第7話 勇者の真実

アレンはリリスの話を聞きながら、ふと疑問を口にした。

「でも……どうして魔王たちは、勇者を倒せなんて言うんだ?普通、勇者ってのは人々を救う存在だろ?巨悪の魔王を倒すために戦うんじゃないのか?」


リリスは一瞬口を開きかけたが、何も言わなかった。彼女自身もその答えを知らないのだろう。


その時、ベルフェーゴールがアレンの肩の上であくびをしながら言葉を挟んだ。

「まー、そりゃそう思うよねぇ~。でもさ、アレン。あんた、まだ何も知らないんだよ。」


「……どういう意味だ?」

アレンはベルフェーゴールを睨んだ。


「いい?よーく聞きな。勇者ってやつらはね、確かに“正義の象徴”とか“希望の光”なんて言われてる。でもその裏側にある“本当の目的”は違うんだよ。」

ベルフェーゴールはいつになく真剣な口調で語り始めた。


「かつて、あたしたち七つの大罪を冠する魔王は、世界を統治していた。人々を支配し、確かに時には過酷な方法を取ったこともあったけど、それでも世界の秩序は保たれていたんだ。」


「それが勇者によって壊されたってことか?」

アレンが問いかける。


「そう。でも、ただの反乱者ならあたしたちが簡単に潰して終わりだった。問題は、勇者たちが“世界を救う”って大義名分を掲げて、それを利用したってこと。」

ベルフェーゴールの言葉に、リリスの表情が変わる。


「利用……?」

リリスが小さな声で繰り返した。


「そう。彼らの本当の目的は、魔王を倒した後に“自分たちが新たな支配者になる”ってことさ。」


「どういうことだ?」

アレンの声が震えた。


「勇者たちはね、確かに魔王を倒して“世界を救った”ことになってる。でも、実際にはその後で“自分たちの理想郷”を作ろうと動き始めたのさ。」

ベルフェーゴールは淡々と語る。


「理想郷……?」

リリスが静かに言葉を繋げた。


「そう。それは、人間が自分たちの感情や欲望に縛られず、完全に管理された平和な世界。少なくとも、勇者たちはそう考えてた。」

ベルフェーゴールは肩をすくめた。


「でも、その理想を実現するために必要なのは、なんだと思う?」

彼女の言葉に、アレンは答えられなかった。


「“完全な支配”さ。勇者たちは魔王を倒した後、人間の感情――嫉妬、憤怒、欲望、怠惰、暴食、色欲、傲慢――そういったものを悪と断じて排除しようとしたんだよ。」


「人間の感情を排除……そんなことが本当に可能なのですか?」

リリスが青い瞳を揺らしながら呟いた。


「可能にしようとしてるってことさ。そのためには、魔王の力だけじゃなく、それを受け継いだアンタたちみたいな継承者も邪魔なんだよ。」

ベルフェーゴールは冷たく言い放つ。


「……つまり、勇者たちはただ魔王を倒すだけじゃなく、人間を完全に支配するために動いているってことか。」

アレンは胸元の魔石を見つめながら呟いた。


「その通り。でも、理想郷とか言ってるけど、結局は自分たちが頂点に立ちたいだけ。支配者になりたいってのが本音だよ。」

ベルフェーゴールの言葉には、どこか嘲笑が混じっていた。


リリスとアレンの間に沈黙が流れた。それぞれが、ベルフェーゴールの語った“真実”を自分なりに受け止めようとしている。


「信じるかどうかは、アンタたち次第だよ。ただ、あたしはあたしの宿命を継いだアレンを助ける。それだけ。」

ベルフェーゴールは静かに言葉を締めくくった。


アレンは立ち上がり、剣を握り直した。

「……もしその話が本当なら、俺たちは止めなきゃならない。勇者だろうが、その目的が間違ってるなら、放っておけるわけがない。」


リリスもまた、耳元の魔石に触れながら小さく頷いた。

「私も……できることをします。この力を得た意味が、今なら少し分かる気がします。」


アレンとリリスの間に、共鳴する魔石の光が再び輝いた。彼らはそれぞれの決意を胸に、新たな戦いに向けて歩み始めた――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Seven Sins Reborn 虎野離人 @KONO_rihito

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ