第9話
何と無く、ぎこちない帰り道。
桜も散り、夏になった。
ジメジメとした暑さに、袖をまくる莉央。
「 …ねえ和馬、なんで最近私のこと避けてるの? 」
スピードを落とさず通り過ぎていく車から守るように、莉央を引っ張れば、悲しそうな顔をしながらそう聞かれた。
「 避けてるつもりはない。でも、前みたいに絡む必要もないとは思う 」
「 …そっか 」
本心だった。別に避けてるつもりは無いし、高校に進学すると互いに環境も変わる。同じ学校とはいえ、異性を意識し始める年頃。
莉央は誰もが認める美少女で、狙っている男子も多い。俺は幼馴染という立場があるから交流こそあるが、それを僻む連中がいるのも確かだ。鷹先輩は莉央に対して積極的アプローチを掛けている分、俺に対する害はない。陰湿に嫌がらせをかけてくる男子生徒は日に日に増えている。俺にちょっかいかける暇あるなら、莉央に直接アプローチしたらいいのに。なんて思う。
異性同士の友情成立が難しいのが、今の俺たちの年代なのだ。
だからこそ、今は無理に今までみたいに絡む必要性を感じない。莉央も俺を良いと思ってくれている女子から嫌がらせを受けていると聞いた。心配する美奈を通して、彼氏である寄の口から。
しかし、隣を歩く莉央のスピードは落ち、酷く弱々しく言葉を紡がれる。
「 和馬、私忘れ物したみたい。学校戻る 」
振り返り戻っていく莉央に、俺は咄嗟に声をかけた。
「 莉央!俺も一緒に「 いい!…美奈が多分、そろそろ部活終わると思うから」…そっか。気をつけろよ 」
走り出す莉央を、追いかけることはしなかった。
俺の言葉に、傷ついた反応をした莉央。
互いに学校ではいい距離感で居よう。
そう伝えたかっただけなのに、俺は言葉足らずで思いやる心が不足しているのかもしれない。
「 桜田ーー!!!駅前に新しいクレープ屋が出来たらしいぞーーー!!!!! 」
「 本当に懲りないよね、鷹 」
「 知ってるか?カノ、俺たち最近スイーツ系男子って呼ばれてるらしいぞ! 」
勢いよく漕がれる自転車と、キラキラした顔で莉央を追いかける鷹先輩。
俺はそんな鷹先輩を見て、素直に羨ましいと思った。
いつからだろうか、俺は莉央に釣り合わないと、そう思ってしまったのは。
隣を歩くことに、申し訳なさを感じ始めたのは。
いつからだろうか。
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