。だが、俺の
◇◇◇
ここは、クーリタニアの医療施設。
「疲れちゃったんですかね、特に問題はないようですよ。ヒールポーション飲んでお休みになれば、明日には調子が戻るでしょう」
施設のスタッフは「お会計はカンターでお願いしますね」とウィンクして部屋を出て行った。
「仕方がねえな、俺は会計済ましたらリリ子の代わりにギルドへ手続きに行ってくるわ、ヒヨ後は頼んだぜ」
「おh、まかせとけ」
*
おれはリリサの代わりに冒険者ギルドへ赴き、窓口へ【タンタラの墓所】のクリア情報が記憶された彼女のIDカードを提出した。なお、クリア情報は自動で記憶される仕組みになっている。
つづけて、報酬が次のメインクエストの依頼と共にIDカードに書き込まれると、無事に手続きが完了した。なお、実際に経験値やアイテムなどの報酬を受け取るには、本人がカード持参でギルド内の端末を操作する必要がある。これは不正使用防止のためだ。
「う~ん? このカードの『Mahiro』ってエックスのアカウントだよな。俺のはまんま『Haruka』だし、パパッチが勝手に付けたやつだし、リリ子の場合どうなんだろう?」
俺はリリサから委託されたとはいえ、彼女の個人情報をあまり詮索するのも良くない。とわ言え、俺のはもともとパパッチのIDだし、リリサは元々親のIDとか言ってたし『Mahiro』って、気になるなあ……
*
道々そんな事を考えながら施設へ戻ると、俺は友に様子を尋ねた。
「ヒヨ悪かったな、今日はもう時間だしお開きにしようと思うが、リリ子の容体はどうだ?」
「ああ、全く問題ないぜ。ポーション飲ませたら途端に元気になった、お前がいなくなった後にな」
「なんで俺がいなくなった後って、強調するんだよ」
ベッドへ目を向けると、ロリっ子リリサは毛布の中へ首を引っ込ませた。
「なあ春樹、お前だって気が付いてたんだろ、いじらしいじゃねえか」
「気が付くってなんだよ、そりゃあ、まあ…‥‥」
やはり、お姫様抱っこした時の潤んだあの瞳は、そういう事なのか。
「春樹よお、そういうとこなんだよ――」
超長身うさ耳メスのヒヨは、どうやら姉貴ぶって俺の事を恋愛音痴のレッテルを張り付けて、からかったきたようだ。
「俺、何か、めんどくせえわぁ」
「まあ、あれだ。泣かすなよ」
そう言うとヒヨはログアウトしていった。
もう一度ベッドへ目を向けると、毛布が小刻みに震えているように見えた。
「俺って、こういうとこなんか」
俺は部屋の隅に備え付けられた質素な作りの椅子に座り、リリサを見守る他なかった。すると。
「そういうとこですよ、春ちゃん」
魔ペットのルルが、追い打ちをかけてきた。
だが俺は、聞いてないふりをして、夜の明けるのを待つことにした。
*
その夜は珍しく、クーリタニアの空に、まんまるお月さんが浮かんでいた。
窓辺に差し込む明かりは氷のように冷たい青銀色で、俺のひざ元を優しく照らしていた。
「マヒロかあ……。なんか寝らんねえな」
俺がそうつぶやくと、ベッドが微かにきしんだ。
「それ、お母さんのIDだよ。大好きな
「そうだったのか、代わりにギルドへ報告したとき、つい気になってな」
これまでのリリサの話からすると、母の想い人に付いて知りたくて俺『春樹』というキャラに近づいてきたが、十分な情報は得られていない。そして、どうやら母の名前は真優だという。現在分かっていることはここまでだ。
「ところでリリ子、具合はどうなんだ? 回復したと聞いたが」
「ごめん、お薬飲んだら良くなったみたい」
「そうか、話変わるけど真優母さんの想い人の事について、俺の他に何か手掛かり無いのか?」
ダンジョンにいる時とは違い、リリサは借りてきた猫のようにおとなしい。俺としては調子が狂うというか、腫れ物に触っているようで気が引ける。
「かげ――、いや、何でもないにゃあ~~」
リリサはそう言うと、再び毛布にもぐりこんだ。
「かげ? 何でもないならいいですよ~! じゃあ寝るか」
リリ子が何でもないというなら、それ以上は突っ込んで話をするのはダメだろう。そう思ったのはヒヨの『そういうとこなんだよ』この言葉が頭をよぎったからだ。月の明かりが俺の膝から離れると、クーリタニアの夜は更けていった。
◇◇◇
翌日ログインを済ませると、俺たちは王都【ウールポリス】へやって来た。
その都は、植生にサボテンなどが見られる、乾いた大地に構えられている。
また、旅の商人たちの本拠地でもあり、大いに賑わっていた。
旅は楽ちんだった。というのはクーリタニアからは空路が敷かれており、テレポートとは違い格安で一気に王都へ飛んで来ることができるからだ。
「リリ子、出口はこっちだぜ」
キョロキョロと辺りを見渡す彼女へ、俺はこう言って手招きをした。
「にゃるほど、そっちか。なんか分かりづらくて、アタイらに不親切だにゃ」
「そうだな、俺も始めはそう思ったよ」
俺と超長身うさ耳メスのヒヨ、ロリっ子リリサと魔ペットのアナとルル。この3人プラス2体のPTは、リリサのメインクエスト進行のため冒険者ギルドへ向かった。
「あっ――、あれあれ?」
「どうしたリリ子、あれじゃあ分からんぞ」
リリサの指さす方向には、浪人を思わせる装備をまとった人影があった。
「あれ、かげのぶ」
人影でかげのぶ? また親父ギャグでも飛ばそうというのかと思ったが……
『Kagenobu』! 俺はぎょっとした。あれってもしかして(パパッチじゃね?)――。
つづく
◆◆◆
皆様こんにちは。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
小説の更新は遅れ気味ですが、次回からは起承転結の【転】の部分に入ることになるでしょう。そこで、リアルでの主人公春香の両親たちの過去の冒険を描こうかどうか悩み中です。書き出したら結構長くなっちゃって、春樹とリリサの物語が薄くなっちゃう気がするのですがどうしよう。ちなみにリリサって2.5から来てるんだよね、てへっ。
とりあえず10万字位(コメント含めたら11万かな?)で完結するよう、訓練というか目標にしているので、尺によって入れるかどうか検討してみようと思います。
コメント、ハートとか、お星さまなど戴けたら幸いです。
夏目吉春
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