Seven Sins Reborn
虎野離人
第1話プロローグ
暗闇の中、空気は張り詰め、かつて世界を震撼させた者たちが一堂に会していた。影のように黒い大理石の円卓には、七つの座があり、そこに魔王たちは腰掛けている。数百年にも渡り、この地に恐怖をもたらしてきた存在たち。その強大な魔力と支配力を前に、ほとんどの者がひれ伏すほかなかった。だが今、彼らの表情には焦りと険しさが漂っていた。
「ここまで来たか……」
傲慢の魔王が低く呟き、紫色の光を帯びた眼で虚空を睨む。
「フン、人間どもが…舐めてくれる!」
憤怒の魔王が牙を剥き、力強く拳を叩きつけると、冷えた石壁が不気味に震えた。その目には怒りと敵意が燃え盛っているが、その内には一抹の恐怖も隠れていた。
「まあまあ、そう怒らなくてもいいじゃない?」
色欲の魔王が艶然と微笑み、緊張感を和らげるかのように、しなやかな指で髪を弄んだ。
「色欲よ、戦いは避けられない。だが、ここまでの攻勢を予期できなかった我らに非がある。」
強欲の魔王が硬い声で言い、冷静に周囲を見渡す。金と力を何よりも信じてきた彼でさえ、いま自分たちが置かれている状況を容易く覆すことはできないと悟っていた。
「ふん、ここでこうして話している間にも、奴らが迫っているというのに、怠惰はどこにいる?」
嫉妬の魔王が鋭く口を挟む。視線をさまよわせ、不在の席を苛立たしげに見つめた。これまでに何度もこの場に現れない者がいることには慣れつつも、ここ一番の局面で欠席していることが彼の感情をさらに掻き立てていた。
「きっと、また自分勝手な怠惰の気まぐれだよ。」
色欲が薄く微笑んだが、その微笑みには嘲りが混じっていた。
空気が重苦しい静寂に包まれたとき、不意に部屋の外から轟音が響き渡った。魔王たちは顔を見合わせる。音が近づいてくるたびに、壁が揺れ、光が漏れ出しているのがわかった。
「やつらが来たようだな……」
冷徹な傲慢の魔王は静かに立ち上がり、その圧倒的な存在感で場の緊張をさらに引き締めた。
次の瞬間、轟く音とともに、巨大な扉が破られた。強烈な光が差し込み、そこに立っている四人の姿が浮かび上がる。彼らは人間の中でも、選ばれし者たち。四大属性を司る勇者たちは、それぞれが伝説的な力を誇っていた。
「やっと出てきたわね、魔王ども!」
炎の勇者が笑みを浮かべ、目を輝かせながら前に出た。その顔には戦いを楽しむ無邪気さがありながら、そこに宿る凶暴さは魔王でさえも冷やりとさせるものだった。
風の勇者は陽気に肩をすくめ、「ちょっと遅かったじゃん?もう待ちくたびれたよ」と軽い口調で言い放ったが、その瞳には鋭さが宿っている。
水の勇者と雷の勇者も無言で前進し、静かな威圧感を漂わせた。彼らの背後には、魔王たちの死を望む人間たちの意思が渦巻き、その力が彼らに宿っていた。
「我らが滅ぼされるなど、考えたこともなかったが……やむを得まい。」
傲慢の魔王が呟き、他の魔王たちと視線を交わす。彼らは、最後の手段として秘めていた方法に、ついに思いを巡らせることになる。
「我らの力は尽きることはない。この場で消えるとしても、未来へと引き継がせることはできる。」
嫉妬の魔王が険しい顔で言った。表情は不敵であるものの、彼の眼の奥には覚悟が宿っている。
「そうよ、私たちの魂が消えても…力は、未来の誰かに受け継がれる。」
色欲の魔王が、微笑みながら言った。その言葉には、次代へ自分の存在を刻みつけるという確信があった。
魔王たちはそれぞれ自らの力の一端を「魔石」に封じ、周囲に散らばせるための術を発動させた。その力が、円卓の中心に集まり、七つの魔石が現れる。怠惰の魔王は欠けていたが、六つの魔石は凄まじい魔力を放ち、圧倒的な威圧感で輝きを放っていた。
「これが我らの遺志だ……この魔石たちが、いつの日か我らの力を継ぐ者の手に渡ると信じよう。」
傲慢の魔王が、最後の言葉を口にすると、魔石が光を放ちながら、空間に散り散りに飛び散っていった。
その瞬間、勇者たちが魔王たちに刃を振り下ろし、光と闇が交差した。次々と消えていく魔王たちの姿。しかし、魔王たちは最後まで不敵な笑みを浮かべ、彼らの消失とともに、魔石は世界中へと散らばっていった。
魔王たちの肉体は滅び、魂もまた消え去ったかのように思えたが――彼らの力は、魔石を通じて未来へと続いていく。
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