第2話 NTRの理由

 支援サイトをひらいた俺は『とうらぶ』さんのブログにつなげる。

 イノセントブルー2の最新お知らせが公開されていた。


「これだ……!」


 俺はかすれる視界でお知らせを読んだ。


『イノセントブルー2のNTRネトラレ展開について。


 このたびはイノセントブルー2をプレイしていただき、また発売にいたるまで作品にご支援、ご興味、ご尽力いただきまして本当にありがとうございます。


 表題のとおり、イノセントブルー2のNTR展開についてご報告がございます。

 ユーザー様の多くは【前作は甘々純愛だったイノセントブルーが、どうして続編ではNTRものになったのか】と疑問に思われたでしょう』


「そ、そのとおりだわ‼」


 俺は画面に飛びこむように顔を近づけた。


『NTRは同人界隈では多くのユーザー様の支持を得ております。では市場のウケを狙ったのかといえばそうではなく、のです』


「は?」


 信じられない文面が俺の網膜に焼きついた。

 精魂尽き果てていたのに、煮えたぎるヘドロのような感情が湧きあがる。


『イノセントブルー1では親世代の甘々純愛を描く。そして子世代でさらなる甘々純愛を描いて……からのNTRを最初から予定しておりました』


「は…………?」


『何十時間もの甘々純愛を描いてからなら、最高のNTRが生みだせると思ったのです』


「1と2の甘々純愛は……ただの前置き……だった?」


『製作期間は何年にもおよびましたが、最高のNTRをお届けできるのではと思い、ただただこの瞬間のために制作してまいりました』


 1の甘々展開も幸せエンドも、アルルとリンの甘ラブ冒険活劇も、すべてNTRのための前フリでしかなかったのか……?


 かすむ視界がぐにゃりぐにゃりと歪む。

 流す涙が枯れたとき、人は血の涙を流すのだと俺は生まれて初めて知った。


『いかがでしたか?』


「いかがでしたかじゃねぇよ⁉ アルルとリンの想いはどうなる⁉」


『NTR耐性のないユーザー様におかれましては、深く傷ついたと思われます』


「俺の傷なんてどうでもいいわ! 二人の傷はどうなる⁉ あれで終わりか⁉ 探したんだぞ⁉ 幸せになれるエンドをよぅ⁉⁉⁉」


『その傷はいずれ快感へとかわる。それがNTRなのでございます』


「欠片も勃ちやしねぇわ‼‼‼」


『イノセントブルー2~アルルの穢された冒険~。返品を望むユーザー様がいら――』


「ふざけるなっ‼‼‼‼‼」


 俺はノートPCをぶん殴り画面をバキリと粉砕する。拳から血がぼたぼたと流れていたが、痛みは微塵も感じない。


 視界が点滅しているし、脳が焼け焦げたかのようにジンジンとする。

 それでも切り裂かれた心の傷よりずっとマシだった。


「うぉおおおおおおおおおおうう……! アルル……! リン……!」


 嗚咽のような声でうおんおうんと叫んだ。


 アルルとリンは架空の存在?

 二次元の存在だろ???

 ちがう! 二人のやり取りで俺の感情は大きくゆれ動いた! 二人の甘あまトロトロ展開に幸せな気分で満たされていた!


 まごうことなきラブラブちゅっちゅっがあったんだ‼

 なのになのになのになのになのに‼


「ゆるすまじNTR……! 絶対にゆる……」


 そこで俺は意識を失いかけた。


 2日前からなにも食べず、ぶっとおしでゲームをやっていたことに気づく。空腹と脱水状態でか、ひどくクラクラした。


「な、なにか胃にいれなきゃ……」


 這いつくばって冷蔵庫まで進むがなにもない。

 俺はよろよろと立ちあがり、オンボロアパートの自室をでる。


 あたりはもう真っ暗。3日目の夜となっていた。


「アルル……リン……」


 人生で何度も辛い目にあってきた。

 だからこそ、甘々イチャラブは俺の支えなのだ。生きる糧だったのに。


「許さない許さない許さない……」


 アパートの階段をおぼつかない足で降りていく。


 あのスラム王も、貴族も、醜悪なモンスターも、殺したいほど憎々しい。

 とうらぶもどうにかしてやりたいが、性癖は個人の自由だ。ふいうちNTRは今すぐ殺したいほどに忌々しいが。


 だからこそ、許さないのはNTRそのもの。


「ゆすまじNTR! NTRなんて俺がこの世から滅ぼしてやる……‼‼‼」


 そう力みすぎたのが悪かった。


 疲労困憊で叫んだせいで、意識をまた失いかける。

 俺は足を踏み外してしまい、階段を勢いよく転がっていき、そして後頭部を強くたたきつける。


 ざんねん。俺の人生はここで終わってしまったようだ――


 ――――

 ――

 ―


 ……俺は、誰だっけ?


 そんな馬鹿みたいなことを考えた。


 ここはネトタリー世界。

 王都ベニスの大通りだ。

 煌びやかな目抜き通りの隅っこで、影に隠れるようにして清掃の仕事をしていたはず。


 うっすらとした記憶を探る。


 俺の両親はモンスターに襲われて、子供の頃に亡くなった。

 雑用やたまの冒険家業で食い扶持をつなぐ、ただの平凡な男のはずだ。


「年齢は20。名前は……名前が思い出せない……」


 名前なんか最初からなかったように記憶から抜け落ちている。

 ちゃんと名前があったはずなのに、それは本当の俺じゃないみたいな。妙な感覚だ。


「っ……!」


 頭がズキズキと痛い。俺は地べたに座りこんでいたようだ。

 清掃中に足をすべらせてしまい、頭をひどく打ったらしい。


 それで記憶をなくしたのか??? 


 だが、なにかを思い出しかけているような……わからない、わからないわからない。


「お兄さん、大丈夫かい?」


 恰幅のいい女性が声をかけてきた。

 地面でへばっていた俺を心配したらしい。


 俺はなんでもないように立ちあがるも、頭痛で顔をしかめてしまった。


「あらあら、大丈夫かね?」

「は、はい、なんとか……」

「気をつけなよ。最近は路地裏でも【※※ん※スライム】がでるらしいから」

「え。……今、なんて?」


 聞き間違えかと思い、俺は食い入るように見つめた。

 よほど変な顔をしていたのか、恰幅のいい女性は不思議そうに言う。


「最近は路地裏でも【】がでるってさ」


 ファンタジーな世界観を気軽にぶち壊す、この品性下劣なワード。


 ここはエロ同人ゲームの世界だ‼‼‼


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ふいうちNTR。ダメ。ぜったい。


過度な表現はひかえますが、題材が題材のためレーティングにひっかかり、作品を突如削除しなきゃいけなくなるかもです。その際はご容赦くださいませ。


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