未亡人の迷走

「私はこの年齢で未亡人となってしまいました。そして私には未だ未だ幼い息子がいます..。」

 

 

 つい今朝まで主人は家に居て、会社に行く準備を終えた後、家族三人、一緒に朝ご飯を食べたんです。その後、主人は「行って来るよ。」私に一言だけ言って、玄関の戸を開ける前に玄関口からイチロウを食堂から呼んだのです。その時イチロウは、タコさんウインナーの足の部分が口からはみ出していて、何とか飲み込もうとして居た時です。イチロウは、タコさんウインナーを口の中に頬張ったまま、玄関口に向かって駆けて行きました。普段の私で在れば、あの子を叱ります。食べ物を口の中に入れた儘で食卓を離れると云う事は、とても行儀が悪い事です。ですがコノ日の朝の主人とイチロウとの件には、何故か目を瞑ってしまいました。自分にも何故だか分かりませんでした。

「イチロウ。じゃあ、お父さん行って来るからな!今日もチャンと良い子にして、お母さんの言う事をシッカリと聞くんだぞ!そして絶対に違法薬物なんかヤッチャ駄目だぞ!良いな?」

 イチロウを、主人は上半身全ての筋肉を無駄に駆使して、思いっ切り「ギュッ!」抱き締めてから出て行きました。それは二人が毎朝、玄関口で必ず交わす神聖な儀式なんです。其のせいでイチロウは、今迄に何度も複雑骨折をしては緊急病院に運ばれた事もシバシバ。そして危篤に陥った事もシバシバ。

 


「本当に月並みな表現ですが、それが最後だとは全く思いませんでした。一体如何して今回の出来事の当事者が、私のゴロウだったのでしょうか?..」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る