あとがき グーヴィヨン・ブーリエンヌ(日本人名:高橋悠)
自分でも意外だったが、日本人転生者は物をよく書く。私自身もそうだったのだが、この世界に転生してくるような連中は、転生前はそもそも物なんて書かない。それなのに記録だけはそこら中から出てくるのだから不思議なものである。
まずは本書の出版に協力してくれた〈十三州連邦〉公営新聞社に感謝したい。 恐らく、〈ブルボン王国〉や〈ジャコバン共和国〉ではこの本は出版できなかっただろう。少なからず各国の利害に触れる内容も含むためだが、だからこそ中立的立場かつ公正さを重んじる〈十三州連邦〉では出版が可能だったと考える。
本書は元々、趣味で制作していたものだし、出版するにしても自費を考えていた。掲載した記録も旅の道中、自分の足で歩いて集めたものである。
出版に当たって転機となったのは、タリアン氏の記録の発見だった。
「獣狩りのタリアン」と呼ばれた故タリアン氏はその功績や知名度にも関わらず記録がほとんどないという人物だっため、この記録は非常に希少性が高いものであった。その事実を知った新聞社の後押しもあり、本のタイトルが「戦場での回想録」にも関わらず、記録⑨(タリアン氏の記録)は掲載させていただく流れになった。
ちなみに、〈連邦〉人権法では、故人の物であれば法には抵触しないが、存命の場合は当人の承認が必要、承認なしで掲載すれば権利侵害となるため、本書の発行前に全てを精査することになった。記録の掲載にあたり、この点が最も難題かつ大変な労力を要した部分かもしれない。中には確認ができなかったり、掲載を断られた物もあった。ちなみに、本書に記載の記録は全て故人の物であることを確認済である。
彼ら彼女らが何を思い、何を考えながら記録を残したのか。それらは私の旅のいいアクセントになってくれたし、いい思い出にもなってくれた。
この本が出版されるころには、私はまた旅に出ているだろう。
そして私の死後も、この世界はずっと同じことを繰り返すのだろうと思う。人々は剣と魔法の文明で、日常的に戦争を続けるのだと思う。何かを勘違いした日本人この世界に転生し続け、そして大多数はすぐ死んでいくのだと思う。
こんな世界でなぜ日本人転生者は自らの記録を残すのか……。今後、改めてその問いに思いを馳せるうえでも、本書は私自身にとってもきっかけとなってくれた。そして私と同じように、本書が今後も増え続けるであろう日本人転生者たちにとって、何か役に立ってくれればと思っている。
剣と魔法の異世界ファンタジーの戦場における日本人転生者の回想録 寸陳ハウスのオカア・ハン @User_Number_556
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