第8話 秘められし力
「パイパイズリズリ‼ パイズリズリ‼」
あの頭のおかしい卑猥な鳴き声!
まちがいなくエロモンスターだ!
パイズリモンキーは手足をバタバタさせて近づいてくる。
頭に❤マークが浮かんでいる!
敗北エロ! もしくは戦闘エロがあるぞ!
「気をつけろ! エロモンスターが発情状態だ!」
俺がそう叫ぶと、リンが困惑したように言う。
「へっ⁉ あれエロモンスターなのか⁉」
「頭に❤マークが浮かんでいるだろう!」
「なにもねーけど……❤マークが浮かぶモンスターなんて聞いたことねぇよ」
「なんだって? 普通はモンスターの頭に❤マークが浮かばないのか⁉」
そんな転生者っぽいやり取りで気づいた。
もしや、これが俺の転生特典とか⁉⁉⁉
…………微妙すぎるな‼‼‼‼
頭をちょっと抱えてしまった俺に、信じられないものでも見るようなリン。そうやってゴダゴダしていると初手が遅れてしまう。
そのあいだ、アルルが戦うために前に出た。
「リン君! 私が牽制するからその隙に仕留めて!」
「お、おい! アルルは精霊のストック数がまだ回復してないだろ⁉」
「【火の呼び声】よ、来て! ……あ」
精霊術【火の呼び声】。
文字通り、火系の術だ。
ただ火で焼きつくすような術ではなく、対象に火炎球をまとわりつかせる術。それにより継続ダメージを与える。
精霊術は基本的に補助、搦め手が多い。
アルルは両手をかざしたまま、笑顔で固まっていた。
「あ、あははー」
「笑ってごまかさない!」
リンのツッコミよりも大きく、パイズリモンキーが叫んだ。
「パイパイズリズリ! パイズリズリ‼」
パイズリモンキーは興奮したようにアルルに突進する。
アルルのパイにズリズリする気だ!
「パイズリーーーーーー!」
「きゃっ……あれ?」
パイズリモンキーはアルルの胸にかるーくソフトタッチした。それで勝ったとばかりに両手をパンパンと叩いて大喜びしている。
アルルが耳まで一気に赤くなった。
「ひゃうわぁっ⁉」
かるーく胸をタッチされたアルルは、行動不能になってしまう。
そ、そういえばエロモンスターも最初はセクハラ攻撃程度だったな。スラム王でフラグを立ててからガチエロ攻撃になるが……。
よかった……いや、よくないわ!
「おのれええええええ! アルルの胸はリンのものだぞ‼‼‼」
「オレのものじゃねぇよ⁉」
「だ、誰のものでもないですよ⁉ しいていうなら私のです‼」
甘酸っぱいような、全然そうでもないような、アタワタした空気になる。
すると男たちが邪魔だと思ったのか、パイズリモンキーは俺にめがけて全力で石を投擲してきた。
あぶなっ……⁉
顔面に直撃するかと思いきや、リンが双剣で石をはじく。
「大丈夫か‼」
「す、すまない! 助かった!」
リンがちょっとだけ笑みを浮かべる。
疑っていても、ここぞのときは自然体で助かける。そういった人間だからこそ推せるのだ!
リンは双剣を深く構える。
「そこの生涯おっちょこちょい! 後ろに下がってろ!」
「は、はーい……」
「……万が一のため傷薬の準備はしていてくれ! いくぞ、エロ猿!」
リンは幼馴染にフォローを入れつつ、低姿勢で駆けた。
パイズリモンキーの投石を避けて、一気に斬りかかる。
「せやああああああっ!」
十字を描くような斬撃が決まり、リンはふうと息を吐く。
たしかに斬撃は決まった。決まったのに、パイズリモンキーは倒れていない。それどころか無傷だ。
斬撃が当たる直前、空間が歪んだように見えた。
「リン! 気をつけろ! 斬撃が当たったのに当たっていない‼」
「リン君! 乱数神パーセントの悪戯です!」
乱数神パーセントの悪戯?
……もしかして通常攻撃に命中率が設定されているのか⁉
同人RPGの専用エディターでは『通常攻撃に命中率95%。ミス率5%』がデフォルトで設定されている。知らない人はそのままの設定でゲームを作るので、プレイヤー側にはストレスになることもある。
なにせ5パーセントはわりとはずす。
だから通常攻撃を必中にしたり、味があるからとミス率を設定したままの人がいる。
とうらぶは後者。
1パーセントの確率で通常攻撃がミスると、開発者ブログに書いてあった。
「パイズリズリーーーーー!」
パイズリモンキーが牙を剥きだして、リンに襲いかかる。男にはエロなしで、殺意をこめて攻撃する気だ。
倒したと思って気がぬけていたリンは、構えがおくれていた。
あのままじゃあマトモに食らうぞ!
そう思った瞬間、身体が軽くなった。
「っ⁉」
視界が一瞬で切りかわり、強風が巻き起こる。
強風は、俺が起こしていた。
一歩踏みこんだだけなのに十数メートルもの距離を一気に詰めていて、いつのまにかリンを脇に抱えていた。
??? これ、俺の動きか???
「ア、アンタ、助けてくれたのか?」
リンが驚いた表情で言った。
そうだと言ってやりたいが、あまりの超スピードで自分でもなにがなにやらで。
「パイズリィ……?」
パイズリモンキーも事態がよくわかっていないようだ。
ただ、1人になったアルルを見かけてニタリと笑う。
セクハラ攻撃をするつもりか⁉
「甘々ラブラブの欠片のない者め……っ!」
俺はリンを地面に置いて、バビューンともう一度高速移動する。
勢いそのままにパイズリモンキーの腹に膝を叩きこむが、苦しむ程度で倒れていない。
ダメージがほとんどない⁉
つまり、今の身体は超スピードタイプってわけか!
ならっ!
「はあああああああああああっ!」
俺は拳の連撃を叩きこむ。
釘打ちのように超高速で叩きこむことでパイズリモンキーは地面で悶絶して、そのまま動かなくなった。
「エロモンスター……滅ぶべし!」
俺が肩で息をしていると、リンが素早く近づいてくる。
パイズリモンキーが滅されたのを確認してから、リンがにっかりと笑った。
「アンタ、すげーじゃん! 有名な冒険者だったとか?」
「……俺も自分で驚いている」
「ふーん? ……ありがとな。油断していた。助かった」
「いやあ俺も油断していたし、お互い様だ。助かったよ」
「……怪しい奴が爽やかにしてんじゃないっての」
少しトゲのある言い方のわりに、リンの笑顔はやわらかい。
シニカルなようで性根が優しい子なんだよなーと思い出していると、アルルが申し訳なさそうにツツーと歩みよってきた。
「男同士って、いいですねー」
「お。役立たず」
「あー! リン君! ハッキリ言いましたね⁉ 術のストックさえあればですね!」
「はいはい、わかっているっての」
リンは首をかきながら苦笑した。
二人のやり取りは全然変わらない。
お互いを信頼しているのがわかる。
やっぱり異物である俺が一緒にいるべきじゃないなと考えていると、パイズリモンキーが全身から黒い煙を吐き出していた。
モンスターが黒い煙を吐き出すって、ゲームでもなかったぞ?
なんだなんだと思っていると、リンが困り眉になる。
「あっちゃー、豊穣神データに嫌われたか」
「なんだそれ?」
「豊穣を司る神だよ。モンスターを倒したとき、大地の穢れになるなら死骸を消す。素材として恵みを与えるなら死骸を残したり、使える素材だけが残ったりする。たまに便利なアイテムになったりもするな」
「……そういうことか」
「うん?」
リンは首をかしげていたが、俺は世界のルールをだいたい理解した。
ゲーム的な都合はだいたい神々のせいとなっているんだ。
神々の御業ならそこに理由は求めても、不自然だとは思わないのだろう。
リンが探るような視線でいたので、俺は話をそらす。
「ところでさ、二人はこんなモンスターが湧く森になにをしに?」
精霊術のストックが切れるまで探索していたようだが。
俺の疑問には、アルルが答えた。
「それはですね、万病に効く花を採取してきてほしいと依頼を受けまして」
「厄介な場所にでも咲いているのか?」
「なんでもモンスターの頭に咲いているとかで――」
きゅいいと可愛らしい鳴き声が茂みから聞こえる。
俺たち三人は顔を合わせ、茂みをゆっくりのぞく。
「きゅいいい……」
頭に花が咲いている子狐のようなモンスターがうずくまっていた。
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敵か味方か、それともエロモンスターか。
まだちょっとだけ世界観のお話がつづきます。
作品の概要ページから☆☆☆などで応援していただける……それですごく喜ぶ作者がたしかに存在するのです! そう! 今、ここに!!!
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