第10話 フレイアは拒否する
シンが森に行った頃フレイア達は家の中に入っていた。
フレイア達はジョージらを応接間まで案内してそこで話し合いが行われる。
話し合いの内容はもちろん婚約のことである。
ジョージが靴を履いてしまった以上フレイア達としても無視出来ないのだ。
まず口を開いたのがフレイアの父。
「フレイア。お前の婚約者はジョージくんでいいな?」
誰もが頷くと思っていた。
アイザリック家は名門だし、ユーサリスとしても婚約する価値は十二分にある家である。
なんならフレイアの父としては兼ねてより関係を持ちたいと思っていた家でもあったくらいだ。
そんな空気の中でフレイアは毅然と言い放つ。
「いえ」
「「「はっ?」」」
「靴を履けた者を婚約者候補としますとまでは言いましたが婚約者にするとは言っていません」
「フレイア。お前の運命の相手というのはジョージくんではないと?」
「絶対違います」
ジョージは焦りだす。
「そんな、あんまりですよ。俺は靴を履いたではないですか。それに何を根拠に俺が婚約者にふさわしくないと?」
「あなたは差別主義者です。私は身分のことは問わないとあらかじめ言いました。しかしあなたは身分がどーのこーのと言い出しました。あの人はそんなこと絶対に言いません」
「身分なんて高い方がいいでしょ?それに俺はあのハリントの息子ですよ?」
シンの認識ではハリントはそこまで有能では無い。
しかし世間一般的にはハリントは優秀だった。
なんせ彼は平民出身でありながら、貴族にまで上り詰めたのだから。
「あなたはカスです」
「か……」
ジョージは言葉に詰まった。
ド直球にそんなことを言われると思っていなかったから。
フレイアの父親ですら固まった。
「フレイア、やめなさい」
「やめません。こいつはカスです。軽蔑します」
フレイアは立ち上がった。
「あなたよりもシンという人に興味があります」
ギリッ。
ジョージは歯を噛み締めた。
「あんな灰まみれに興味が?」
「その灰まみれというのが分かりませんが、以前出会った運命の人に雰囲気が似ている気がしました」
「あんなやつがあなたの運命の相手だと……?」
「確認するだけです。靴を履けるのであれば婚約者候補ですし、立場はあなたと同じですよ」
ジョージは叫ぶ。
「分かったよ。そこまで言うならやってやるよ!」
「なにを?」
「俺があんな魔法も満足に使えないカスより優秀で何倍も強いってところをお前の前で見せつけてやるよ!」
ジョージは怒り狂ったような様子で部屋を出ていった。
「フレイア、あんなに怒らせてどうするんだ?」
「私はあんなのと婚約したくありません。父上こそ私を尊重すべきでは?」
「うーむ……」
その時だった。
「ちゅちゅっ」
ミーナの胸ポケットからネズミが出てきた。
「ネズミ……?」
ネズミを見た彼女はハッとする。
なぜならフレイアにはそのネズミに見覚えがあったからだ。
だが貴族の家でネズミを見せてしまったミーナは慌てる。
「わっ、ネズミさん、引っ込んでください」
胸ポケットに押し込もうとするミーナ。
「待ってください。そのネズミはあなたのペットですか?」
「い、いえ。これはシン様から借りています」
「シンさんの居場所は分かりますか?」
「えっと、それは」
その時だった。
ダッ!
ネズミが胸ポケットから飛び出して床に着地。
「ちゅっ!」
部屋の中から出ていった。
フレイアはなにか確信に似たものを感じながらネズミを追っていく。
やがて。
一本の木の下にたどり着く。
木の下にはシンが立っている。
「ちゅっ!」
ネズミはシンの靴を指さした。
フレイアは目を見張る。
(この靴って。あの人と同じ靴……?あのとき、こんな靴を履いてた気がする)
その時だった。
「おい!灰まみれ!やっと見つけたぞ!」
ジョージの叫び声。
シンは何も答えずにジョージの顔を見ていた。
ネズミが走り出す。
「ちゅーっ!」
小さな体からは想像も出来ないようなタックルでジョージを吹き飛ばした。
「あぐっ!」
倒れたジョージ。ネズミは靴を片方むしり取るとそれをシンの前に置いた。
フレイアは確信していた。
これまでの全てを見ていたネズミが、何も知らない自分に全てを教えてくれたのだと。
「その靴を履いてみてくれませんか?」
シンは自分の靴から足を抜いて、ジョージが履いていた靴に足を入れる。
もちろんそのサイズはピッタリだった。
1寸の狂いもなく足が靴に入った。
それを見てフレイアは笑みを漏らす。
ジョージには見せたことがないような飛び切りの笑顔だった。
そして、全てを理解した。
(この人だ。私を助けてくれたのは)
「あなたを婚約者候補にしたいと思います。いいですよね?」
「え?うーん……?」
フレイアは驚いた。
(へ?なに、その反応は。さっきは婚約者にして欲しいって言ってたのに?)
そのとき、ジョージが立ち上がる。
「この灰まみれがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!フレイアの前で恥をかかせやがってぇぇぇぇぇ!!!」
ジョージは完全にブチギレていた。
「今から貴様に恥をかかせてやる!泣いて謝ってももう遅い!」
ジョージはビシッと人差し指を突きつけて宣言する。
「長年の因縁をここで終わらせてやる!この忌み子のクソが!お前をボコボコにして俺が優秀だということを証明してやるぅ!」
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