第12話
パーティは夜になっても続いていた。
ヘーロがひとりになるのを待ちながらフレイアと話す。
「念のため聞きたい。宝剣はどこにある?」
「シーカーズは全滅なのでは?」
「俺は頭領の言葉を完全には信用してない。残党がいる可能性もあるし、知っておけばいざと言う時の行動も早くできるしと思って」
話した方がいいのか、話さない方がいいのか、フレイアは踏ん切りが付かないような表情をしてる。
「それとも俺の助けなんていらない?」
「そんなわけではありませんけど」
フレイアは両手を前に出してブンブンと横に振ってる。必死に否定してる感じから俺への好意がすごく伝わってきた。
「無理に話さなくていいよ。宝剣は大切なもの。部外者にその場所を教えるのはリスクにもなるだろうし」
すー。
深呼吸してフレイアはこう言った。
「我が家の地下にあります。パスワードロックがかけられた部屋に厳重に保管してあります。パスワードは4646です」
フレイアの表情は明るくなっている。
「あなたになら裏切られてもかまいません」
やれやれ。誰もそこまで教えろとは言ってないんだけどな。
「俺は君の将来がちょっと心配だよ。変な詐欺師に引っかかりそう」
「そうならないためにも私の横で守ってくれませんか?いつまでも」
現状ではこれからのことはどうなるか分からないし、何も答えないでおく。
そのときだった。
ヘーロが動き出した。
自分の部下たちを集めていた。
そして、敷地外へと移動させていた。
会話内容を聞いた感じこれからシーカーズとの戦闘をしにいくみたいだ。
(すでにもぬけの殻だけどね)
ここでやっとヘーロはひとりになった。
(今のうちだな)
「フレイア少しだけここで待っていてくれるか?」
「はい。頑張ってくださいね」
ヘーロの前まで歩いていった。
奴は見下すような目で俺を見てくる。
ハリントの言っていたことを思い出す。
こいつの目は人を馬鹿にしたような目だと。
「なんだ?」
返答の方向性は既に決めてある。
ここで初対面な感じで行こうと思っている。
「近衛騎士団の団長と聞きましたが」
「サインでも欲しいのか?」
「いえ、騎士団に入りたいと思いまして(こいつが地獄に落ちていくのを最前線で見られるしよく考えたら絶好のポジションだ)」
「ぶっ」
吹き出した。
ゲラゲラと笑う。
「お前が?近衛騎士団に?」
値踏みするような目。
爪先から指先、そして頭のてっぺんまでジロジロと見つめてくる。
「その薄汚いかっこうでか?知らないなら教えてやるが騎士団ってのは身分がないと入れないんだよ」
「どうしても無理ですか?例えば実力があったとしても」
「無理」
シッシッと追い払うような仕草をしてくる。
「忙しいんだよこっちは。おままごとしたいなら別のやつとやりな」
取り付く島もない。
まぁ、予想通りと言えば予想通りだな。
(まぁ初めから期待してなかったけどな)
となると。やはりフレイアと婚約しておくべきだろうか?
(面倒くさいけどこつこつやって、身分上げるしかなさそうだ)
フレイアの元へ戻った。
「どうでした?」
「ダメだった」
そこでニコッとしたフレイア。
「実は私近衛騎士団の副団長の娘と仲いいんですよ」
「そうなの?」
「団長とは仲が悪いらしくて今日は来てないですけど、友達を紹介しましょうか?」
「頼める?」
「ではまた後日紹介しますね」
まだ騎士団への入団は期待しても良さそうだな。
(娘を経由して副団長と知り合うことが出来れば騎士団への入団の可能性はまだありそうだ)
フレイアには協力してもらってこの方向性でいこうかな。
考えをまとめた時だった。
ユーサリスの当主がヘーロへと近づいて行くのが見えた。
会話を盗み聞きする。
「ヘーロ殿。シーカーズの件はどういう進捗で?」
「今部下に最後の仕上げに行かせております。今日中には頭領を始末して組織を殲滅できるかと」
話題はやはりシーカーズのことだった。
そのときだった。
「団長!」
ヘーロが先程森へ送った騎士たちが戻ってきた。
「どうした?」
「すでに頭領が殺されていたのです」
「なにっ?」
ヘーロの目が泳ぐ。
「首は?」
「残念ながら動物に食われたようで。証明出来るものはなにもありません」
ギリッ。
ヘーロは歯を食いしばり悔しそうな顔をしていた。
「クソがァっ!」
ヘーロは大声を出して怒鳴る。
その様子にユーサリスの当主はドン引き。
「当主殿。シーカーズが殲滅されていたということなら我々はもう帰らせていただきますが、いいですね?」
「あ、あぁ……。わざわざ来てくれて助かったよ」
「いえ、国や民を守るのも我々の仕事、ですから」
歯切れが悪い。
明らかに機嫌は悪いが、本性を出さないように頑張っている感じだ。
「帰還するぞ」
ヘーロたちが歩き出した。
家を出るために門を向かっていた。
その道中、モブ騎士たちの声。
ごにょごにょと会話していたが、それでも俺の耳には入ってくる。
「ヘーロのやつなんでこんなに怒ってるんだ?」
「最近やらかし続きでそろそろいい話を持って帰りたかったんだよ。そこに失敗がまた増えたのさ」
「やらかし?なんかあったのか?」
「王族が手に入れるはずだった宝が運搬中にシーカーズに盗まれたのさ。原因はヘーロのせい」
「へぇ、災難だなそりゃ」
「頭領が死んだとなりゃ、宝石のことは結局分からずじまい。宝石は取り戻せもしない。始末したのは自分たちでは無い」
「団長の座も終わるかもなー。俺にもチャンスが巡ってきたり?」
(そんな経緯があったんだな。知らない間に挽回のチャンスを壊したらしい。ざまぁ)
近衛騎士団は敷地を出ていった。
騎士団の姿は完全に見えなくなったころ、庭園を歩いていた騎士や執事、メイドが声を出し始める。
「すでに日が暮れてしまいました」
「館内にお入りください。続きはパーティーホールにて行います」
「さ、行きましょう」
フレイアが俺の腕を掴んで、グイグイと引っ張ってくる。
「先に行っててよ。トイレ行くからさ」
「分かりました」
聞き分けがいい。
なんの疑いもなく彼女は館内へと向かっていった。
そのあともたくさんの人が吸い込まれるようにして館内に。
人がいなくなった後、俺は呟いた。
「誰か知らないけど、いるのは分かってるよ」
振り返る。
後ろにあったのは茂み。
「やれやれ、バレちゃったか」
音もなくヌッと人が出てきた。
月影に照らされて顔が見えた。
黒髪の女の子のようだ。
「フレイアがお熱だからさ。気になってたんだよね、君のこと。でもたしかにお熱になるのも分かっちゃった。【気配遮断】を使ってたはずなのに、私がいるのを見抜くなんてさ」
「バレバレだよ。それで俺になんの用?」
「言わなきゃ分からない?やだなー、ここにいる時点で目的なんてひとつしかないと思うけど」
臨戦態勢。
こいつは俺に気配を悟られないようにしていた。警戒しておいて損はないだろう。
「俺なんかと敵対したってなんのメリットもないと思うけど?」
「へっ?」
「なんだ、その反応は」
「普通にお話したいだけなんですけどー?やだなー、いきなり敵認定?」
「ならなぜ草むらに隠れてた?」
「きみがひとりになるの待ってただけだよ。いきなり知らない人が出てきても困惑するでしょ?」
タイミングを伺っていただけってことか。
(俺がヘーロのストーカーをしてたように、ね)
とりあえず臨戦態勢を解いた。
向こうからは敵意を感じないし。
「私はメルカ。こう見えて貴族。少し話をしない?君に興味があってさ」
「悪いが俺は君に興味は無い」
「ふぇっ?」
「よそを当ってくれ」
「ちょっとっ?!そういうのありっ?!」
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