羅漢の祠

深川我無

第1話

「なあ? 羅漢の祠って知ってっか?」


 Kはどこか興奮した様子でそう言った。


「山奥の盆地にある人形が供えてあるあの?」


「さすが心霊スポットマニア! じゃあこれは知ってっか? あの祠、続きがあるらしいんだよ……」


 ゾクリと鳥肌が立つのが分かった。


 "続き"というその言葉に、ただならぬ気配が宿っている気がした。


 僕はいつの間にかKの方に向き直り、話の続きを持っている。


 Kはそうこなくちゃとでも言うように、ニタニタと笑みを浮かべて続きを話し始めた。


「なんでも祠の人形をどけるとさ、奥に続く岩戸があるらしいんだよ……でも奥に何があるのかは情報がないわけ」


「嘘臭……誰情報?」


「従姉妹の彼氏。族やってて結構やんちゃしてたらしいんだけど、祠の奥を覗いてから行方不明らしい。従姉妹が彼氏の情報が入ったら教えてくれって泣きながら電話してきて知ったわけよ」


 Kのその言葉で再び鳥肌が立った。


 得体の知れない信憑性がアルコール漬けの脳に染み渡っていく。


「なあ……これ、動画サイトに上げたらバズんないかな?」


 Kの興奮の理由と助平心を理解すると同時に、僕の好奇心はもう止められないほど膨らんでいた。


 褒められたことじゃないのは承知している。それでも、心霊スポットに侵入し動画を撮るのが僕の趣味だった。


 ある種の執念みたいなものがあるのも自覚している。それでも怖い思いしながら、秘密を暴いた時にしか満たせない渇望が、僕の中には存在する。


 僕らは小さく頷きあってから生ぬるくなった缶ビールをぶつけ合った。

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