第3話 出会い②
意識を取り戻して目を開く。
目の前で邪神が魚を枝に刺して焚き火で焼いている。
『起きたか。ちょうどいい。そろそろ魚が焼ける。食っておけ』
「その魚、どこで」
『ここは元々森だった。この森の中心であるこの場所の近くには川があり、そこには外の川から川魚が迷い込んでくる。それを獲った』
「・・・邪神も、食べたりするんだな」
『食べない。必要がないからな。これはオマエのために獲ったものだ。エナジーベリーしか食べていなかったみたいだからな。腹が減っているだろ。そんな状態ではまともに剣を使えない。だから、無理でも食べろ』
あのめちゃくちゃ苦い木の実、そんな名前だったのか。
『焼けたぞ。塩なんてものはここにはないから素材そのままの味だ。これを理解して食べろ』
「?わかった」
渡された焼き魚を手に取る。そんなこと言わなくてもこんな場所で塩なんて手に入らないんだからわかってるし贅沢は言わないよ。そう思って焼き魚を口にする。その瞬間
「!?」
なんだ、これ。不味い。不味すぎる。あまりの不味さに吐き気がする。おかしい。村にいた頃に川で釣った魚をそのまま焼いたものを食べたことがあるのに比べようがないくらい不味い。吐き出そうとするが邪神の左手により口を抑えられてしまったことで吐くことができない。
『言ったはずだ。無理でも食べろと。そしてその魚は普通の川魚だ。いまのオマエ以外なら普通に食べることができる。それくらい普通の魚だ』
そんなの嘘だ。ならなんでこんなにも不味いんだよ。
『オマエは生き延びるためにエナジーベリーを食べていた。アレには体力と魔力を回復させ、体力と魔力の最大値を上昇させ、さらに喉の渇きをうるおす効果がある。だが、それ以外にも依存性の副作用がある』
は?なんだそれ。
『ただの麻薬成分ではない。五感を狂わせるんだ。一日摂取しないだけで五感が狂ってしまう。エナジーベリーを食べるまでずっとな』
あれは、そんなヤバいものだったのか。そうだと知っていたら俺は・・・いや、あれがなかったら俺は死んでいた。だから知っていても食べていたはずだ。
『取り除くことはできる。だが、それには時間がかかる。オマエはこの10日間エナジーベリーを摂取し続けた。その副作用が切れるまで半年はかかると覚悟しろ』
半年の間、この苦しみを。
『勘違いしているようだが、いまのオマエが狂っているのは味覚だけではない。いま私はオマエの左腕に触れている。わからないだろう?いまオマエに話しかけているが同時にテレパシーで脳裏に直接語りかけている。耳からは聞こえていないだろう?いまは朝だ。夜みたいに暗いだろう?その魚の匂いを嗅いでみろ。なにも匂わないだろ?それがオマエが必死に生きた代償だ』
マジかよ。そこまで、否定するのかよ。俺は生きてちゃダメなのかよ。神器を持っていない。たったそれだけのことで、生きることすら許されないのか。
『今日は休め。だが飯は食べろ。さもないと心も体ももたないぞ』
その言葉を聞き、俺は口の中のものを無理やり飲み込む。そして食べて飲み込むという作業を繰り返した。生きるために。まだ死ねない。死にたくない。俺が抱いているこの感情に嘘をつきたくないから。俺だけは俺を裏切りたくないから。だから食べる。吐きそうになるのを我慢する。不味すぎて涙も出てくる。それでも食べる。
そして、食べ切った。
流れる涙を腕で拭う。吐きそうになる感情を抑え込む。
たったこれだけのことで疲れたのか、意識が朦朧とする。
そのまま地面に倒れ込む。すると、邪神の左手の一本が俺の頭に置かれ、撫でられる。
『いまは眠りにつけ、神器を持たずに今日まで生きたんだ。きっとオマエは強くなれる。半年という長い間オマエは苦しむことになる。だが、折れるな。オマエならきっと・・に目覚める。そして、オマエならきっと』
そこで俺の意識は途絶えた。最後に言った言葉はきっと気のせいだ。
なにせ、この邪神自身ができないと断言したことなのだから。
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