第6話

それから翌日のことだった。

いつものように旧館の掃除をしていると玄関のドアが叩かれる。


顔を出す。

やはりハリントだった。

それから息子のジョージ、そしてメイドのミーナがいた。


「今日はこれからパーティに向かうがもちろんお前も来るんだぞ?」

「言われなくても分かってるよ」


彼らの後ろに馬車が止まっているのが見える。

大方それで向かうのだろう。


乗り込もうとしたら


「待てよ灰まみれ」


ジョージに止められた。


「この馬車は3人用なんだ」


ジョージをぶん殴る。


「悪いなジョージ、この馬車は3人用だからお前は歩け」


っていうのは冗談だ。

歩くのが俺なことくらい言われなくても分かっている。


「お前らと一緒に向かいたくなかったんだ。ご一緒しなくていいなら清々しいくらいさ」


「このぉぉぉぉぉぉ、灰まみれのくせに。父さんの慈悲で生かされてるだけのゴミが」


悔しそうなジョージを無視して俺はミーナの前に立った。


「君も行くんだろ?」

「はい。ジョージ様のお世話を頼まれておりまして」


嫌そうな顔をしている。誰だって嫌だよな。こんなクズの世話。


「ミーナ、これを」


胸ポケットからネズミを取り出すとミーナの手に乗せた。


「ネズミさん?」


「こう見えて頼りになるやつさ。念のため渡しておくよ。俺はこの二人のことを信用してないのでね」


「ちゅー!」


手のひらの上でネズミは胸を叩いてた。


「どうして私に?」

「俺が君の傍についてられないから代わりの用心棒をね」


つい先日このネズミは家の敷地内に入ってきた猫を蹴り飛ばして泣かしているのを目撃してしまった。

かなり強いと思うのでボディーガードとしては丁度いいだろう。それに馬車は3人用らしいけどネズミは数には含まれないからな。


「君にはいろいろと助けてもらった。なにかあれば寝覚めが悪い」


「シン様……♡そんな、私なんかのためにお友達を託してくださるなんて♡」


ハリントに目を向ける。


「とっとと行きなよ。後から追いつく」

「遅れるなよ?遅れたらどうなってるか分かってるだろうな?」

「お前誰にもの言ってるの?俺がそんなノロマに見えるのか?心外だな」

「このっ……」


ハリント達はぐっと堪えて馬車に乗り込んだ。


ミーナが最後にこう言った。


「お気をつけくださいシン様。またユーサリスの家でお会いしましょう。それからひとつ。へーロはパーティが始まるまでは周辺の警備に当たるそうです」


「参加者の安全を守るためにか、ありがとう。さ、行きなよ。またあとで」


「ちゅっ♡」


投げキッスをしてミーナは馬車に乗り込んだ。

その光景をワナワナとした表情でジョージが見つめていた。


「なんだ、妬いてるのか?」

「だれがこんなメイドなんかに!羨ましくなんてないからな!」

「手を出してみろ?どこに居てもお前のことを殺してみせよう」

「シン様♡」

「安心しろよ!こんな底辺ブスに手を出すわけないだろ!はっ!底辺同士お似合いカップルだなっ!」

「私たちお似合いなんですかっ?!え、えへへ……うれしぃ」


ジョージの顔の真横に向かってナイフを投げつける。


「ひっ……」

「仏の顔も三度まで。今一度目を使った、この意味は分かるな?気をつけろよ」

「こんのぉおぉぉぉぉ!!!灰まみれぇぇぇぇぇ!!!舐めるのもいい加減にしろよぉぉぉぉぉぉ!!!」


「落ち着けジョージ。奴の挑発に乗るな」


「父さん?」


「どうせユーサリスの前でこいつをボコボコにさせる権利をくれてやる。そのときに今までの鬱憤を晴らすがいい」

「そうだね、父さん。俺が間違ってたよ」


俺はジョージにスっと中指を立てた。


「行ってらっしゃい」


めちゃくちゃイライラしてそうな顔をしてた。

でもそれ以上なにか言うことも無く馬車は進んで行った。


ま、俺が歩きになることは予想していたことなので特に予想外の展開というわけでもない。

なんなら予想通り過ぎて顔がニヤける。


(さてと、へーロ。俺と顔を合わせるその瞬間を震えて待つがいい)


今すぐにこの鉄拳をねじ込みにいってやろう。



旧館を出て目的地まで向かう。

もちろんユーサリスの家がある方。

ユーサリスの家へ向かうまでの道のりには以前にも通りがかった例の森がある。


中に入りしばらく進んでいたところった。


「ったく、王様もこんなところまで寄越しやがるとはな」


声が聞こえてきてさっと姿を隠す。


(今この森にいるってことはへーロか?)


俺が隠れているのは大きな木の影。

そこから少しだけ乗り出して周りを伺う。


俺の視線の先には鎧をみにつけた男がいた。

金髪で軽く髭を生やした男。

正直言って見た目は近寄り難い感じをしていた。


「まぁまぁ、へーロ騎士団長。いいじゃないですか」


(やはりあいつがへーロか)


周りにいるのはへーロの騎士団所属の部下だろうか。

へーロが愚痴っているのを宥めているようだった。


「今回の任務、大した動きもないですし、それで追加報酬ですよ?」

「それはそうだがよ。さすがにこんなド田舎までくるのはきついぜ」


ここは王城からは少し離れた場所にある。

夜になっても営業している店なんてないし、都会からきたあいつは暇だろう。


「それにしても俺の人生薔薇色だな」


へーロはそんなことを言い出した。


「子供の頃神童とか呼ばれて持てはやされてさ気がつけば優等生。どこにいっても引っ張りだこ。そして最後はこうして栄えある近衛騎士になれるんだからさ。女の子にもモテまくりなんだわ」


「我々もそこそこの人生だったはずですが、やはり団長様は羨ましい人生ですなぁ」


「だろ?いい部下にも恵まれてさぁ、俺今人生で1番幸せかもしれん」


言葉はもういらない。


出方を伺っていたが、やめにしよう。


俺は木の影から姿を見せた。

ボロボロの布に顔には仮面をつけている。

もちろん、姿を見られないようにだ。


「ん?」


へーロが顔を向けてきた。


「なんだお前」


「賊だ」

「へーロさん始末しちゃいましょう。久しぶりに見せてくださいよ、あなただけが使えるあの技を!」


「やっちまうかー、あれな」


へーロは剣を抜いた。


「悪ぃなお前。死んでもらうわ。正規の手順踏むとだるいからさ」


周りの騎士が笑い出す。


「ははは、死んでもらうってwww」

「我々の仕事はとりあえず捕まえるから入らないといけないんですがね」

「我々が口を揃えて激しく抵抗されて殺してしまった。そう言えば罪にはならんですからね。殺せぇぇぇぇ!!!」


へーロが口を開く。


「見せてやろう。俺だけが使える技【速度上昇・ダブル】。何も分からないうちに終わらせてやろうっ!」


グン!


ありえない速度で動き出すへーロ。


「きたぁぁぁぁぁぁ!!!団長の固有スキル!!!」

「これは速い!誰にも捕えられない速度!」

「団長にだけ許されたチート能力!他の誰にも使えない技だ!」


周りの奴らは勝ちを確信しているようだった。

なんだかおかしくなってしまった。


「ぷっ……その程度か?」


俺は迫ってきていたへーロの頭にグーパンを叩き込んだ。

あっけなく吹っ飛んでいく団長。


ザワザワ。


「うそだろ……」

「あ、あの賊、団長の速度についてきた……?」


声は自然と通るくらいの静けさ。

俺はこの場にいる全員が分かるようにこう呟いた。


「【速度上昇】」


ギョロッとした目を向けてくるへーロ。


「ありえん、これはこの世界では俺しか使えるやつが居ないスキル……。なぜお前が……」


ちっちっちっ。

違うんだよなぁ。


お前程度と同じにしないで欲しいものだ。


「【クワトロ】」


俺はお前の更に2倍速いんだからさ。


「お、お前、何者だ……」


震える声でそう聞かれた。


単刀直入に答えようか。


「お前が過去に犯したシンさ」


罪を犯した者は裁かれなくてはならない。


「お前を地獄へと招待しよう」


お前が今幸せなら不幸にしてやる。

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