第1話 始まり
「シャルマ、キサマをこの村から追放する」
そう言ったのは少し前まで文字を教え、たまにお菓子もくれていたこの村の村長だった。
他にも世間話をした近所のおばさん。魔物に襲われたところを助けてくれた狩人のおじさん。一緒に馬鹿なことをしていた友達。そして、大切に育ててくれた両親。そのすべてから忌々しいものを見る目を向けられる。
それもこれも、俺が神器を授からなかったことが原因だ。
「・・・わかった」
「なんだその口は!!」
顔を殴られる。口の中でもう慣れてしまった鉄の味が広がる。
「今日まで神器を授からなかった異端者であるキサマを生かしてやったんだぞ!!そんな生意気な口を聞くんじゃない!!」
「そうだ!!オマエと仲がよかったリリーナちゃんを見習え!!」
「そうよ!!リリーナちゃんは冒険者になって仕送りも送ってくれるのよ。それなのにアナタは」
「きっとリリーナちゃんにとって唯一の人生の汚点はオマエみたいなやつと同郷だということだ!!」
「消えろ!!消えちまえ!!」
村の連中が俺を責め立てる。中には石を投げつけてくるやつもいる。これが、いまの俺の日常になった。
納得はしていない。でも、しかたがないことだ。
この村にも教会がある。神器を授からなかったことを知った村のみんなは表面上、俺に厳しくした。
教会の者がいる場所では暴言が当たり前で、殴る蹴るなどの暴行や石を投げられたりもした。
神器を授かれない者は神から嫌われた異端者だ。教会ではそう教えられており、王族よりも権力を持つ教会の前には従わざるをえなかった。
だが、その裏で監視の目が厳しい昼間は他の人のように暴言を吐き、殴ってきた両親は監視の目が緩くなる夜には泣いて謝ってくる。
他の人たちも両親越しに俺にお菓子やこの辺りでは貴重な海の魚をくれたりもした。
今回のこの追放についても、教会の神官たちが里帰りしたいし、監視なんて暇で面倒な仕事をしたくないという理由で追放することになった。
しかたがないことだ。なにせ村長が「もし異端者が村にいると知られれば、盗賊なんかが訪れるかもしれないな」と言われているのを聞いた。つまり、これ以上俺がこの村にいると盗賊に扮した教会の手の者がこの村を襲うと脅迫している。だから、これは村長としては正しいことをしているのだ。
・・・などと割り切れることはできない。
ただ神器を貰えなかった。教会の者の監視があった。裏では可愛がっている。
そんな理由があったとしても、俺に暴力を振るっていた事実は変わらない。
はじめは自分の中でも納得していた。が、日が経つにつれて怒りを覚えるようになった。
泣きついて謝る?監視があるから手当もしてくれず、治療する道具すら使わせてもらえない。毎日傷や怪我が増え続け、痛みを感じない日などなかった。
裏でこっそりとものをくれた?自分たちの中で自分たちは「教会に従うしかないから自分たちも被害者だ」と思い込みたかっただけだろ。その証拠にくれるのは食べ物ばかりで、包帯や薬などの怪我を治せるものなんてまったくくれなかった。
投げられた石が目にあたって視力が落ちた。棍棒で殴られて骨折した左足は治療できなかったため変に接合され、動かすだけで痛みを生じている。
許せるはずがない。
だが、しかたがないことだ。許せないからと俺になにができる?
俺以外のこの村にいる14歳以上の人は全員神器をもっている。武器系のものは少ないとはいえ何人かは持っている。教会の者たちは村の人たちより格上の神器を所持している。神器を持たない俺が逆らったところでどうしようもないのだ。
すでにこの場にはいない神器を手に入れたら一緒に冒険者になろうと約束していた幼馴染のリリーナはこの場にはいない。高ランクの武器系の神器を手に入れたことを知った高ランクの冒険者パーティーに誘われ、現在は王都で活躍している。
そのときに「戦略としては期待していないけど雑用くらいはできるんでしょ?だから一緒に来なよ」などと誘ってきたが、他のメンバーから反対されたことで「ごめんね、無理みたい」とあっさりと撤回した。
正直、俺が神器を手に入れられなかったことを信用しておらず、武器系以外の低ランク神器を入手したから恥ずかしくていえないだけなんだと決め付けられていたこともあって断ろうとはしていた。が、あの場で話を受けても断っても他のパーティーメンバーからなにをされるかわからなかったから撤回してもらったのはありがたかった。
そして、今回は教会の者たちの前だからとなにも渡さずにただ追放する。殺すことを選ばなかったのは優しさだとしたかったのだろう。
すでに神器を貰えなかった俺という存在は教会によって広められている。今日まで教会が俺を殺さずに監視させていたのは「異端者であっても殺しはしない教会は偉大である」というアピールとそのことを広めるための時間稼ぎだったのだろう。
この世界に俺の居場所はない。おそらく、街に入ろうとしても追い返されるのがオチだ。
同じ理由で働くこともできないから金を稼ぐこともできない。
それでも、言うしかなかった。
「いままで、育ててくださり、ありがとう、ございました」
そう言って俺は村を出て森に向かった。魔物だけでなく、魔物を生み出す邪神が存在する魔の森に。
武器どころか食料すら持たないおれはそこできっと殺される。でも、それでいいのかもしれない。
生きれるだけ生きる。それが俺にできるこの世界に対する唯一の抵抗なのだから。
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