第4話 炎に包まれた故郷
アレンは急ぎ足でエルデンヴェイルの村へと駆け戻った。道中、未来視で見た燃える村の光景が脳裏から離れない。胸元に宿る緑の魔石が熱を帯びるように脈動している。
「間に合え……頼む……!」
アレンは息を切らせながら祈るように呟いた。しかし、視界に入った村の姿に、彼は言葉を失った。
村はすでに炎に包まれていた。赤々と燃え上がる家々、崩れ落ちた屋根、そして遠くから聞こえる村人たちの悲鳴。
「くそっ……本当に……!」
アレンは震える声で呟き、炎の中へ飛び込むように走り出した。
「ちょっと待ちなよ、そんな無計画で突っ込んだら死ぬだけだっての!」
ベルフェーゴールが肩の上から叫ぶが、アレンの足は止まらない。
村の中心――広場へとたどり着いたアレンは、そこで信じられない光景を目にした。父ハロルドが剣を手に戦っていた。彼の相手は――フードを深く被った小柄な女だった。
その女は、子供のように無邪気な声で笑っている。片手には炎を纏い、もう片方は何かを操るように空を仰いでいる。
「ねぇ、おじさん、もうちょっと頑張ってくれないとつまんないんだけど~!」
フードの女はひらひらと炎を舞わせながら、軽快にハロルドの攻撃をかわした。
「この村に……何の恨みがある!」
ハロルドは血を滲ませながら叫び、渾身の一撃を放つ。だが、それすらも女の手のひらで防がれてしまう。
「えー?別に恨みなんてないよ。任務だからやってるだけ!」
女は無邪気に笑いながら、手のひらを上に向けた。炎が渦を巻き、巨大な火球が空中に現れる。
「そんな――!」
ハロルドは目を見開いたが、次の瞬間、火球が爆発し、彼は吹き飛ばされた。
「父さん!」
アレンは声を張り上げ、父の元へ駆け寄った。
「ん~?なんだ、誰か来たの?」
フードの女は興味深げに振り返る。その無邪気な笑顔が、アレンの怒りをかき立てる。
「てめぇ……父さんに何をした!」
アレンは怒りに震えながら、女を睨みつけた。
「あ~、この人?ただちょっと遊んでただけ!」
女は軽い口調で答えたが、その言葉はアレンの耳には届かなかった。
「父さん!しっかりしてくれ!」
アレンは倒れた父を抱き起こす。ハロルドは弱々しい声で言葉を紡いだ。
「アレン……逃げろ……こいつは……ただの使い手じゃない……。お前には……まだやるべきことが……」
「そんなこと言うなよ、父さん!」
アレンは涙をこらえながら叫ぶが、ハロルドは静かに目を閉じた。
「おじさん、もう用済みだね~。」
フードの女は退屈そうに呟いた。そして、アレンの方を向き、楽しそうに指を振る。
「次は……そうだな、ウェルトの街に行こっかな!あそこも面白そうだし!」
そう言い残すと、女の体は炎に包まれ、そのまま消え去った。
アレンは立ち尽くし、拳を握りしめた。
「ウェルトの街……。絶対に許さない……。」
彼の瞳には怒りと悲しみ、そして決意の光が宿っていた。
「……やっちゃったね。アンタ、こっから先どうする気?」
ベルフェーゴールが少し冷めた声で語りかける。
「決まってる……ウェルトに行く。あいつを止める……!」
アレンは立ち上がり、燃える村を見つめた。
「ま、止めるのは勝手だけどさ、次はちゃんと準備しないとマジで死ぬよ?」
ベルフェーゴールがアレンの肩に飛び乗り、不敵に笑う。
「いいさ……死んでも構わない。でも、これ以上、あいつに好き勝手させるわけにはいかない。」
アレンの声には覚悟が込められていた。
燃え尽きた故郷を後に
村は完全に燃え尽きていた。人々の悲鳴も、やがて遠くへ消えていく。アレンは最後に一度だけ村を振り返り、静かに言葉を呟いた。
「父さん……見ててくれよ。俺は、絶対に……」
炎の光を背に、アレンは歩き出す。その先に待つのは、さらなる戦いと謎。だが彼の足取りには、迷いはなかった。
「次はウェルトの街……。ま、せいぜい頑張んな~。」
ベルフェーゴールの軽口に、アレンは答えなかった。肩に宿る魔石の輝きだけが、彼の覚悟を映し出していた――。
こうしてアレンの冒険は、悲劇の中から幕を開けた。
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