第10話 最後の空④

「・・・ここは」

「目を覚ましましたか?」


目を開くと白い空間にいた。そして目の前には神々しさを纏う神様がいた。だが、以前と異なり、ところどころに木があった。


「なあ、俺は、ちゃんと」

「よく、やってくれました。アナタは偉業を達成したんですよ」

「偉業って」


ローラのことを解放したかった。だからした。

だから、褒めないで欲しい。励まさないで欲しい。そんなことのためにしたんじゃない。その程度のものが、釣り合うわけがない。


「では、言い方を変えましょう。彼女のことを救ってくださり、ありがとうございます」


そういえば、なんでこの神様はローラのことを贔屓にしてるんだ?というか、よく考えたらおかしいことがある。

コイツは、世界でなにが起こっているのか知らない。神器がないからという理由で俺が迫害されていたのを知らなかったくらいだ。それなのに、なんで邪神になった後のローラのことを『彼女』って断言できたんだ?俺でも確信を持っていなかったことなのに。


・・・もしかして。


「・・・やはり、バレてしまいましたか」

「もしかしたら。それくらいの予測でしかない。でも、そのひと言で確信した。いや、させたのか?」

「さあ、どうでしょう」


姿が変わり、声も中性的なものに性別がわからない。なのに彼女と女性であることを断言した。そんなことがわかる可能性は、ひとつしかない。それに


「清浄の心臓でローラの記憶を見た時にも違和感はあった。オマエ、前にこう言ったよな」


『私は基本的に寿命が六十から七十になるように調整してます』


「そう言ってたはずなのにローラの記憶の中で、先代の王が四十歳。長くても五十より前には亡くなっている。つまり、この時はまだ神器に寿命を伸ばすことはできなかったんだ。なのに、いまはそうなっている。さらに、ローラの知り合いにローラが邪神に姿を変える瞬間を目撃し、時間を止める魔法が使え、そして魔導具を作れる人物がいた。つまり、アンタの正体は」

「お察しの通りです。わたしの本当の名前はシャーマ。そして、先代の神オーシャンからその役割を受け継いだ二代目の神オーロラでもあります」

「受け継いだ?どういうことだ」

「あの姿になったローラに殺されたわたしの魂は、神の下に送られました。そこで、瀕死になっている神オーシャンを目撃しました」


神を瀕死に?そんなこと、できるのか?


「神不在の世界は消滅する。それを避けるために消滅する寸前だった神オーシャンから神力を受け継ぎ、私が新たな神となりました。眷属である天使がいない理由は、私が誕生したばかりの神だからです」


それで一人ですべての仕事をしていたというわけか。


「そういえば、こんな感じに話してて大丈夫なのか?手伝いがいないんならなおさら」

「安心してください。いまは眷属となる天使ができました。ですので、こうして少しだけ話す時間は捻出できます」

「ならいいが・・・それで?」

「はい。わたしは、あの姿となってしまったローラのことが心配になり、時を止めてローラの下に訪れました。そして、ローラを救うために神器の仕組みを作り直しました。その結果」

「俺みたいな存在が生まれた、ということか」

「・・・そうなります」


つまり、神の勝手で俺はあんな目にあったのか。

そんな事情があるからと「はいそうですか」と納得はできない。


できない、が


「・・・わたしのことが、憎いですか?」

「憎くない。というのは嘘になる。アンタの勝手が原因で俺はあんな目にあったんだからな」

「・・・その通りです」

「だが、ローラと出会うことができたのはアンタのおかげだ。そこだけは感謝してる」


だから、もう謝らないでくれ。ローラと出会ったこと。それが悲劇のように語らないでくれ。


「・・・わかりました。では、これから先の未来の話をさせてください」

「え?なぜ?」


なんでそんな話になるんだ?


「ローラの過去を見たということは、現在の教会がしていることは理解していますよね?」

「ああ、それは、まあ」


人工的に邪神を生み出し、それを監視するという名目で聖騎士を派遣し、お布施と称して金を稼ぐ。そんなところか?もしかして、それ以外にもなにか。


「いいえ、お金を稼ぎたい。それだけです」

「は?なら簡単に潰せるんじゃ」

「聖教国がどれだけ悪行をしても見逃される理由。アナタならわかるはずです」


教会の連中がなにをしても許されてる理由。まさか


「邪神の封印をしているから。なのか?」

「その通りです。どれだけ俗な願望であっても向こうは封印をしているという事実を使って権力を手に入れています。なので、誰にも手を出すことができません」

「もしもの時は封印を解くって脅迫してるのか。たしかに、本来倒すことができないんだから封印するしか対処法がないんだから効果的な脅し文句だな」

「そこで、シャルマさん。アナタの話になるんです」

「・・・ああ、そういうことか」


教会は邪神を封印しており、それで脅迫して権力を手にしている。なのに、その邪神を倒せる存在がいたら邪魔になる。

俺が他の邪神も救おうとしなかったとしても、俺が邪神を倒せるという事実がある限り向こうは怯えることになる。

かといって、イタズラに邪神の封印を解除することもできない。解除してしまうと他の国々から反感を買う恐れがあり、すべての国を敵に回すことになるかもしれないからだ。


つまり、向こうがしようとしていることは


「俺を見つけ出して、殺すこと。そういうことか?」

「私はそう思います。そして、そうなることをわかっていながらアナタにローラを救うことをお願いしました」

「蒸し返すな。その話はもういい。たとえそうだったとしても俺がすることは変わらなかった」

「・・・そうですね。すみません」


つまり、目の前の神が聞きたいことは、これからどうするかということだ。


やろうと思えば辺境に隠れて一生を終えることができる。

もしくは、他の邪神になってしまった人を救うこともできる。


どっちを選択してもこの神様は止めないし説得もしない。

どのみち、教会とは敵対していることになる。邪神を解放できる人がいるかもしれない。いまはその程度の認識だが、何かの拍子に俺がその人物であるということがバレるかもしれない。


だから、選択するならいまこの時しかない。


俺は、口を開くと一つの質問をする。


「なあ、一つだけ質問があるんだが」

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