第3話

 固まる僕の隣からKも看板を覗き込んだ。


 Kも最初は余裕の表情をしていたが、僕と同じ場所で顔が強張った。


「気持ち悪いな……」


「うん……」


 看板の謎を棚上げし、僕らはどちらからともなく丘の方に向かった。


 するとやがて、小さな木の鳥居が闇の中に浮かび上がる。


 切り出しただけの粗末な木の鳥居。


 垂れ下がる紙垂は雨風で風化してボロボロになっていた。


 どうやら誰も管理していないらしい。


 そうなると、あたりの草木の様子に矛盾があるように思えた。


 やはり落書きだらけの鳥居にカメラを向けていると、そこにも血文字のような例の言葉が書かれていた。


『んぁ…ま…移る移る移る。逃げ…』


 「うわっ…!?」


 突然Kが声を上げ、僕はビクリと肩を震わせた。


 Kが指差す方にカメラを向けると、そこには小さな石の祠と大量の人形が供えられていた。


 ぬいぐるみ、フランス人形、日本人形、そして小芥子こけし……


 それらが祠からはみ出して所狭しと並んでいる。


 こちらを凝と見つめるフランス人形と目が合った気がして、僕は思わず後ずさりした。


「人形だけやけに綺麗だな……」


 Kがぼそりと呟いた。


「うん……」


 その時僕らはいっせいに背後を振り返った。


 そこには闇ばかりが広がっていて、当然のことながら誰もいない。


 それでもたしかに、僕らは同じ気配を感じて同時に振り返った。


 「なあ……聞こえたよな?」


 「聞こえた……子どもの声だよな……?」


 僕らはカメラを止めて映像を確認した。


 しかしそこには何の声も入ってはいなかった。

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