Seven Sins Reborn
虎野離人
第1話プロローグ
プロローグ:魔王たちの会合
世界が闇に支配されていた時代――七つの大罪を冠する魔王たちは、彼らの玉座を囲む大広間に集まっていた。天井を貫くようにそびえる漆黒の柱、壁を覆う赤い炎の紋章。その中心に、巨大な黒曜石の円卓が鎮座している。
魔王たちは、一つの不吉な知らせを受けて集まっていた。勇者たち――人間にして天使の力を宿す存在が、この魔界へと侵攻してきたのだ。
円卓を囲む魔王たち
「人間どもがここまで踏み込んでくるとは、いい度胸だな。」
荒々しい声が広間に響く。憤怒の魔王が拳を握りしめ、地を鳴らす。赤い炎のように揺れる髪と瞳は、戦闘への欲望で燃え上がっていた。
「静かにしなさい。怒りを爆発させる暇があるなら、解決策を考えなければ。」
冷たい声を放ったのは嫉妬の魔王だった。その瞳は毒々しい緑色に輝き、周囲を睥睨する。
「解決策だと?そんなものがあるのか?」
憤怒の魔王が顔を歪めて言い返す。
「ふふ、どちらにせよ私たちには時間がないわ。少なくとも、傲慢な連中に頼るくらいなら、自分の力を信じるほうがマシね。」
色欲の魔王が椅子に深く腰掛け、誘惑的な笑みを浮かべる。
「我々の中には、すでに会合すら面倒と感じている者もいるようだが……。」
傲慢の魔王が高圧的な声で円卓を見渡した。空席が一つある。怠惰の魔王が姿を見せていないのだ。
「……怠惰め、こんな時にも姿を現さないとは。」
憤怒の魔王が椅子の肘掛けを叩く。その音が広間に反響した。
迫り来る勇者たち
「会話している余裕なんてないわ。」
強欲の魔王が立ち上がり、顔をしかめる。彼の指先に広がる地図には、魔界の城へと続く道を進む人間たちの軍勢が刻まれていた。
その中で、特に異質な光を放つ四人――炎、水、風、地。それぞれが天使の加護を受けた存在だ。
「純潔を冠するウリエルの力……“炎”を纏った女が先頭にいるな。全身が焼き尽くされる感覚を味わいたい者は、先陣を切るがいい。」
傲慢の魔王が冷笑を浮かべる。
「彼女だけではない。他の三人も恐るべき力を持っているわ。」
嫉妬の魔王が手を振り、人間たちの姿を投影した幻影を浮かび上がらせる。
「……何を恐れる?人間ごときに我々が負けるわけがない!」
憤怒の魔王が声を荒げるが、その瞳の奥には焦りが見え隠れしていた。
「私たちは“魔王”よ。簡単に終わると思わないで。」
嫉妬の魔王が静かに言い放つ。
魔王たちの決断
しかし、勇者たちが迫るにつれて、次第に魔王たちの表情には不安が色濃くなっていく。彼らもまた、自分たちが力を失いつつあることを感じていた。
「このままでは……全滅する。」
冷静にそう言ったのは強欲の魔王だった。彼は何かを決意したように立ち上がり、自らの胸に手を当てる。
「力を保存する必要がある。私たちの本質を次代に引き継ぐために。」
「ふざけるな!逃げるつもりか!」
憤怒の魔王が声を荒げるが、強欲の魔王は無視した。
「お前たちも理解しているはずだ。人間たち――いや、勇者どもを止めるには、今の我々では足りない。だが、未来を諦める必要はない。」
「未来なんて、どうでもいいわ。」
嫉妬の魔王が冷たい声で言い放つが、色欲の魔王が静かに微笑んだ。
「いいえ……未来こそがすべてよ。」
魔石の誕生
次の瞬間、魔王たちはそれぞれ自らの力を削り取り、魔石へと封じ込め始めた。それは彼らの象徴ともいえる能力――憤怒、嫉妬、強欲、傲慢、暴食、色欲、そして怠惰――を秘めたものだった。
「これで……後の者たちが私たちの力を継ぐだろう。」
強欲の魔王が苦しげに呟きながら、手にした魔石を空高く放り投げる。他の魔王たちも同様に魔石を空へ放ち、それは世界の各地へと飛び散っていった。
「これで全員揃ったわね……。」
色欲の魔王が微笑みながら言ったその瞬間、広間の扉が爆音とともに吹き飛んだ。
光り輝く炎を纏った勇者たちの姿が、そこに現れる。
最後の光景
「勇者どもか……いいだろう。少なくとも、ここで全力を尽くさせてもらう!」
憤怒の魔王が吼え、他の魔王たちも戦闘態勢に入る。しかし、魔石を失った彼らの力は、かつての絶対的なものではなかった。
広間に閃光が走り、魔王たちの叫びが響き渡る。戦闘の激しさの中で、怠惰の魔王の姿はどこにもなかった。
こうして、魔王たちは玉座を追われ、歴史の表舞台から姿を消していった。だが、散らばった魔石は、新たな物語の火種となるだろう――。
暗黒の夜空の下、魔石が七つの光の粒となり、遥か彼方へと散らばるのが見えた。
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