第5話

 祠の中は嫌な湿気で満ちていた。


 全身を虫が這うような錯覚に苛まれ、その度に身体をはたいてナニカを払い除ける。


 気のせいであって欲しい。


 本当に虫だったとしても恐ろしい。


 そしてもし、これが気のせいでも、虫でも無ければ……


 「おい! K……! いったん戻ろう!」


 必死に叫んだが、Kはまるで野犬のような四つん這いの格好で奥へと進んでいく。


 灰褐色の壁には木枠が嵌め込まれていて、まるで炭鉱か何かのようだった。


 狭くて息苦しい。もし身体がつかえて身動きが取れなくなったら?


 誰にも気づかれることなく、この暗がりに独り取り残されたら……?


 懐中電灯の明かりにノイズが走った気がして叫びそうになった。


 電池はいつまでもつ? 新品だっけ?


 様々な恐怖でもはや訳がわからない。


 そんな時、唐突に細い通路を抜けて広い空間に出た。そこは半径十メートルほどの広場だった。


 思わず安堵して立ち上がる。


 辺りを照らすと、壁沿いに無数の地蔵が所狭しと並んでいた。


 全身にぞわぞわと鳥肌が広がり、僕は急いでKの後を追いかけた。


「K! K! ここはマジでヤバいって……!!」


「ちゃんと映ったか?」


 Kは地面にしゃがみ込んだまま言った。


 ゴリ……ゴリ……


 その手元から嫌な音がする。


「映ったって何か見えたのか!?」


 ゴリ……ゴリ……ごつ……


「んぁ、まぁ、見えはしないっつうか……」


「はあ!?」


『んあ』『まあ』その言葉に覚えがある。


 Kの口癖なんかではない。


 看板で見た……あの……


「おい! とにかく戻るぞ……!」


 Kの肩に乱暴に手をかけた。


 振り向いたKの顔には紫色をした斑点が無数に浮かび上がり、斑点の中央からは黄色い膿がとめどなく溢れていた。


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