第5話 共鳴
アレンの胸元で緑色の魔石が光を放つと、目の前に近い未来のビジョンが広がった。それはウェルトの街が燃え上がり、人々が悲鳴を上げながら逃げ惑う光景だった。その中心に立つのは、あのフードを被った女。
「またあいつか……!」
アレンは目を見開き、拳を握りしめた。
「どうやらアンタ、また厄介ごとに巻き込まれるみたいだねぇ。」
肩に乗るベルフェーゴールが軽い口調で呟く。
「今度は止める。絶対に……!」
アレンは振り返らずに走り出した。その途中、燃え尽きた村に残された父の剣を拾い上げる。
「父さん……今度こそ。」
そう呟きながら、彼はウェルトを目指して山道を駆け下りた。
ウェルトの街に着いたとき、アレンの心にあったわずかな希望は打ち砕かれた。街全体が黒く焦げ、崩れた建物が瓦礫となって積み重なっている。死を思わせる静寂が辺りを包み、風が砂煙を舞い上げている。
「また……間に合わなかったのか……!」
アレンは歯を食いしばり、拳を地面に叩きつけた。
「何かがいるね。」
ベルフェーゴールが低い声で囁く。アレンが顔を上げると、瓦礫の中に立つフードを被った女の姿があった。
「やっぱりお前か!」
アレンは怒りに任せて剣を抜き、女に向かって叫んだ。
女はアレンの声に反応したが、何も言わずに立ち尽くしている。
「何か言えよ!」
アレンが剣を構えて迫ると、女はゆっくりとこちらを振り向いた。そして、無言のまま一歩前に踏み出す。次の瞬間、女の動きが一変した。
「っ!」
女は鋭い蹴りを繰り出し、アレンの剣を正面から弾き返した。その蹴りの威力は剣ごとアレンを後退させるほど強烈だった。
「おいおい、なんだその動き!」
アレンは体勢を立て直しながら叫ぶが、女は無言のままさらなる蹴りを放つ。彼女の動きは俊敏で、鋭く、躊躇がない。
「くっ……!」
アレンは必死に剣で防御を試みるが、次々と繰り出される蹴りに追い詰められていく。
数分間にわたる攻防の中、アレンはついに隙を見つけて反撃に転じた。剣を振り下ろし、女のフードを掠め取る。
その瞬間、女は大きく距離を取り、ため息をついた。
「ちょっと待ってください。どうやら少し誤解をされているようですが……」
アレンは剣を構えたまま警戒を解かない。
「誤解だと?お前がこの街を……!」
「私が来たときには、すでにこうなっていたのです。」
女は語気を強めると、フードを外した。現れたのは、銀髪の美しい女性だった。整った顔立ちと冷たい青い瞳が、燃え残る瓦礫の中で際立っている。
「……申し遅れました。私の名前はリリスです。」
彼女は自分の名前を告げると、アレンをまっすぐに見つめた。
「リリス……?」
アレンは警戒を解かずに名前を繰り返した。
「ええ、リリスです。」
リリスは静かな声で答えた。そして、彼女の耳元で揺れるピアスに、アレンの視線が吸い寄せられた。そこには、青く輝く魔石がはめ込まれている。
突然、アレンの胸元に宿る緑色の魔石が淡い光を放ち始めた。それに呼応するように、リリスのピアスが青い輝きを増す。
「これは……!」
アレンが驚きの声を上げると、リリスも耳元のピアスに手を当てた。
「……どうやら、あなたも魔石の継承者なのですね。」
リリスは冷静に言い放った。
「お前も……継承者なのか?」
アレンは眉をひそめながら問い返した。
「ええ、そうです。」
リリスの瞳が一瞬だけ険しくなったが、すぐに柔らかな光を取り戻した。
「……では、貴女はこの街を燃やしたわけではないと?」
アレンが問いかけると、リリスは頷いた。
「ええ、その通りです。繰り返しますが、私がここに到着したときには、すでにこの状態でした。」
彼女の言葉には、確かな重みがあった。
「……信じていいのか?」
アレンは剣を下ろしながらも、まだ疑念を完全には捨てきれない表情を見せた。
リリスは静かに息をつき、再び彼を見つめた。
「信じるかどうかは、あなたが決めることです。」
二人の間に漂う緊張感の中で、魔石が再び微かに共鳴する音が響いた。
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