エピローグ むかし、むかし。
「ちげえって。南方の海賊だよ」
「そんなわけあるか。ありゃ、高原地方の訛りだよ」
「なんだてめえ訳知りに、新入りの癖に」
「てめえだって新入りじゃねえか」
長い隊列。
匈奴の支配地域を通過しようとしているから、いつもよりも男たちの数が多い。
いま先頭のあたりでわいわいと議論を交わしているのも、近在の街で警護のために新たに雇用した若い男衆だ。
みな、この隊商、『蒼薔薇と高原の狐』に憧れて志願したものたちだ。
「なんだ、どうした。もうすぐ
声をかけたのは白頭巾を巻いた、三十手前ほどの男だ。浅黒い肌。深い紫の瞳に、長い栗毛を束ねて肩の横に垂らしている。
「あ、若頭。ちがうんです、こいつ、
「だってよ、だって、あんな綺麗な金髪、大姐さまの若かった頃なら海賊か、さもなきゃ……」
「さもなきゃ、なんだよ」
「ローマの貴族の子、とかかなあ……」
「ばあか。んなはずあるか。あの無敵の大姐さまが、貴族だあ。ふざけんな」
「なんだよ。わかんねえじゃねえかよ」
隊商の先頭から末尾まで、通過するまでにたっぷり
籠の横の日除が上げられた。
細く、白い手首。
小さな窓から熱い空気を取り入れ、彼女はゆっくりと深呼吸をした。
仲間と。
家族と。
なんども、なんども往復した、この道。
はるか故郷と、夢をつなぐ道。
眩しそうに腕をかざす。
深く皺が刻まれたその腕を辿れば、肩には蒼の薔薇が咲いている。
いま征く砂漠の空のような、深い、深い蒼。
「……あんたら。いま、どのへん、旅してるんだい……?」
紫の瞳を空に向けて、籠のなかの老女がちいさく、つぶやいた。
<了>
パルティアの遺花 〜ごろつき隊商と蒼薔薇の女〜 壱単位 @ichitan
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