第13話 アナを差し置いて、ルルたん新規魔獣をクリエイトする
俺たちはロリっ子リリサと目的のダンジョンへやってきた。そして最終ボスの前に立ちはだかるザコ共に突撃を慣行した。するとリリサの放った【コテンパンチ】が炸裂すると、ザコは一掃された。
「どぉ~んなもんだい。アタイだってこれくらいできるにゃ」
「リリサさんすごいですね、俺の技を上回っているかもしれませんよ」
超長身うさ耳メスのヒヨは、饒舌に彼女を持ち上げた。すると。
「リリたん、今のは低確率で発生する魔法のバーストが起こっただけです」
ロリっ子リリサの魔ペットルルは、手ばたきをしながら自慢するリリサにくぎを刺してきた。【コテンパンチ】は黒魔法に属し、術者のレベルと唱えた術式により発生する無数の拳の幻影が敵を襲う攻撃魔法である。
「低確率う? じゃあさ、ルルたん高確率にしてくれにゃいかな!?」
「却下します。だめ絶対!」
ルルの判定にリリサがうなだれていると、倒されたザコどもが消えた跡に怪しげな闘気が立ち昇った。
「おいリリ子、しょげてる場合じゃねえぞ。ヒヨ行くぜ!」
「おh!」
俺は構えた盾を、闘気から現れた敵2体に打ち付けた。
正確にはそういったモーションを行うと、盾の幻影が敵目がけて打ち出されて強打するアクションが実行されるように、俺の魔ペットアナによって技がクリエイトされている。これはVRシステムで俺が装着したガジェットのモーションだけで、ゲーム操作できるようにするためだ。
「くらえ~!」
俺が右手の剣を連続で振るうと、アナが設定してくれたコンボが炸裂する。
続けて超長身うさ耳メスのヒヨがアクションを合わせてきた。
すると派手な効果音と共にエフェクトが発生した瞬間、敵2体は打倒され、やがて消えていったのである。
「あれえ!? 今のなんかカッコいいじゃにゃいか」
「ふふふ、この私アナのクリエイトによるフィジカル・バーストですわ」
この現象はコンボが成立した後に、他のプレイヤーが特定のコンボを一定のタイミングで成立させると、エフェクトと共に発生する仕組みである。その威力はコンボ対コンボの組み合わせにより大小があるが、今回俺とヒヨとの間で発生したものは完全にオーバーキルであった。
「俺はこっち、向こうのはヒヨ頼むぜ」
敵キャラが消えると仕掛けの球体が操作できるようになった。記憶によると、上空の怪しく黒色に輝く大きな球体の支えを解除するには、俺とヒヨで同時に操作する必要があるはずだ。
「アタイがやるにゃ~~~!」
超長身うさ耳メスのヒヨは、押しのけるロリっ子リリサを、手のひらを胸の両側で挙げて首をかしげながら譲った。
「リリサさんにお任せします」
俺とリリサで残った仕掛けの球体に触れた。
すると《ごごごご、ごぉ~っ》と音と振動を伴い仕掛けが解除されると、ラスボスのいる方へ向けて橋が伸びていった。記憶通りである。
◇◇◇
ラスボスへ通じる橋の手前で、ヒヨは立ち止まった。
すると右の手を顎に据えながら、俺の方へ顔を向けてきた。
「春樹よ、あいつ見覚えあるよな」
「もちろん。アルトガンの海域で出てきたやつだよな」
「ああ、たしかイカゲルゲなんて呼んでたような……」
俺とヒヨは呑気に会話を重ねているが、先走ろうとするロリっ子リリサは、ヒヨによって首根っこをつかまれジタバタしている。
「はなせはなせぇ~、早くやっつける、リベンジだにゃぁ~!」
どうやらロリっ子リリサとルルのコンビは、ここで返り討ちにあったのだろう。
俺は相棒のアナにいつものように【加速】のバフをかけてもらい、速攻でラスボスを引き付けると、いよいよ最後の戦いが始まった。
「お~らおらおら、食らうにゃぁ~」
リリサの放った無数の拳の幻影【コテンパンチ】は、ラスボス・
「おいヒヨ、例のバーストもう一回やってみるか」
「了解です」
俺たちのコンビネーションは、今に始まったわけではなく長年の冒険により体に染みついている。だから、今回アナのクリエイトによる
「ほらよっと!」
俺はコンボを決めると、そう合図した。
「ほいさっ、御馳走の時間だぜ、ゲルゲちゃん」
フィジカル・バーストは見事の決まったが、敵の体力はまだ3分の2ほど残っている。次の瞬間イカゲルゲの顔が真っ赤になったかと思うと――
《ぐぎぎっ、ぐぎゃぁあ!》
よっぽど悔しいのだろう、叫び声と共にお仲間さんが数体現れた。
タコだのクラゲだの盛りだくさんである。
「春ちゃん【加速】いきますよ~」
アナのバフがかかると、俺は両腕を左右に振り広げる動作を行った。
すると、《どぅ~~ん》という効果音と共に周囲に波動が広がった。
これを受けた敵は、すべて俺に敵意を表してくる。
つまり両手を広げる動作に、敵対アクションが仕組まれていたわけだ。
「さあどうした、俺はこっちだ、かかってこいやぁ~!」
俺が敵を集めるとリリサに続いてヒヨも技を繰り出すが、少し覇気がない。
「さっきコンボ打っちまったから、これは少し面倒だな」
すると、リリサの魔ペットルルが何やら手をコネコネしている。すると。
「リリたん、今日は【またたび丸】を飲みやすく改良してみましたが、試しますか?」
「味付け変えたんか、食ってみるにゃ」
ルルから【またたび丸】を受け取ると、リリサはけげんな顔をするがドクンと飲み込んだ。今回のは、おむすびと言う程大きくはなかったのだ。
「お~お、これはイチゴメロンの味がするにゃ」
《ぐぎぎっ、ぐぎゃぁあ!》
イカゲルゲは、リリサの呑気な様子にご立腹の様子。
「おい! どこ見てんだ、お前の相手は俺だぞ」
イカゲルゲにそう言いながらも、俺はリリサの様子を伺っている。すると。
「ぐぎぎ、ぎぎっ――。なにこれ、まずっ。後からきたにゃぁ~!」
「そうですか、イチゴメロン風味が足りなかったですか、メモメモ」
ルルが【またたび丸】のテスト結果を検証していると、リリサの周りに妖狐【白銀のナインテイル】の時とは違うオーラと深紅のエフェクトが立ち上がった。
「ぐぎぎ、ぎにゃあ~~っ! 萌えるぅ~、萌えるようだぁ」
ロリっ子リリサの周りの霧散するエフェクトの中から《しゃぁあああっ!》と真っ赤な威嚇の雄たけびがあがった。 現れたのは紅蓮の炎ような毛並みを総立てた、猫科の魔獣【ブラッディ・マウ】である。
「おいルル、前のと違うけど、まさか失敗じゃあるまいな?」
俺がそう言うと、魔ペットのルルはピースサインを目じりに当てて、にやけた口調でこう言った。
「僕のクリエイトに失敗はありません。まあ、見ててください」
「わかった」
「おっ、おh」
俺は敵にボコられ、ヒヨは手のひらをヒサシ代わりにして見守ることにした。
《ぐぎぎっ、ぐぎゃぁあ!》
イカゲルゲは俺とヒヨの様子にご立腹の様子。
「にゃぁあああご、ぎんにゃぁ~~」
咆哮を上げる猫科の魔獣【ブラッディ・マウ】に変身したリリサは、逆立てて超モフモフとなった尻尾をイカゲルゲ目がけて振りかざした。すると、数千本の針のような毛先が弾き出され、イカゲルゲや周囲のザコ供を襲う。
「ごろごろ、みゃぁ~う」
魔獣となったリリサが何を言っているか分からないが、身をかがめ力をためている様子から「覚悟しやがれ」と言っているのだろう。とたん、恐ろしいスピードで跳躍すると、イカゲルゲにとびかかった。
「にゃにゃにゃにゃ、にゃぁ~~!」
右前足を光速でたたきつける動作は【コテンパンチ】の物理版だ。名付けるなら【ブラッディ・ネコパン】とでも言っておこう。
「おいルル、またパンチかよ。変化がねえな」
「春たん、これからですよ見せ場は」
リリサの魔ペットルルは、にやり口角を上げるとウィンクしてきやがった。
ブラッディ・マウと化したリリサは、一連のネコパンを打ち終えると華麗にバックステップを決め、渾身の力を込めて再び飛び掛かる。
《ぐぎぎっ、ぐぎゃぁあ!》
おそらくイカゲルゲの咆哮は「なんだ、こんなもんか」と煽っているように聞こえる。すると、タイミングを見計らったようにリリサの両前足による【ダブルネコパン】が炸裂した。
次の瞬間、派手な炸裂音と紅蓮の炎がザコ共々イカゲルゲを包んだ。どうやら【ボッチフィジカル・バースト】を決めたようだ。イカゲルゲは祭りのイカ焼きのように、ふっくらと湯気を立て美味そうな匂いを残して消えていった。
ザコ共は匂いすら残らず消し飛んでいた。
「見ましたか、あれが僕が作った最恐の魔獣、ブラッディ・マウの必殺技です」
「
俺たちはヒヨと二人で技を繰り出したのに、たった一人でフィジカル・バーストを決めるなんてずるい、ずる過ぎる。
「仕方がないですよ、なんせ僕はリリたんのバディなんすから」
「あっそ、でもなんか欠点とかあるんだろ。この前の【またたびおにぎり】みたいに、時間切れぐったりとか」
「いいえ、それは想定していません。ただし一日一錠って制限があります」
「そうか、ならいいか」
俺たちはクエストダンジョンのタンタラの墓所をクリアすると、報告をするため冒険者ギルドへ向かった。当然宝箱は放置である。
しかし、なぜロリっ子リリサと魔ペットルルのコンビは、ラスボスに負けたのか、まったくの謎だ。 おそらく【またたび丸】の調合に失敗したのだろう……
つづく
◆◆◆
久しぶりの投稿です。
明日からまた少しづつですが、続きを投稿してゆこうと思います。
コメント・ハートなど戴けたら幸いです。
夏目吉春
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