嘘発見器@出口調査

加賀倉 創作【書く精】

嘘発見器@出口調査

【注意その一】このお話はフィクションです。

【注意そのニ】現実は小説より奇なり。



「いよいよ明日は、投開票か」

 皇帝は、そうつぶやく。そして、そばにいた天才博士、どうし亭やる夫に向かって、こう続ける。

「博士よ、なぜ開票開始と同時に当選確実と出るのだ? 何らかの方法で、実際の票を無視して絶対に当選するように、裏工作が行われているのではないか? これは疑問というよりも……もはや、確信に近い」


「ええ、皇帝陛下。そうお考えになるのも、理解できます」

 皇帝お抱えの天才博士、どうし亭やる夫がそう答えた。


「そなたの天才的な頭脳を使って、どうにか不正選挙をやめさせられないものか。は帝政を、不正選挙で当選するような奴らに任せるのだけは避けたいのだ」


「承知しました。では、ともに解決策を考えましょう。ちなみに陛下は、既に何か手を打たれましたか?」


「実は去年、全国の投票所で出口調査というのをしてみたのだ。投票を終えて投票所から出てきた有権者を無作為に選び、どの政党に投票したのかを聞いて、一定量のデータを集めれば、実際の得票率と合致する。出口調査のデータと、実際の得票に大きな差があれば、票が不正に操作されている可能性が高いということになる。賄賂をもらった選挙管理委員の誰かが、投票の記入はなぜか鉛筆であるのをいいことに文字が書き換えたり、白票に特定の候補の名前を書き込んだり、はたまた特定の政党や候補の投票用紙を開票せずに処分してしまったりと、不正選挙は不可能ではないからな」


「おっしゃる通りかと。それで、去年の結果はどうだったんです?」


「それが困ったことに、実際の得票率と、出口調査でのデータが、まるで合わないのだ。不規則で、ちっとも傾向が掴めない。ほら、これを見てくれ」


 皇帝は、どうし亭やる夫に、一枚の用紙を見せた。


—————————————————————

【第五十回帝国議会比例代表選挙:実際の得票率】

|||||||||||||||||||||||||——戦争推進党

|||||——戦争推進党支持党

||||||||||——お好み焼きはご飯のおかず党

||||||||||||||||||||——増税推進党

||||||||||——ストーンサークル信じる党

|||||——ネオマルクス党

||||||||||——コミュ障の味方党

|||||||||||||||——派遣増加は消費税のせい党

||||||||||——国民を舐めるな党



【第五十回帝国議会比例代表選挙:出口調査データ】

|||||——戦争推進党

||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||——戦争推進党支持党

|||||——お好み焼きはご飯のおかず党

|||||——増税推進党

|||||——ストーンサークル信じる党

|||||——ネオマルクス党

|||||——コミュ障の味方党

|||||——派遣増加は消費税のせい党

|||||——国民を舐めるな党

—————————————————————



「なるほど、まるでグラフが一致しませんね」 


「ああ。やはり出口調査は意味ないのか? データの数が少なすぎるのだろうか?」


「ちなみに出口調査は、何人に対して行われたのですか?」


「およそ百万人だ」


「十分じゃないですか!」


「そうか、十分か。では、なぜこのような支離滅裂な結果になったのだ?」


「きっとみんな、嘘をついてるんです」


「ほぉ、嘘をつく、か」


「はい。出口調査に答えると、そこに居合わせた人に、自分がどこに投票したのか筒抜け。それに、顔が勝手にテレビに映される可能性だってあるわけです。自分が本当はどの党を支持しているのかを、ごまかしたくなる気持ちもわかります」


「そうか、それなら、嘘をつかせないようにすれば、ちゃんとしたデータが得られるわけか。だが、そんな方法は……」


「陛下、ありますよ」


「何、本当か?」


「ええ。この天才博士、どうし亭やる夫に、解決できないことはありません」


「本当にお前は心強い。だが、どんな方法で?」


「嘘発見器を作って、全国の投票所に配置するんです。そうすれば、出口調査で声をかけられた有権者は嘘をつけないので、正確なデータが得られます」


「おい博士よ、待ってくれ。嘘発見器だと? あんなもの、映画やドラマや小説でだけ出てくる出鱈目でたらめな装置ではないのか?」


「いえ、私に言わせれば、あれは実現可能です。効果覿面こうかてきめんのものを作って見せますよ」


猶予ゆうよは、明日朝までだぞ? 作れるにせよ、完成は間に合うのか?」


「はい。必ずや、嘘発見器を完成させてみせます」


「わかった、信じよう……」


「それで陛下、申し上げにくいのですが、成功報酬の方は……」


「ああ、すまない、そうだったな。全て専門家に仕事を頼む際は、相応の報酬を支払わなければならない」


「ええ。いくら陛下のお願いと言えど、タダ働きはごめんです」


「では……いくら欲しい? 好きな額を言うといい」


「そうですねぇ、少なくとも、どこぞやの政党の裏金ウラガネと、同じ額くらいは頂戴したいところです」


「なるほど、皮肉が効いているな。では、嘘発見器が完成し、それが帝国に正義をもたらしたあかつきには……六億出そう」


「六億! それは腕が鳴りますね」




 翌朝、どうし亭やる夫博士は、本当に嘘発見器を完成させて見せた。皇帝は、すぐさまそれを官営工場に大量生産させ、全国の投票所に配送した。


 


 投開票の開始直前。

 某動画投稿サイトの皇帝専用アカウント、「皇帝の帝国民総肯定ちゃんねる」にて。


 皇帝は、一億のチャンネル登録者帝国民に対して、生配信を行った。


「帝国民諸君よ。今日は待ちに待った帝国議会議員選挙の投開票だ。いつものように、投票所へ行って、清き一票を投じてくれ。だが一つ、伝えておきたいことがある。前回の選挙では、いくつかの党で不正選挙疑惑が上がった。そこで今回は不正選挙調査の一環で、出口調査にて、嘘発見器を導入することにした。なぜそんなことをするのか。理由はこうだ。実際の得票率と、嘘発見器で信憑性しんぴょうせいの担保された出口調査のデータを照らし合わせることにより、もしそれらに不可解なほどの大きな差があれば、不正の疑いありとして、投票用紙の処分や書き換えが行われていないかどうか、調査に繋げることができる。そんなことをする政党はいないと信じたいのは山々だが、これも民主主義のためだ、理解してほしい。そして今から、開発者である天才博士、どうし亭やる夫氏に、嘘発見器について簡単な説明をしてもらおうと思う。博士、どうぞ」


「えー、帝国民の皆さん、どうも。皇帝陛下よりご紹介に預かりました、どうし亭やる夫です。嘘発見器の説明ですが、非常にシンプルです。出口調査の職員が、マイクを持って、投票直後の有権者に突撃します。マイクに向かって、正直に、どの政党に投票したかお答えください。いいですか、絶対に、、ですよ? なぜかって? 嘘をついたら……爆発しますので、マイクが。つまりは、マイクが嘘発見器と爆弾を兼ねているというわけです。ね、シンプルだったでしょう? 以上です」



 投票が始まると、生配信を見た帝国民は、嘘発見器の爆発を恐れて、正直に、出口調査に答えた。


 そして、開票。


 各政党の、実際の得票率と出口調査のデータの比較の結果……


—————————————————————

【第五十一回帝国議会比例代表選挙:実際の得票率】

||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||——戦争推進党

|——戦争推進党支持党

|||||||||||||||——お好み焼きはご飯のおかず党

||||||||||||||||||||——増税推進党

||||||||||——ストーンサークル信じる党

|||||——ネオマルクス党

||||||||||——コミュ障の味方党

|||||||||||||||——派遣増加は消費税のせい党

||||||||||——国民を舐めるな党



【第五十一回帝国議会比例代表選挙:出口調査データ】

|||||||||||||||||||||||||——戦争推進党

|||——戦争推進党支持党

|||||||||||||||——お好み焼きはご飯のおかず党

||||||||||||||||||||——増税推進党

||||||||||——ストーンサークル信じる党

|||||——ネオマルクス党

||||||||||——コミュ障の味方党

|||||||||||||||||||||||||||||||||||——派遣増加は消費税のせい党

|||||||||||||||||||||||||||||||||||——国民を舐めるな党

—————————————————————


 皇帝とどうし亭やる夫博士は、分析を始める。


「これは……とんでもないことになったぞ」

 結果を見た皇帝は、開いた口が塞がらない。


「ええ。実際の得票率と出口調査のデータを比べると、一致している部分と、大きく乖離かいりしている部分が、面白いくらいに、はっきりとわかりますね」

 どうし亭やる夫は、コクコクとうなずきながらそう言った。


「『お好み焼きはご飯のおかず党』、『増税推進党』、『ストーンサークル信じる党』、『ネオマルクス党』、『コミュ障の味方党』では、グラフが完全に一致している……」


「で、問題はこっちです。『戦争推進党』は、実際の得票率が、出口調査のデータのほぼ二倍にもなっています。一方で、『派遣増加は消費税のせい党』と『国民を舐めるな党』は、それぞれほぼ半分になって……いや、、と言うべきでしょうか。あと、『戦争推進党支持党』でも地味に三倍の開きがありますね、チマチマとこざかしい。これは確実に、何かとんでもない不正が働いているに違いありません」


「よし、では早速、調査に入ろう。明らかに怪しいのは……『戦争推進党』だ!」



***



 ほどなくして……


 『戦争推進党』、『戦争推進党支持党』合同の、不正選挙が発覚した。


 意図的に開封されずに放置された投票箱が見つかった。


 同じ筆跡の投票用紙が何枚も見つかった。


 鉛筆の字が消しゴムで消され、書き換えられた投票用紙が、何枚も見つかった。


 『戦争推進党』と『戦争推進党支持党』は強制的に解党され、両党の候補者には全て、終身の公職追放が言い渡された。


 そして皇帝とどうし亭やる夫は、正義の勝利に、祝杯をあげた。

 

「博士よ、そなたの提案は素晴らしかった。あの爆発する嘘発見器無しでは、悪は裁かれなかっただろう」

 皇帝は、どうし亭やる夫を、褒め称えた。


「お褒めに預かり、光栄の至りでございます。しかし陛下、私は…………一つ白状しなければならないことがあります」

 どうし亭やる夫は、やや躊躇ためらいながら、そう切り出した。


「白状? そなたが、何か良くない行いを? だが、巨大な闇を暴いたそなたが、小さな過ちの一つや二つ白状したところで、私は許すが……」


「陛下、許して、くれるんですね?」


「ああ。善良な誰かに、重大な不利益をもたらすもので、ないのならな」


「わかりました。では陛下のお言葉を信じ、私は白状します」


「ああ、小さな間違いは、さらっと言って、さらっと水に流してしまえばいい」


「実は、あの嘘発見器は、ただのマイクだったのです」


「は、はぁ……ただの、マイク?」


「ええ。嘘を検知して爆発するというのは嘘です。あれは、なんの変哲もない、マイクだったのです」


「なん、と…………。最大の欺瞞ぎまんを働いたのは、博士、そなただったのだな」


「でも、効果は確かにありました。陛下もそれはおわかりかと思います。ですので……」


 どうし亭やる夫は、両手のひらを、皇帝に差し出した。


「ああ……報酬か」


「はい、六億を頂戴します」


   完

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