第6話

「ひぃぃぃいっ……!?」


 思わず仰け反った僕にKは満面の笑みを浮かべて問う。


「ちゃんと映ったか? なあ、ちゃあんと映ったか?」


「それどろじゃないだろ!? K……自分の顔がどうなってるか分かんないのか……!?」


 Kはなおも笑いながら、体中を掻きむしっていた。


 暗い洞窟の中にボリボリボリボリと皮膚を掻き壊す音が木霊する。


 もう一度Kを呼び戻そうと服の裾を掴んで引くと、Kの足下には壊れた小さな祠と、大きな石が落ちていた。


 先ほどのゴリゴリという音の正体が分かり、僕は血の気が引いた。


「K……この祠……壊したのか……?」


「えへへへへへへへへへへへへへへへへへへ」


 Kはそう口走りながらニタニタと笑った。


 それに混じって、子どもの笑い声が聞こえた気がした。


 懐中電灯を振り回し、辺りをキョロキョロと確認したが、ぐるりと周囲を取り囲む無数の地蔵の他には誰もいない。


 しかし、そこかしこを埋め尽くす闇の中から、やはり笑い声が響いてくる。


 ケタケタ ケタケタ ケタケタ

ケタケタ  ケタ  ケタケタ ケタケタケタ

  ケタ ケタケタ ケタ

ケタケタケタケ  

      タケタケタケタケタ




『んあ、まんま、移った、逃げるな』




 それは笑い声とは異なる、たどたどしい言葉だった。


 しかしその声は低く、到底子どもの声には聞こえない。


『罹患者だ……また罹患者が出たぞ』


『なして童子ばかりが……』


『長男坊は何としても守らねばならね』


『次男坊はどうする?』


『穴さ掘って埋めてしまうんだ!』


『女子はどするね? うちは女ばっかしだよ!?』


『長女以外に出来物さ出たら、埋めるしかね』


『これは祟でなかろうか?』


『なら羅漢様と一緒に埋めるのはどうだ?』


『うん。ならだ……! 罹患様と一緒に埋めて、お祀りすればいい!』


『嫌ぁぁあ……! おっ母……! 嫌だぁあ!』


『おっ父……許してけれ、許してけれ』


『おら、良い子にする……! 約束じゃ……約束じゃからあ……!』


 そこから先はまさに地獄絵図の阿鼻叫喚だった。


 病に侵された子ども達が、穴蔵の中で泣き叫び、それをかき消すように外では読経の声が鳴りやまない。


 充満する膿と糞尿の臭い。


 病んだゼロゼロという息遣い。


 小さくなっていく悲鳴。


 一人、また一人と動かなくなる子ども達。


 

 ダメだここは……

 

 絶対に入っちゃいけない場所だったんだ……


 恨みや呪いなんかじゃない……


 ここは……





 






 ……地獄だ……


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る