閑話 ●●●、真名再生

清浄の心臓を起動。囚われた魂と接続・・・成功しました。


魂の記憶を解析・・・破損した情報を発見。修復します・・・失敗しました。


破損した情報を本端末でのみ確認できるように変更。実行します・・・成功しました。


前提を変え、再び破損した情報を修復します・・・成功しました。


真名再生。対象の魂、神器『デュランダル』のユーザー個体名『ローラ』の記憶を再生します。

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・・・ここは?


目を覚ますと、突然洞窟の中にいた。

周囲を見渡すが、ここがどこなのかもわからなかった。


すると、どこからか声が聞こえる。


声に従って移動する。振り返った目の前に壁があり、ぶつかりそうになり、咄嗟に目を瞑る。


衝撃がこないことに疑問を持ち、目を開くと、目の前でチャンバラごっこをしている赤い髪を伸ばした少女と緑の髪をおさげにした少女がいた。あれは、まさか


「幼少期の私とその幼馴染だ」

「!?」


いつからか、俺の隣に女性がいた。

その女の人は、昨日、邪神の背後に見えた女性の姿をしていた。

あのときと違って服装は帽子を被り、上はネクタイをしたシャツの上にどこかの国のものらしき紋章がついたジャケットで、下は膝上までのスカートと膝上までのソックス、そしてブーツという姿だった。


「どうしたシャルマ。なにを驚いているんだ?数年間特訓してやったじゃないか」

「まさか、あの邪神、なのか?」

「ん?・・・ああ、魂の中だからかわからないが、どうやらここでは以前の姿でいれるらしい。もしかしたら・・・・」


目の前でなにか独り言を言っている。少し待っているとこっちに向き直り、口を開く。


「自己紹介の続きだな。私の名前はローラだ。剣の腕なら男にも負けない騎士をしている。・・・言えた」

「言えたな」

「ああ。それにしても・・・ひさしぶりだな」


そう言いながら自分の顔を触り、髪に触れ、その場でジャンプをする。・・・下がスカートだからジャンプするたびにチラチラと視線が向いてしまう。


「?どうした。なにをそんなに恥ずかしそう、に・・・ち、違うぞ!!これは、その。とにかく違うんだ!!」

「わ、わかった。なにが違うのかはわからないけど、わかった」

「いやわかってる。私にこんな格好が合わないということくらいは。だから、これは」

「いや、似合ってる。そうじゃなくて、ジャンプする度に、その、スカートが」

「!?」


それを聞くと顔を真っ赤にしながら素早くスカートを手で押さえる。

どこか気恥ずかしさを覚え、視線をそらす。そういえば、なんの音もしていないことに気がつくと、視線を前に戻す。そこには、時が止まったように空中で静止している二人の少女の姿があった。


「これは」

「どうした!!まさか、わ、私の下着を」

「いいから、前を、向け!!」


ローラの頭に手をやって前を向かせる。すると、時間が動き出した。


「・・・どうやら、記憶の持ち主が見ている時しか記憶は再生されないらしいな」

「そのようだな」


目の前で二人の少女がチャンバラごっこを続ける。緑髪の少女がローラに剣を弾かれる。すると、手に木剣を出現させて手に取ると再び斬りかかった。


「懐かしいな。アイツ、シャーマっていうんだが、あの見た目で負けず嫌いだな。魔法師団に入る頃には時を止める魔法も使えるようになるし、画期的な魔導具を使れるようにもなるが、この時は植物系統の魔法しか使えなかったんだ。この手合わせでも魔法は禁止って決めてたのに使ってきたんだ。だから」


シャーマという少女がローラに比喩でなくそのままの意味で飛ばされた。


「私も身体強化の魔法を使って、吹っ飛ばしてやった」

「ああ、本当に飛んでるよ」


あれ、大丈夫なのか?


シャーマが地面に激突する寸前、世界が壊れ、別の記憶を再生する。


次の記憶は、どうやら城の中のようだ。

玉座に座っている王と思われる男の前でローラとシャーマはひざまづいていた。王の横には縄で縛られた王と似た顔の男がいた。


「懐かしい。これは戦争で活躍した私とシャーマが昇進したときのことだ。王の横の男はこの国の王子だ。平民だからと馬鹿にしてきたり、かと思えば寝室に呼ばらたりもしていた」

「寝室って、大丈夫なのか?」

「誘いは断っていたからなにもなかった。だが、なにを思ったのかアイツは敵国にこちらの作戦を伝えたんだ。どうやら、戦争に勝利したら高い地位と私の身柄を自由にする権利を貰っていたらしい。それがバレた上に戦争で勝ったから縛られている。この後、この王子は戦争中に死んだことになる」

「ああ、処刑されたのか」


王様がなにか話している。そして立ち上がるとローラに剣を、シャーマに杖を渡している。なんか装飾が多いな。


「あれは儀礼用のもので、実戦で使えるものじゃない。私たちは戦争での活躍を表彰され、その記念として渡されたものだ」

「なるほどな。王様って、結構若いんだな」

「ああ、それはしかたがない。この二年前、老衰で先代の王が亡くなったんだ。まだ四十歳半ばと若かったのだがな」

「そうなのか」


ところで、さっきから気になってたんだが。


「スカートじゃなかったんだな」

「あ、あたりまえだろ!!馬に乗るんだ。スラックスを履いているに決まっているだろ!!」

「ふーん。シャーマはスカートなんだな」

「それは、シャーマたち魔法師団は空を飛んで移動する。念の為に言っておくが、シャーマはスカートの下にスパッツは履いているからな」

「まあ、別にスカートでも似合ってるよ」

「・・・ありがとう」


世界が壊れる。また新たな記憶が再生される。


今度は、どこかの洞窟の中だった。

ローラと同じ鎧を纏った騎士達を率いてローラが剣を振るっていた。


「これは・・・ああ、あの時か」

「あの時?」

「そろそろ終わるということだ」


その言葉で察してしまった。

それでも記憶を見続ける。

俺は目を離すことができる。だが、邪神になったローラは目を離すことができない。

自分が、邪神となるその瞬間を。

これは、かなり辛い。


ローラが洞窟の奥に辿り着く。そこには、白い法衣を身に纏う男がいた。あの法衣って、まさか。


「当時の教皇だ。教会は、どのように活動資金を手に入れるか、知っているだろう?」

「魔物から守るために聖騎士を派遣して寄付金を・・・まさか」


その一言がトリガーになった。わけでもなく奇跡的にタイミングがあったのか、教皇がローラに斬られる。だが、ローラの右腕に血のような色をしたナイフが刺さっていた。


「なあ、まさか」

「ああ、あのナイフが原因だ」


そのひと言と共に世界が壊れ、別の記憶・・・いや、最後の記憶が再生される。


そこは、俺が邪神と会ったあの森の中だった。


雨が降っている。


そして、森の中をローラを抱えたシャーマが歩いている。


二人とも、全身ボロボロになっている。


「いったい、なにが」

「私が教皇を斬ったことで、聖教国から私の身柄が要求されたんだ。聖教国から依頼されて邪教徒を殲滅するように言われていたんだが、どうやら罠だったらしい。そのときに、私が斬った邪教徒のリーダーが教皇だったことを聞かされた」

「それで、あれは」

「私の身柄を引き渡すために騎士団の精鋭とな。私は私の身柄で済むのならと了承したのだが、シャーマが抵抗したんだ。そして、シャーマが殺されそうになったから私も手が出てしまい。その結果があれだ」


ローラの右腕がなくなっており、その代わりに止血のために縛っている軍服の切れ端が真っ赤に染まっている。そして、左の膝から二本目の左腕が生えており、顔が半分異形のものになっていた。


ローラがシャーマになにかを言う。それを聞いてシャーマが怒りを露わにする。


「なんて言ったんだ?」

「私を人間のまま殺してくれ。そう言った。そうしたら怒られたんだ。『まだわからないでしょ。まだ諦めないで』とな」

「そうか・・・でも、オマエから聞いた話だと、この後」

「ああ・・・そうだ」


突然、ローラがシャーマを弾き飛ばして苦しみ出す。

シャーマが近寄ろうとすると、ローラの切断された右腕から剣が生え、そして・・・・・・


世界が壊れた。そして、俺たちは白い空間にいた。


「これが、私の人間として生きた記憶、か。懐かしいな」

「・・・」


なにも、言えなかった。

どんな言葉をかければいいのか、わからなかった。

俺も理不尽な目にはあってきた。だが、これと比較することはできない。取るに足らないできごとだ。

俺は、手を伸ばしては引っ込めるという謎の動作を繰り返すことしかできなかった。そのとき、ローラが俺の手を掴むと引き寄せられる。そして、抱きしめられた。


「同情をするな。自分を卑下するな。・・・そんなことは言わない。それは、私が決めることでもない。だから、シャルマ。オマエが言いたいことがあるなら、それを私は止めない」


俺はいま、なんて言いたいんだ?

同情?違う。

憐れみ?違う。

怒り?違う。

悲しみ?違う。

感謝?・・・きっとこれだ。

なんという感情でいえばいいのかわからないが、きっとこれになる。だから


「・・・ありがとう。俺と出会ってくれて。オマエが、ローラが苦しい思いをしてるのはわかってる。ローラが好きで俺に会った訳でもないことはわかってるんだ」

「私が苦しんでいるのに、そんなことを思っていたのか。悪いやつだな」

「ごめん。ごめん。でも、俺は」

「わかってる。冗談だ。だから謝るな。謝らないでくれ」

「俺は、ローラと出会わなければ死んでいた。こんな気持ちを知らないまま、死んでいたんだ。でも、出会った。出会ったからこんな気持ちを知ることができた。だから」

「・・・ああ」

「だから、ありがとう。俺と出会ってくれて。なのに、俺はローラを助けることが」

「・・・っ。それはもういい。昨日も言っただろ。もう十分だと。私がオマエを救ったんなら、オマエも私を救ってくれたんだ。あのまま、消えるしかなかった私の魂を、今日この時まで繋ぎ止めてくれたんだ」

「・・・ごめん。他にも言いたいこと。感謝したいことがあるのに、忘れちゃった」

「いいと思うぞ。これ以上感謝されると、私は成仏できなくなってしまうよ」

「はは。なら、忘れないで言えればよかったな」


ローラが発光し始める。そして、少しずつ身体が薄くなっていく。同時に、俺の心が熱くなっていく。これで、お別れだ


「・・・さようなら。俺の恩人。そして」

「さようなら。私の救世主。そして」


初恋

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