第9話 暗躍

これから何が起きるかなんだけど、とりあえずパーティ会場が襲撃されるという方向で考えてみることにする。


集まった人達が食事や話に夢中になっている間、俺は情報収集に時間を費やしていた。

話しかけるのは主にこの家に従事している騎士だったり、メイドだったりである。


この2種類の人間はいつも敷地内を見て回っているのでおかしな点があったりしたらすぐに気付くと思ったからである。


とりあえず最初のターゲットである警備の騎士にそれとなく話しかける。


「こんにちは、少しいい?」

「何用で?」


騎士は硬い反応を返してくる。

本題に入る前に少しおだてておこう。


硬いあの子を柔らかくするワンポイントコミュニケーション。持ち物を褒めましょう、だっけな。


「その剣。手入れが行き届いてるね。一目で分かるよ。他の騎士の手入れとは違うってさ」


騎士の態度が途端に柔らかくなる。

褒められて悪い気になるヤツは捻くれたやつだけ。


「いい目をしてるね。俺はこの剣の手入れはサボったことがないからな」


そのあと俺に対して手入れのウンチクについてベラベラ話してきたが、適当に相槌を打つ。


「いつもその剣で敵をバッサバサ切り倒してそうだよね。すごい活躍してるんだろうなー。剣を見たら凄さが分かるよ」

「あ、分かっちゃう?この前もさ。あの巷を騒がせてる盗賊団【シーカーズ】の下っ端をズバっといったんだよな」

「盗賊団?へぇ、すごいなぁ。そんなのどこにいるの?」

「近くの森にアジトがあるらしいぜ」


って喋ってから騎士は「やべっ」みたいな顔してた。


「あ、この話オフレコで頼める?話しちゃいけない事だったんだわ。近くの森に盗賊団が潜んでるなんて知られたらみんなパニックになるからさ」

「もちろん、誰にも話さないよ」


ここでやっと色んなことが繋がった。

ここに近衛騎士団が派遣された理由とか。


「ひょっとして近衛騎士団が来たのは盗賊団を倒すため?」

「そうだ」


頷いてた。


「今の話は忘れてくれよ?うっかり喋りすぎちまったぁ」



森に来た。


(来る時は普通の森だと思っていたけど、まさか盗賊団のアジトがあるなんてな)


【使い魔・索敵型】


魔力で作りだした鳥型の使い魔を飛ばした。

これで森の全貌が把握出来るはずだ。


ものの1分。


(アジトの場所も分かった、攻めにいこう)


小屋の前に着いた。

森の中にぽつんとある小さな小屋。

近くには泉があって、切り株もある。

パッと見はただの山小屋のように見える。


中に入る。

誰もいない。


小屋の中にはマットレスがある。

マットレスを上に持ち上げると……


(地下に通じる隠し階段、降りよう)


降りきるとそこにはちょっとした空間があった。

テーブルが置いてあって、いわゆる上座と呼ばれる席にスキンヘッドの男がいた。


「なんだ、てめ」


一瞬で男の背後に回ると首にナイフを突きつける。


「両手を机の上に置け。質問に答えろ」


男は両手を机の上に置いた。


「盗賊団シーカーズで間違いないな?お前は頭領か?」

「あぁ」


「ユーサリスの家には用事があるか?こんな近くにアジトを建てたんだ。無いとは言わさん」

「もちろん」


「ねらいは?」

「宝剣だ」


宝剣、王族が貴族に渡すもの。

非常に強力な性能をしており、売れば大金になると言われてる。


「いつ狙う予定だった?」

「今夜だ。パーティがあるのは知っている。混乱に乗じて侵入して盗むつもりだった」

「だった?どうして過去形?」


男は震えていた。


「分かるんだよ。俺はこの後死ぬって。計画は遂行できない」

「作戦をすべて話せ」


「うちの副頭領シモンに全てを任せている。シモンが家に忍び込み宝剣を奪い帰ってくるだけだ。こいつが失敗すれば俺が行くつもりだった」


「シモンはどこにいる?」


「変装して既に敷地内に入り込んでいる」


「他の仲間はどこにいる?」


「前回の任務でユーサリス騎士団に全員殺されたよ。奴らは全員が化け物じみた強さをしてやがった。しかも作戦は全部筒抜け、俺とシモンだけはなんとか逃げ切った」


(正直予想外の展開だなこれは)


「我々はとんでもない損害を被った。だから最後に宝剣を盗んで関わるのを最後にしようと思っていた」


「シモンの見た目を話せ」


「分からん。奴は俺の前に出てくる時も変装していたからな。本当の姿を知らない。名前までも偽名かもしれん。だがひとつ分かることがある」


「なんだ?」


「奴は俺よりも遥かに優秀かもしれない、ということだ」


「これで最後だ。今話した事を知っているのは俺とお前とシモンだけか?」


「あぁ」


「そうか。ここまでご苦労。楽に死ね」


ナイフで男の首をかっ切った。

一瞬にして絶命。


「次はシモンを探さないとな」


ミーナにはなにか起きると言ったが。

もちろんなにか起きる前に全て解決してやるつもりだ。



庭園まで戻ってきた。

怪しいヤツを探してみたり、使い魔を飛ばして索敵してみたりしたが、なにも分からなかった。


頭領の言った通りシモンというやつは相当優秀らしい。


(使い魔の索敵に関しては、もっと魔力を使えば精度は上がるが向こうに気付かれる可能性がある)


ちなみに俺が使っている使い魔の索敵の原理だが、オーラの色で判別している。

悪意を持ったやつが入ればオーラが黒く濁るのだ。(頭領に関しては真っ黒だったので分かりやすかった)

だが、この場にはそんなやつはいなかった。


この場合考えられるパターンはみっつほどある。


1番目、悪意なく盗みをやれる人間。


2番目、悪意を上手く隠せる人間。


3番目、オーラの色を誤魔化せる人間。


ちなみに幻の四番目としてこういうのがある。


(そもそもシモンなんて言う人間が存在しない)


初めからいないなら索敵なんてできるわけも無い。


まぁ、このパターンはさすがにないと思うけど。


(さてと、次は聞き込みで探してみるか)



聞き込みの成果ゼロ。


俺が困っていた時だった。

ヘーロとひとりの女騎士が俺の方に近付いてきてきていた。女の方はたしかユーサリスの家の騎士団のリーダーだったと思う。

で、ふたりの会話内容が聞こえてきた。


「どうする?ヘーロ殿。今夜シーカーズの頭領が攻めてくるが、どうやって迎え撃つ?」

「なんでお前がそれを知ってるんだ?」

「私はスパイとしてシーカーズに潜入していたから」

「馬鹿言えよ。そんな簡単に入れるのかよ」

「入れたもん。シモンって名乗って副頭領まで成り上がったもん。色んな情報教えてくれたよ」


(ん?)


「前に作戦の情報を皆で共有して下っ端を皆殺しにしたもん」

「そういう妄想か?」

「違うもん、ほんとだもん」


(あー、なるほどね)


俺の使い魔の索敵に引っかからなかった理由が分かった。

4番目だ。

初めからシモンなんていう盗賊がいなかっただけの話である。


(盗賊の件はこれで一件落着かな)


それにしてもユーサリスの私兵はほんとに優秀だな。

スパイまでやってしまうなんて。


(いつまでも攻めてこない頭領を見てこのふたりはどんな反応をするんだろうな)


その反応も少し楽しみだったりする俺だった。

でも一番楽しみなのはヘーロのこれから。


あいつは盗賊団を始末するために来ている。しかも立場を考えると王族の命令できてるはず。


(任務は達成できなくなったけど。この件どうやって王族に報告するんだろうな)


王族の命令はぜったいだ。


あいつのこれからを考えると胸がわくわくする。


(地獄に落ちろ、くそ野郎。俺に見せてくれ、みじめに落ちぶれていく姿をさ)


口元は自然と歪んでくる。

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