第8話

 最寄りのコンビニ、といってもそこから数十キロ離れた場所についた頃には、僕の気持ちも少し落ち着きを取り戻していた。


 窓にはびっしりと手形……なんてことはなく、バックミラーに人影が映ることもなかった。


 それでも、Kは相変わらずニタニタと笑みを浮かべて自分の指をしゃぶり続けている。


 皮膚を滴る膿からは酷い臭いがした。


 僕はコンビニでタバコを買い、トイレに寄った。鏡の中にはやつれた顔の僕が呆然と立ち竦んでいた。


 どこかでお祓い……


 それより先にKの病院だ……


 僕は車に戻ると震える指で救急ダイヤルを押した。


 慣れない受け答えの上に、説明不可能なことが多すぎた。


 それでも相手は「落ち着いてください」と何度も僕に語りかけ、しばらくすると救急車がサイレンを鳴らして近づいてきた。


 助かった……


 そう思った。


 僕はKを救急車に預けて、自分の車で救急車の後に従った。


 病院に入りKに付き添う。


 医者はKを見るなり、すぐさま顔を曇らせて言った。


「症状はいつから?」


「突然です……突然おかしな事を言い出して、どんどん斑点が広がって……」


 医者は怪訝な顔で僕を睨むと、冷淡な声で呟いた。


「脳にウイルスが入った可能性がある……それにしても……症状が急過ぎる……君も血液検査を受けなさい……」


「感染するんですか……?」


 僕が恐る恐る尋ねると、医者は静かに頷いた。


「検査の結果が出るまで確かなことは言えないが、症状は天然痘に酷似している……いったいどこで感染したのか……彼に渡航歴は?」


「……ありません……僕と一緒で、フリーターです……」


 医者はそれを聞いてますます不審な表情を浮かべると、ナースの女の人に何か指示を出して何処かに行ってしまった。


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