第6話 暴食の魔石の秘密
リリスとアレンの間に漂う緊張感を、ベルフェーゴールが軽く破った。アレンの肩に乗っていた黒猫のような小さな存在が、不意に前足を伸ばし、リリスに話しかける。
「ちょっと、あんた。黙って見てたけど、あたしを無視する気?せっかくのお披露目タイムだっつーのに。」
リリスはベルフェーゴールの声に一瞬驚いたが、すぐにその正体に興味を持ったようだった。
「……あなたは?」
彼女の瞳が鋭く光る。
ベルフェーゴールは胸を張り、ふんぞり返るように前足を振り上げた。
「あたしはベルフェーゴール。かつて“怠惰”の魔王って呼ばれた超大物!今はこのアレンの使い魔をやってんのよ。」
「怠惰の魔王……!」
リリスはその言葉に僅かに目を見開いた。
「そうそう、なんか驚き顔してるけど、あたしが魔王の一人だったのは事実だからねぇ。まぁ、今はこんな可愛い姿だけどさ!」
ベルフェーゴールは軽い調子で語るが、その言葉の重みをリリスは静かに噛み締めているようだった。
一息ついたアレンは、ふとリリスの耳元の魔石に目を向けた。青く輝くそれは、明らかに彼の胸元に宿る魔石と同じく、人ならざる力を宿している。
「お前の魔石――暴食の魔石だと言っていたな。それを、どこで手に入れたんだ?」
アレンの声には真剣さが滲んでいた。
リリスは少し黙り込んだが、やがて口を開いた。
「……この魔石は、私の家で代々保管されていたものです。」
「家で保管?そんなものを持ち続けるなんて、どういうことだ?」
アレンが問い詰めると、リリスは目を伏せた。
「この魔石は、私の一族に代々受け継がれてきたものだと言われています。理由は分かりません。ただ、私はその存在を知ってはいましたが、近づくことは許されていませんでした。」
リリスの声には、過去の思い出を語るような静けさがあった。
「じゃあ、どうしてそれを……?」
アレンが更に問いかけると、リリスは苦笑を浮かべた。
「……好奇心です。ある日、どうしても気になってしまい、家にある封印された部屋に入ったのです。そして、この魔石に触れてしまいました。」
「触れてしまった……それで何が起きた?」
アレンが促すと、リリスは目を閉じ、少しだけ躊躇いを見せた。
「――あの瞬間、私は暴食の魔王と出会いました。」
「暴食の魔王……!」
アレンは息を飲んだ。
「ええ。魔石に触れた瞬間、意識が別の場所に引きずり込まれました。そこには、人間とは思えない威圧感を放つ存在が立っていて……彼女は私にこう言いました。」
リリスはその言葉を思い出すかのように、静かに続ける。
「『お前が私の力を受け継ぐ者か。よい、ならば我が意志を果たせ。勇者を倒せ――』と。」
「勇者を倒せ……だと?」
アレンは眉をひそめた。
「はい。その言葉を最後に、彼女の姿は霧のように消えていきました。まるで、その時点で残っていた魔力が尽きたかのように。」
リリスは静かに耳の魔石に触れた。
「それから私は、この魔石の力――完璧な記憶力を持つ力を得ました。おそらく、暴食の魔石に宿る力だと思います。」
リリスの話を聞き終えたアレンは、しばらく黙り込んでいた。胸元の魔石に宿る怠惰の魔王と、リリスの耳の魔石に宿る暴食の魔王――それぞれが継承者に与える力と、使命。
「……勇者を倒せってのが、魔王たちの共通の命令なのか?」
アレンはぽつりと呟いた。
「分かりません。ただ……」
リリスは言葉を濁し、視線を遠くへ向けた。
「ただ?」
アレンが促すと、リリスはゆっくりと首を振った。
「いいえ、何でもありません。」
ベルフェーゴールが肩越しにアレンを見上げ、ニヤリと笑う。
「お互いに何か隠してるっぽいけどさ、ま、そういうのって楽しいよねぇ~。」
「黙ってろ。」
アレンはベルフェーゴールを軽く押しのけるようにしながら、リリスに向き直った。
「これからどうするつもりだ?」
アレンの問いかけに、リリスは静かに答えた。
「分かりません。ただ、私の魔石がこうして共鳴したのには、きっと意味があるのでしょう。」
そう呟いたリリスの青い瞳には、決意が宿っていた。
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